< 2023年9月 店主の独り言 >

 コロナも落ち着き、8月、東京の家内の実家に帰省して来ました。

 ついでに温泉好きな家内が探した山梨の増富温泉・津金楼さんにも行って来ました。茶系の粘土色した温泉の湯舟は2つあり、源泉そのままで約30度のぬるいお湯と、加温した40度程のお湯。まず温かいお湯で体を温めてから冷泉に10分程入っていると、冷たさに体も慣れてきます。体が冷えて来ると再び40度に入って体を温め、また冷泉につかるのを3度程繰り返すと、茶色で塩気と炭酸混じりの成分とラドンが体に吸収されているように感じられます。

 湯治の後は東京に戻り、家内と代々木の明治神宮へ。繁華街JR原宿駅の裏側に位置する神宮の広さは驚きの73ヘクタールで、広いと思っていた北海道神宮18ヘクタールの約4倍。広大な森の中心に本殿があり、他に様々な施設が神宮内に点在しています。丁度お盆の時期でしたが、参拝者の6割以上が欧米、アジア圏からの海外の方々でした。この中を3時間程かけてゆっくりと散策し、楽しみな夕食の為にお腹を空かせます。

 今回の旅行、家内の希望は増富温泉で、私の希望は銀座のレストラン・マルディグラでの食事でした。この店のオーナーシェフ和知徹(ワチ・トオル)さんは「肉の巨匠」と呼ばれ、塊のお肉を絶妙の焼き方で料理し、多くの場合、塩・コショーだけのシンプルな味付けで提供しています。和知シェフの料理本を見ていると、可愛いキューピー人形の様なシェフの笑顔を見ながら、ソースに頼らない大胆な料理を食べたくなり、その夢がやっと叶いました。

 まず店内に入って意外だったのが、肉料理で知られるお店なので、体育会系のゴツイ男子が多いと思いきや、センスもスタイルも良い今どきの若い女性同士のお客様が半分以上でした。彼女たちはそれぞれステーキを頼み、取り分けもせず楽しそうに料理を食べています。私たち夫婦も負けてはいられません。私は牛赤身肉のイパネマステーキ(5500円)、家内は鴨のステーキ(3500円)を頼みました。料理は表面が軽く焦げて香ばしく、厚みのあるお肉をナイフで切って食べると、柔らかいだけではなく少し歯応えのあるお肉は噛む度に肉の旨味が堪能できます。そして頼んだワインは当社でも扱いのある、フランス・シュドウエスト地区マディラン村のシャトー・モンテュス赤2017年。ワインはタナ種主体の力強く複雑な味わいと肉の旨味が相まって、素晴らしいひと時を楽しむ事が出来ました。

 マルディグラは銀座のレストランですから安いお店ではありませんが、私にとっては憧れのシェフの美味しいお肉料理が食べられて大満足でした。さてコスパを重視する私なので、もう1軒は安くて美味しいお店を紹介します。場所は新宿駅ビルのルミネ・エスト地下1階のビア&カフェ・ベルク。JR改札口の横にあるお店は立ち食いソバ屋さん程の広さで、朝の7時から23時まで営業しています。ここの美味しいホットドックと、ビールのセットが1000円程で朝から晩まで楽しめます。毎日1500人が来店する大繁盛店で椅子席が空いていることはほぼ無く、多くの場合、決して広くはない立ち飲みカウンターでの食事になりますが、女性も立って食べているのを見ると、大都会・東京のダイナミックさを感じる事が出来る事でしょう。マックの様なチェーン店ではなく、個人店で超忙しいお店ですから当然セルフサービスで、注文の仕方等に独自のルールがあります。初めての方はまず、店の外にあるメニューで頼むものを決めてから、注文する列に並び、前の人の頼み方をよく見ていないと戸惑ってしまうので注意が必要です。ただここでスマートに頼めて、5分ほどで食べ終え、自分で食器を下げることが出来ると、勝手な思いですが自分も東京人の仲間入りが出来たと少し嬉しくなります。今回の2軒は共に個性的で、万人が気に入る店では無いのかもしれませんが、僕にはお気に入りのお店です。

< 2023年 8月 店主の独り言 >

 7月、私は生まれて初めてサーカスを見に行きました。

 家内は小さな頃、おじいちゃんやお父さんに連れられて何度かサーカスを見に行ったそうです。子供の頃だけど面白かったから、一緒に行かない?と言われた時は正直、驚きました。僕は実物は見たことは無いけど、ゾウさんや空中ブランコでしょう。それって子供向けじゃないの?と言いましたが、僕には次の休みの代替案が出せなかった為、サーカスに決定です。

 休日の朝10時の開演に合わせて10分ほど前に到着。すると、僕らとは逆にテントから戻ってくる人が何組もいます。その後、切符売り場に行って分かったのですが、満員で自由席は完売して割高な指定席しか残っていませんでした。折角ここまで来たのだからと、入場料の他に2000円の指定席を2枚購入して中に入りました。

 途中休憩20分を含んだ2時間10分のショーは予想を遥かに超えた出来で、あっという間に終わってしまう程に楽しめました。ステージの上は動物だと仔馬さん、ゾウさん、ライオンさん、人間は綱渡り、曲芸、手品、オートバイショー、空中ブランコが次々と行われます。しかも、本物の動物や人間が5~10メートル先で緊張しながら曲芸をしていると、こちらまでそのスリルが伝わります。綱渡りの綱はしなり、綱の上にいる人間も時々ぐらつくと、進むのを止めて体を立て直し、また一歩、また一歩と歩み始めると、あたかも自分が綱の上を歩いているような気分になります。

 この臨場感に大人も子供も虜になってしまうのでしょう。さて、ショーが終わり帰る際に座席を見ると、指定席のシートは一席ずつクッションと浅い背もたれが付いていますが、自由席は幅15センチ程の長い板の上に薄いカバーが掛けられた座席でした。そして自由席の方で何人かは座布団を持参されている人がいらっしゃいました。指定席のシートは見た目以上に快適でお勧めしますが、子供さんが何人もいらっしゃるご家庭では、座布団を持参した方が快適にショーを楽しむことが出来るでしょう。そして、この木下サーカスは10月まで公演を行っています。私の様にまだ見たことが無い方は、一度行ってみる事をお薦めします。それと、日、祝日は込み合うので、1時間以上前から並ばないと満員の可能性がございます。最後にワインショップフジヰに割引券がございますので、気になる方はどうぞお持ちください。

< 2023年7月 店主の独り言 >

 先月は伊達で始まった、葡萄畑のお話。

 そして今月は空知地区のあるワイナリーに用があり、近隣のワイナリーも一緒に当社の花かつおを手土産に持って回って来ました。札幌から岩見沢で高速を降りて234号線を南に走り、街道を左に曲がると「中澤ヴィンヤード」さん。街道を更に進むと「近藤ヴィンヤード」さん。次は西に向かって30号線を超えて登って行くと、栃木のココファームが始めた「こことあるヴィンヤード」さんの畑が広がり、さらに上ると「わいん畑うらもと」さん。30号に出てタイヤマン人形を左に曲がると「10R(トアール)ワイナリー」さんと「イレンカ・ヴィンヤード」さん。

 更に30号を進むとランチに最適なブッフェ・レストラン「大地のテラス」をすぎて、30号は交差点を右に曲がりそのまま北東へ進むと左に「宝水ワイナリー」さん。更に30号を進み美唄三笠線を右に曲がって行くと達布山に向かって道は登りになり、達布を左に曲がると濱田さんと宮本さんの「ドメーヌ・タプコリーヌ」さんと、その先の右には「山﨑ワイナリー」さん。戻って真っすぐ進むと左手に山﨑さんの畑があり、その先に「タキザワ・ワイナリー」さんと、近藤さんの「タプコプ・ヴィンヤード」さんがあります。この30号線は空知のグランクリュ街道とも言えそうな道。

 伺ったのは5月の末で、各ワイナリーさんは春と共に伸びて来た草刈りの真っ最中でした。この時期の草刈り、畑の掘り起こしと言えば話題の中心は「近藤ヴィンヤード」。ここでは2019年から厚真町の馬搬(バハン)林業家と協力して、馬耕(バコウ・馬が農具を引っ張って、畑の土を掘り起こす作業)を始めています。でも同じ畑の葡萄で、トラクターが耕(タガヤ)した葡萄と、馬耕栽培による葡萄でワインを造り、両者の味わいが明確に違うとは思えません。しかし近藤さんは「葡萄にとって、健康で、快適な環境で育てられたものであるかどうか」を考え、そのために世話をする人間が、少しでも葡萄が快適に育つ様に手段や方法を考え続けているのです。

 近藤さんによると、馬耕により重たいトラクターのタイヤで踏み固められた畑は馬の足跡だけになり、土壌への踏圧負担は減って地中に適度な空気の供給が増え微生物が活発になる事で徐々に土が柔らかくなって来たそうです。しかし効率は下がるわけで、トラクターだと2時間で終わる作業が、馬ですと2頭を交代しながら行って丸一日掛かるそうです。

 その後、10Rさんの畑に伺うと奥さんが居ません。でもお隣のイレンカさんの前に「マキタ電動工具」と書かれた大きなワゴン車が止まっているので行ってみると、畑の中で2軒の女性にマキタの営業の方が電動草刈り機の実演を行っています。バッテリーとモータが大きな強力タイプと、軽くて取り回しが楽な軽量タイプ、更にカッターの刃が金属製と樹脂製とを、二人は交互に試していました。商談の途中で私が別のワイナリーさんの話をしたら、マキタの方は私もワイナリーの人だと思ったらしく名刺をいただきました。私はワイナリーさんから仕入れて販売している酒小売店ですと話したら、お詳しいので勘違いしましたと笑っていました。

 そして、この日の最後に濱田ヴィンヤードに伺うと、お父さんと息子さんが手に鎌を持って草刈りをしていました。先ほどの電動農具の話をしましたら、農作業は場所や時期によって、トラクターや、電動器具、鎌等を使い分けて行っていると話されていました。北海道には現在、沢山のワイナリーがあり、各ワイナリーではそれぞれ理想のワインを目指して、様々な手段や方法で日々作業をしている事が改めて分かった一日でした。

< 2023年 6月 店主の独り言 >

5月に家内と白老・虎杖浜温泉に行って来ました。

泊まった「ホテルいずみ」は食事も良かったですが、1番は少しトロミのある温泉で肌がツルツルになる素晴らしいお湯。翌朝、せっかくここまで来たのだから、近所にどこか面白そうな所はないかと検索していて思い出したのが近隣のワイン産地。確かサントリーさんが伊達でワイン用葡萄の栽培を始めた事を思い出して検索してみましたが、サントリーのホームページからは畑の住所が見つかりません。色々詮索していると、「伊達市(ダテシ)乾町(イヌイチョウ)」が出て来たので、ダメ元でもと思いながら車を走らせました。乾町に着き辺りを走っていると、針金に固定された葡萄の木が並ぶ畑を見つけ、農作業をしている方に聞いてみると正に「ビンゴ!」

サントリーが1983年に購入した、ボルドーの名門シャトー・ラグランジュ。スペイン系の前オーナーが世界恐慌や戦争で経済的に没落し、荒廃していたシャトーでしたが、サントリーが引き継いで購入額の数倍ものお金をかけて、畑、醸造設備、シャトーの建物等を整備した事で評価をどんどん上げ、今ではグラン・ヴァン(偉大なワイン)としての評価を受けています。現地で日本人のトップとして現場を指揮したのが、初代は鈴木健二氏、二代目は椎名敬一氏で、お二人とも数年ごとに札幌でセミナーを開催して本場のワイン造りの話を聞かせていただきました。

2020年からラグランジュでその任を引き継いだのが桜井楽生(サクライ・ラクサ、※逆に読んでも同じ名前)氏。今回アポなしで伊達の畑に伺い、声を掛けた方がその桜井さんご本人でした!なんでもシャトー・ラグランジュ2022年産のプリムール(新酒)発表会を現地のボルドーで終えて、少し休暇が取れたので日本に帰り、葡萄の様子を見に伊達に来て農作業をしていたところだと言うのです。桜井氏は2009年から山梨のサントリー登美の丘ワイナリーで勤務をされていたそうですが、2014年頃から山梨以外の日本でのワイナリーの可能性を感じて日本国内各地のデータを集め、6年かけて選んだ地が北海道伊達市でした。

道内各地のワインを販売している私は、果樹産地としてアドバンテージを持つ余市、あるいは十勝、岩見沢、函館等ではなく何故、伊達なのかを真っ先に伺いました。すると赤ワイン、白ワインを造るなら余市か岩見沢を選んだかもしれません。でもあの積雪量から葡萄の木を収穫後に地面に寝かせて雪の下で越冬させ、春には木を起して針金に固定するという作業が葡萄にとって良いとは思えなかった。一方で伊達は、雪は少ないが積算温度はどこよりも低い。そのため、糖度が十分上がらず、毎年安定して良い赤ワインや白ワインがつくれるとは思わない。

そこで視点を変えて、スパークリング・ワイン(以後は泡と表記)ではどうか。泡はアルコール発酵の後、泡を得る為に二回目の発酵も行います。収穫時の糖度が高いと、二回目の発酵後にアルコール度数が高くなりすぎるので、泡用の葡萄は糖度が上がりすぎる前に収穫します。例えば、伊達であれば、赤、白ワインをつくろうとすれば、糖度21~22%を目指して収穫を10月中下旬まで無理して待たなければなりません。しかし、泡用の葡萄は糖度が20%以下で収穫する為、2週間以上早い10月上旬、葡萄の品質にとって最適なタイミングで収穫することになります。

昔から醸造学の世界では、「秋の終わり熟した葡萄」からは、葡萄由来のフレーバーが多く生まれることが知られています。本場シャンパーニュでは、9月前半から収穫を始めます。すなわち、ブドウ由来の味わいに頼りすぎないワインづくりと言えます。早めに収穫した葡萄はフレーバーは少ないかもしれませんが、果汁の良い部分だけを惜しみなく使うことでエレガントなワインをつくり、そこへリザーブワインと呼ばれる何年も熟成させた秘蔵ワインを高割合で加えることで、味わいに厚みと複雑さがもたらされます。長い歴史をもつシャンパーニュだからこそできる素晴らしい製造方法ですが、私たちのようにこれからワインを造り始める新産地ではリザーブワインはありません。私たちの産地では、リザーブワインがない代わりに、10月に収穫する完熟葡萄由来の風味があるはずです。それを活かして、シャンパーニュとは違った個性のスパークリングワインを生み出したいと話していました。

リザーブワインに頼らずに遅摘み果実の複雑さを生かした、独自な泡が伊達で出来るであろうと考えた桜井氏は、サントリーの社員としてフランスのシャトー・ラグランジュで働きながら、伊達に畑を購入して自身のワイナリー設立に向けて動き始めているのです。太平洋沿岸部の冷涼さを逆手に取った桜井氏の賭けはどう出るか?私はその答えを知りたくて今、ウズウズしています。ここはまだ畑しかなく、今後収穫した葡萄は道内のワイナリーで委託醸造するとの事。今後も目が離せない産地がまた見つかりましたので、進展があれば逐次ご紹介させていただきます。

< 2023年 5月 店主の独り言 >

 今月は珍しくBar(バー)のお話し。

 私は時々、残業のお供に南部せんべいや、ひねり揚げなど袋菓子を狸小路のドン・キホーテに買いに行きます。この前も袋菓子を探していると、壁に「ドンキが始めた酒屋Bar HANASAKU(ハナサク)開店!」と貼ってあります。これから残業だけど、ビール1杯ぐらい試してみようかと寄ってみました。場所はドンキの地下1階で南3条通り側の角。地下2階の酒売り場には沢山のビールがありますが、バーにビールは3種類しかありません。でも、初めて見たチェコのピルスナー・ウルケルで樽ビールがあったのでオーダーしました。下面発酵ビールの爽やかさと、香ばしいホップの風味はそのままですが、瓶入りよりもクリアでシャープな味わいに寄り道した甲斐がありました。

 下面発酵のビールは爽やかでのど越しが良いのですが、次は香り豊かな上面発酵のビールも飲みたくなりました。メニューを見てスコットランドのエール(上面発酵ビール)でブリュードックを頼みました。まずは香りが豊かでアールグレイの紅茶を思わせます。ふくよかなコクもあり、やっぱり2杯目は上面発酵がいいねと楽しんでいました。ところで1杯目は気づきませんでしたが、ビールを頼むとお店の方は大きな引き戸の冷蔵庫を開けて、最上段の棚に冷やしてあるグラスを取り出します。そしてタップと呼ばれる樽ビールのレバー下の注ぎ口にグラスを置いて注ぐのですが、このタップも冷蔵庫内の上段にあり、注ぎ終えると引き戸を閉めます。冷蔵庫の下段にはホースでつながった樽ビールがあり、つまり樽ビールも、ホースを含めた配管も全て冷蔵庫の中なのです。

 今どきのお店で樽ビール用のタップはバーカウンターの上に立っていたり、壁に何本か並んでいて目の前でビールを注ぎます。でも考えてみると樽から出て配管内に残ったビールは室温になる訳です。ですから味にうるさいお店では、注ぎ口から出たビールの始めの1秒分位はもったいないですが流しに捨てて、途中からグラスを置いて次ぎ始めます。でもここでは、樽も配管も注ぎ口も全て冷蔵庫の中なので、低温で管理されているわけです。更に冷蔵庫内の樽を見ると、よくある金属製のずんぐりした樽以外に、透明なペットボトルの大きな樽があります。調べると「キーケグ(KeyKeg)」という新素材の樽で、大きなペットボトルの中に銀色の袋が入っていて、その袋にビールが入っています。これは段ボール箱入りワイン(バッグ・イン・ボックス)と同じ構造で、病院の点滴と同様に中身の液体が減ると袋がしぼんで空気が入らず、酸化が少ない優れモノの容器なのです。

 結局一杯のつもりが二杯になり、この日は店に戻っても仕事が出来ずに仮眠をしてから残業を始めました。しかし飲食店の樽ビールもどんどん進化している事を知り、実りの大きい体験でした。実はここのバー、日本酒と焼酎が主体のお店なのですが、この樽ビールは絶対にお勧めです。

< 2023年 4月 店主の独り言 >

 先月はワイン会のお話で、今月はワインセミナーのお話し。

 2月の末にニュージーランドのセントラル・オタゴからリッポンワイナリーのオーナー、ニック・ミルズさんが札幌に来てセミナーを開催しました。元ニュージー・ナショナルチームのスキー選手だった彼はヒザを痛めた為に競技を辞めてフランスに行き、4年間仏ブルゴーニュ地方ヴォーヌ・ロマネ村のジャン・ジャック・コンフュロン、DRC、ニコラ・ポテル、その後はアルザスで研修し2002年に実家のワイナリーへ戻ります。そして当時のニュージーランドではまだ少なかったビオディナミ(バイオダイナミック)農法と、灌漑をしない葡萄栽培を始めました。

 このビオディナミ栽培とは有機栽培の1種なのですが、化学的な農薬と肥料を使わず、月や惑星の動きと植物成長の調和、動物との共生、独自の調合剤の使用等を特徴としています。セミナーの中で、リッポンワイナリーを紹介するための簡単なプロモーションビデオを観ましたが、畑の横で薬草類に水をかけて発酵させたり、土に埋めて独自の調合剤(プレパラシオン)を作って畑に散布している様子が映っていました。その後6種のワインをニックさんの説明を聞きながら試飲をして、質疑応答となりました。

 何人かの質問の後に、私も手を上げました。私は先ほどの映像を見て、「スタッフと共に畑の横でプレパラシオンを作っている姿に感動しました。ただ、フランスでは最近、大きなホームセンター等でビオディナミのプレパラシオンが販売されていると聞きましたが、そういった事はどう思われますか?」と質問しました。正直、私は「そういった安易な方法でビオディナミ栽培を始めても効果は期待できない」と言った答えを期待していました。するとニックさんは、どんな方法でもいいと思う。まずは今までの慣行農法に疑問を感じ、出来る所から始めてみて一歩でも前に進んでみることが大切だと思う。ビオディナミ農法は細かな取り決めが沢山あるが、20年続けてみて最近感じたことは、取り決めを一語一句守る事よりも、この畑の中で出来た薬草や動物のたい肥を用いて調合剤を作り、それを再び畑に散布することで畑の中で生命が循環され、土や微生物、動植物がより活発に活動を始めることが分かって来たと答えて下さいました。

 私の安直な考えを覆す、寛大で、懐が広く、明るい展望を持った答えにちょっと自分が情けなくなりました。ニューワールド産ワインの多くは、目標としているフランスの名産地の味わいを模倣したようなスタイルが多いのですが、ニックさんのピノ・ノワール種のワインは、例えばヴォーヌ・ロマネ風とかではなく、骨太な骨格を持った果実味と樽の風味が調和した独自のスタイルを持っています。ニックさんがワイナリーを始めて20年程ですが、このセミナーに参加して北海道のピノ・ノワールの一歩先を行っているのが分かりました。現在、北海道の各地でピノ・ノワールがどんどん栽培され始めています。もちろん最初は何事も模倣から始まるとは思いますが、ゆくゆくはその土地独自の味わいを目指して行く事を忘れては一過性に終わってしまうということを気づかされました。そう思うと、生産者の人柄と出来上がったワインの味わいとは共通する何かがあると感じました。

< 2023年 3月 店主の独り言 >

 今年の2月には道産ワインの大きな試飲会が、3年ぶりに2件開催されました。

 一つは比較的大手の生産者さんが集まる、道産ワイン懇談会が主催で、ロイトンホテル札幌で開催される「北を拓く道産ワインの夕べ」。もう一つは札幌京王プラザホテルで開催される、小規模でも個性的な生産者が集まる「ワインヘリテージ」が、コロナの落ち着きと共に3年ぶりに開催されました。コロナが猛威を振るったこの3年間は生産者さんとのやり取りはメールが主体で、試飲会やイベントなどでリアルで話す機会がないと、何となく一方通行感を感じていました。

 それが生産者と直に話が出来ると、昨年の天候とか醸造の話が直ぐに返事が聞けて、味わっているワインの理解度が高まります。また、ワインヘリテージのパーティー前に行われる、ワインとチーズの生産者によるパネルディスカッションで司会を行っていた、ワインライターの鹿取みゆきさんが、全国各地のワイナリーと共に「日本ワインブドウ栽培協会」(以下JVA)を立ち上げ、活動を始めたと発表されました。この協会はワイナリーが葡萄栽培に関わる問題点を共同で改善して行こうという協会なのですが、特に近年問題になっているのが、葡萄苗木のクローン指定が出来ないという点です。これは少々説明が必要なのですが、私たちはワインを選ぶ際に何という葡萄品種なのかを重視しますが、その品種が果たして何処から来た、どんな血統の品種かというルーツを明確にしようという動きです。

 ピノ・ノワール種等のヨーロッパ系葡萄の起源は古く、突然変異等を経て同じ品種でも国や、地方、あるいは村によって、性格が少しづつ異なって来ました。元は同じ品種でも、今では性格の異なる兄弟葡萄たちを別の品種と扱い、数字やアルファベットで管理する様になったのがクローンです(例・115,777,Abel、UCD5,MV6、等)。フランスとアメリカでは、オリジナル・クローンの管理を国の機関が厳格に行っていますが、日本の苗木商では新品種の需要がここ10~20年で急に高まった為に、クローンが不明のまま販売が行われて来ました。

 そこで前述の鹿取さん、岩見沢10Rワイナリーのブルース・ガットラヴさん、長野ヴィラデストワイナリーの小西さん他、全国の名門ワイナリーたちが集まって「JVA」を設立し、ワイン生産者が困っている問題に一社ではなく団体の力で解決しようと動き始めたようです。現在、協会の本部は長野県にあり、協会が直接、優良なクローンを輸入して、信州大学、日本の苗木業者と連携して、希望するワイナリーへ供給できるように準備を始めているそうです。こうした働きによって、益々良質な日本ワインが全国各地で出来る様になる事を願っています。

2023年 2月 店主の独り言

 今月は今更ですが、年越しのお話し。

 何度も書いていますが、私の年越しは札幌・時計台の前(当然屋外です)で、シャンパーニュを飲みながら時計台の鐘の音を聞いて新年を迎えていました。始めた理由は、私は中学の頃まで札幌の北1条西3丁目に住んでいて、周りはビルしかない中で子供の頃は時計台裏の芝生が唯一の遊び場でした。二十歳を過ぎて偶然見たテレビで「世界各地の年越しの風景」が映っていた時、ロンドンでは有名な時計台ビックベンの周りに人々が集まり、12時の鐘と共にそこにいた車が一斉にクラクションを鳴らして新年を祝っていたのを見て、「札幌だったら時計台だ!」と閃きました。

 当時の友人と飲みながらその話をしたら、皆がその場で盛り上がって時計台での年越しパーティーが決定。私は言い出しっぺで酒屋ですから、シャンパーニュとグラスは持って行く事になりました。さて、1980年12月31日夜、一張羅の黒いスーツと蝶ネクタイに真っ黒のサングラスをして、泡とグラス1箱を持って11時に時計台に行くと誰もいませんでした。そのうち皆は来るだろうと一人で栓を開けて飲んでいましたが、屋外だとグラスから香りは全く立たず、何より寒くて膝はガクガク震えてきます。結局友人は誰一人来ませんでしたが、時計台の前は色とりどりのスキーウェアーを着た観光客が、代わる代わる来ては記念写真を撮って行きます。そんな中で一人黒ずくめの男がシャンパーニュを飲んでいると、「あの人何なの?」と声が聞こえてきます。始めは友人が来ると思ったので、周りの人にご馳走すると友人の分が無くなると思い、周りの人を無視して一人で飲んでいました。

 当時は携帯が無かったので友人を呼び出すことも出来ず、ムカムカしながら12時を待っていると、自然に10秒前からその場でカウントダウンが始まり、「さん、に、いち、」の声と共に「カーン」と時計台の鐘の音がビルの谷間に鳴り響きました。これが、私が時計台カウントダウンを始めたエピソードです。そしてこの荒行のようなカウントダウンを40年続けました。

 そして41年目の2021年大晦日、私は体調を崩し起きることが出来ずに初めて欠席し、気持ちが萎えてしまいました。2022年の大晦日は準備をしましたが、家内と息子と3人、家で紅白を見ながら時計台用のシャンパーニュをゆっくりと味わい、そして思いました。師走の忙しい中を働き終えて、家族が集まりゆっくりと過ごすひと時。最初の年に思った「約束したのに何故、誰も来ないのだ!」の答えが42年後に納得出来ました。一人暮らしや、観光の方以外は、年越しの時間は家族にとって大切な時間だったのです。そんな訳で、私の時計台カウントダウンは40年間で終了しました。でも、時計台は鐘を鳴らし続けているので、荒業をしたい方はどんどん行ってください。そして、もし行かれた方がいらしたら、私にその様子を知らせていただけると嬉しいです。

2023年 1月 店主の独り言

今月は温泉のお話。

12月の休日に息子と休みが重なり、親が望む温泉と息子が希望のアウトレットパークに親子水入らずで行って来ました。ランチは清田区北野にある「そば処大和」。元白バイ警官だった大将の打つソバは人気でいつも行列です。次はお風呂、方角的に探して見つけたのが千歳の祝梅温泉。ここの看板は、2メートル強の倒れたボーリングのピンが目印。モール温泉という地中深くにある泥炭層を通って沸いた温泉は、濃いウーロン茶色でトロッと粘性のあるお湯。40度程の丁度良い熱さと柔らかなお湯に浸かっていると、じわじわと温泉の成分が肌に浸透する感じがたまりません。

ゆっくりお湯に浸かっていると、外から引っ切り無しにジェット機のエンジン音が聞こえてきますが、これも千歳の風情と思えば気になりません。私も家内もお湯が良ければ、設備は豪華絢爛よりはひなびた方が好きなので、ここはすっかり気に入りました。しかも源泉かけ流しの温泉料金は一人350円と、札幌の銭湯より安いのです。お風呂の後は千歳ワイナリーで、醸造担当の青木さんから新しい搾汁機と、スパークリングワイン用のジャイロパレットを見せてもらいました。そして最後は息子の希望である三井アウトレットパークで締めです。

アウトレット内にある「道の駅」的なスーパー。ここがまた安く、カボチャ、葉物、レンコンなどの野菜、果物を一通り買った後に、魚売り場で見つけたのが、幅20センチ×長さ40センチ以上ある半身の大きなタラが650円!

普段行かないショッピングセンターでの買い物は発見が色々あって楽しかったです。でも何より嬉しかったのは、小さな時は何処に行くのも一緒だった息子が、小学校後半から親離れをして10年強。それが又こうして、家族3人で出かけられた事に感謝しました。僕が小さかった頃は、実家の果物屋は休みが無かったので家族で出かけることは無く、外での食事は父と、買い物は母とで。僕の両親が味わったことが無い家族全員での外出、この幸せを満喫している僕を両親はきっと天国から笑顔で見ている事でしょう。

2022年12月 店主の独り言

2022年で私は63歳ですが、札幌が市になって今年で100年だそうです。

この市制100周年の記念講演会が札幌市中央図書館で11月に行われ、札幌の出版社・亜璃西(アリス)社の和田由美さんが札幌駅前通りの街並みの変化や文化の歴史について話をされました。この講演で多くの時間を掛けたのは、1951年黒澤明監督が札幌を舞台にした映画「白痴」。私も昔に一度見ましたが、まだ白黒映画でアクションシーンもなく、娯楽映画好きな私にとっては暗く重たい印象が残っています。和田さんは街は破壊と、創造を繰り返し発展する、無くなった風景や建物は人の記憶の中にしか残らないが、こうして映画になることで、昔の札幌を今も見ることが出来るとおっしゃっていました。

また亜璃西(アリス)社が今年出版した本「さっぽろ燐寸(マッチ)ラベル グラフィティ」の中から、札幌にあるお店のマッチ箱の写真もたくさん紹介されました。このマッチは札幌の上ヶ島オサム氏が収集したもので、飲食店だけではなく旅館、商店、銀行、メーカーなど多岐にわたります。上ヶ島氏はマッチラベルだけで何と数十万枚所有し、札幌関連だけでも数千枚、今回の本には厳選した約1200枚が掲載されています。上ヶ島氏は小学校の頃からマッチを集め始めたそうですが、未成年だった自身は当然ですが両親や家族もタバコを吸っていなかったそうです、不思議ですね。

先月は、札幌の南3条通りのカレンダーのお話しで、今月もこうして地元ネタとなりましたが、皆さんにも書店で「さっぽろ燐寸(マッチ)ラベル グラフィティ」を是非見ていただきたいと思います。たった数センチ角のスペースに「店名」「住所」「電話番号」と共に描かれたイラストが皆センスが良く、和風あり、洋風あり、アールデコっぽかったり、独自の味わいが感じられます。

話は戻って映画のお話。札幌が舞台の映画で私のおすすめは、1996年の怪獣映画「ガメラ2レギオン襲来」。ススキノ十字路の角にあったデパート「札幌松坂屋」が怪獣の巣となり、ガメラと共に怪獣が札幌で暴れまくります。しかしこの建物の実際の運命は紆余曲折を経て何度も名前が変わり、最後は「ラフィラ」の名称で廃業し怪獣ではなく解体業者によって2020年に取り壊されました。もう1本はちょっとマニアックですが、1989年吉本ばなな原作の映画「キッチン」。この映画は函館で撮影されましたが、一瞬ですが札幌・地崎バラ園前にある美しい夜景で知られるBAR、「N43」さんの白い屋外通路が登場します。近年の映画では、やはり2011年からの3部作・大泉洋主演の「探偵はBARにいる」になるでしょう。

2022年11月 店主の独り言

今月は札幌南3条通りのお話し。

この3条通りは私の知る40年以上前から大箱の店舗が少なく、小さくても個性的なお店が点在しています。西1丁目には今でも語られる喫茶の名店「イレブン」がありました。物静かで強面のオーナー、日比さんが落とす当時珍しかった深入りのコーヒーと、ジャズが流れるとてもクールなお店。ところがこの喫茶店、夜の9時を過ぎると、店奥のテーブルに狸小路の店主らが集まり、神輿(ミコシ)の会「北海睦」の会議室の様になって、オジサンのたまり場状態。このお向かい西側には、今も人気で居心地の良いビアホールの「米風亭」。一昔前、夕方前のカウンターには欧米からの外人さんが集まり、ギネスのパイント・ジョッキを飲みながら英字新聞を読んでいて、まるでロンドンのパブの様でした。そして次の角を右に曲がると、今は無きおやき屋「千歳焼」。昼は白衣を着たお父さんが焼き、夕方からは映画好きな娘姉妹が切り盛りしていました。ここのクリームおやきが好きでしたが、タコ焼きも美味しくて、スガイビルで映画を観ながらよく食べたものです。

さて、札幌在住のイラストレーター・松本浦(マツモト・ウラ)さんは、街の様々な店舗や古い家を題材に作品を描いています。毎年9月には個展を開いて、多くの新作と共にイラストが載った翌年のカレンダーを発表。今回の個展に出ていた来年のカレンダーのテーマは「南3条通」。表紙は南3条西14丁目・みゆき交番の前を走る市電の除雪車・ササラ電車。1,2月は5丁目・喫茶ランバンさんと、オープン前のバーFMさんのシャッター。3,4月は何とワインショップフジヰとお隣の中山ビル。5,6月は東3丁目・八百屋の南里商店さん。7,8月は6丁目・狸小路市場。9,10月は7丁目・パンのポームさんが入っているKAKUイマジネーション。11,12月は6丁目・ビストロ・エルスカさん。

こうして当社も南3条通の仲間に入れていただき感謝なのですが、浦さんの個展にあった作品の店舗でも、「今は解体され残っていません」と書かれた建物がいくつもあってちょっと複雑な気持ちになりました。考えてみるとコロナ禍だけでなく、都市計画や、オーナーの健康状態や諸事情で5年、10年後に残っているのかは、現オーナーですら分からないとも言えます。ただ今は無くても、イレブンや千歳焼の様に記憶に残るお店と、残らないお店があるのも事実。

当時、私は夜10時過ぎに喫茶イレブンの前を通って帰宅していました。毎晩ここでは、ホールの女性が重たいテーブルと椅子を全て店の外に出して、店内を清掃していました。冬、吹雪の時でも同様にしているのを見て、長く繁盛しているお店はお客様の居ない時でも努力している姿が心に残っています。そう思うと、将来の行く末の心配よりも、お客様の心に残ってもらえるお店になるように今を努力する事だと感じます。実は、この2023年版カレンダーを当社でも販売しています。サンプルも展示していますので、気になる方は是非ご来店いただき、現物をご覧ください。

2022年10月 店主の独り言

 9月の休日に息子と三人でキャンプに行って来ました。

 コロナが始まった2020年から3年間程、家内と二人で道内各地をキャンプして来ましたが、テントも小さく、寝袋も二つしかありません。今回は大人になった息子と3人なので、札幌市南区常盤(トキワ)にあるキャンプ場の設置されたテントに泊まる「グランピング」を体験して来ました。当初はベッド付きテントに宿泊予定でしたが、その日は台風14号の影響で大雨が予想された為、貨物輸送用の鉄製コンテナを改造して中に二つのベッドがセットされた所に三人で泊まりました。そして予報通り、その日の夕方からはずっと雨でしたが、風が強くはなかったので、コンテナの前に設置されたタープ(天井部分だけのテント)内のテーブルで、雨を見ながらゆっくりとバーベキューを屋外で楽しむことが出来ました。

 息子は初めて自分一人で火をおこし、焚火とバーベキューの火の世話が好きになった様です。今回もお肉は、札幌東区役所そばの塩原精肉店の生ラム。厚さ1センチの超厚切りにカットしていただいたので、ジンギスカンと言うよりはラムのステーキ。表面が少し焦げても内側はピンク色で、噛む度に肉の旨味が楽しめます。そして、もう一つの楽しみはワイン。まず乾杯のシャンパーニュはボーモン・デ・クレイエールのブラン・ド・ノワールで、ミレジム2012年(7,480円税込)。ピノ・ノワール種70%、ピノ・ムニエ種30%をブレンドし、瓶内二次発酵と熟成に96ヶ月もさせていますが、黒葡萄からの凝縮した果実味がまだまだ濃すぎて、液体ではなくゲル状の様に感じられました。多分、若い頃のロバート・パーカー氏がコメントしたら「ワオ、ワオ、ワオ」と言って95~96点位の評価をしたと思います。

 次の赤は南仏から。生産者はサンタ・デュック、葡萄はラストー村のブロバック畑産で、収穫は2014年(2,530円税込)。品種はグルナッシュ種80%、シラー種10%、ムールヴェードル種10%のブレンド。醸造は野生酵母を使ってゆっくりと行い、その後オリと共にタンクで熟成させています。アルコールは14.5度と高いですが、8年を経て果実味とアルコール感、スパイス感が調和し始めてきています。個人的には上記のシャンパーニュよりも熟成感が楽しめるラストー村の赤の方が気に入り、塩コショウしたラム肉との相性も良かったです。

 こうして美味しい肉とワインを家族三人で楽しんでいましたが、私は前日の残業から睡魔に襲われてしまい、なんでも椅子に座って箸を持ったまま寝ていたそうです。その後は二人に起こされ、夜の8時前に一人でベッドに入って朝まで寝ていました。そんな訳で、食事後半の記憶はございませんが、息子は夜中まで一人で焚火と戯れていたようです。

2022年 9月 店主の独り言

 今年の夏休みは、家内と二人で伊豆・大島に行ってきました。

 羽田からモノレールで浜松町駅、ここから徒歩で竹下桟橋のフェリー乗り場に行きます。30年以上前の浜松町とは違って竹下桟橋までの間には、汐留(シオドメ)地区から続く高層ビルがニョキニョキ建っていて今では人気のエリアとか。
 さて、ジェット船のフェリーは大島まで1時間45分。昔の青森~函館間の連絡船が、少し短い距離を4時間でしたから、驚きの速さです。また、行った時期がお盆と重なり、取れた宿も港から離れた古い民宿。北海道・奥尻島より少し小さな規模の伊豆・大島はバスの便が悪く、車がなければ移動もままなりません。しかし7件あるレンタカー屋さんは全て空きが無く、港でタクシーに乗って宿まで向かいます。車中でレンタカーが無い話をしたら、運転手さんが親戚の中古車屋さんに問い合わせをしてくれて、運良く翌日から1台都合が付きました。

 宿の方に聞くと、島のレンタカーが少なく、車、バイク、原付、電動自転車、変速付き自転車、ママチャリの順に無くなるのだそう。翌日からは、見どころ満載の島を車で回りました。私のお勧めは、小さいけれど動物が生き生きとしている動物園。突風が吹き荒れる荒涼とした三原山の裏砂漠。水着着用ですが、海を眺めながら入る温泉、浜の湯。でも私が一番感動したのは、伺った元町の高田製油所で、四代目高田義土さんに椿油のお話を1時間以上伺えた事です。高田さんは何気なく淡々と話をしますが、良質な油は手間のかかる「玉締め式」で作る事を家内が取っていた生活クラブの会報で読んでいた事で話が進み、高田さんの話に熱がこもり始めました。島に椿の木は約300万本栽培されているそうですが、農地栽培ではなく各家庭で防風林や観賞用に栽培されている為に量産化が出来ず、農地化、産業化がされませんでした。実際、現在収穫されている島内の椿の種を全て絞っても、島民1人当たり1升瓶の半分強しか行き渡らないそうです。

 現在はフェリーのお陰で生活物資は何でも入手出来ますが、昔フェリーが無い頃の油は貴重品で、島民は庭にある椿の実を拾い、中の種をくり抜いて天日乾燥させ、油屋さんに預けて、手間賃分を除いた油を受け取り、毎日の調理に使っていたそうです。
 この椿油は今注目のオレイン酸を86%も含む事で、肌への吸収が早く、酸化が遅い為に、平安時代から女性の黒髪を守る油として珍重されてきました。しかし椿は植樹して実をつけるまでに約15年、成木となり良質な油を得る種を収穫するには更に15年以上かかる為、短期的な量産が出来ず、食用ではなく少量の油でも利用できる美容用油で本州に出荷されていました。でも高田さんは、椿油は食べて味わっていただきたいそうです。

 ワイン業界で言うと高田製油所さんは自社畑の無い生産者で、原料である椿の種の入手先は皆さん個人の方々。個々に病院のカルテのような台帳があり、毎年の引き取り量が記載され、お金で支払いか、手間賃を除いた油でお返しするかが記載されているようです。ちなみに油で返済する方は一升瓶に入れてお渡しするそうです。
 私がワイン用葡萄の木は3年で実が成り、20年位から良質な実が収穫出来ると言ったら、その位だったらうちも自社農場を始めたかったと高田さんが言っていました。しかし現在、種を持ち込む方の多くがご年配なので、次の世代の方々になっても椿の実を収穫し、種をくり抜き、天日乾燥させて製油所に持ち込んでくれる事を願うしかないと言っていました。
 沢山の小規模・個人生産者から種を買い入れ、今も効率の悪い「玉締め式」で油を絞り製品化する高田さんの話を聞いていて、私は胸を打たれました。ワインではありませんが、素晴らしい生産者が伊豆・大島にいる事と、そのご本人とお会いし直接話を伺えた事に感謝いたします。

2022年 8月 店主の独り言

 先月は東京から家内の姉と娘さんが北海道観光で札幌に来ました。

 久しぶりの女性同士、お酒よりもおしゃべりがメインなので、私は運転担当で一緒に札幌観光を楽しみました。さて、私が思うに東京、大阪からの方が北海道に期待するのは広大な広さ。そこで家内が選んだのは、モエレ沼公園(広さ189ヘクタールで内陸部100ヘクタール+沼)。その日は祝日だったので、駐車場の横にあるガラスのピラミッド内のレストランでは結婚式が行われていました。

 レジャーシートを広げて皆でおにぎりを食べていると、海の噴水がスタート。この噴水はちょっと驚きのアトラクションで、10年ぶりに噴水を見た私は映画「シンゴジラ」でゴジラが最初に海から登場するシーンを思い浮かべました。その後はモエレ山の登山、札幌の不燃ゴミと建設残土を積み上げ造成された、高さ52メートルの人工の山です。ここを整備された道を通らず芝生の斜面を10分程かけて登りましたが、自然志向のお姉さんと妻は靴を脱いで裸足で登りました。山頂はすごい風でしたが、北側には石狩の海辺に並んで立つプロペラ型風力発電機が見え、札幌駅のJRタワーや中心部のビル群、南側には銀色に輝く札幌ドーム、東側には遠くに野幌の百年記念塔が見え、広大な札幌全体を見渡せます。

 彫刻家イサム・ノグチ氏が基本設計したこの公園の桁外れなスケール感と魅力を満喫して、私が同氏が設計の真っ黒い滑り台が札幌の大通公園にあると話したら、それも見る事になりました。「ブラック・スライド・マントラ」と名付けられたこの作品には逸話があります。この滑り台は当初、大通公園9丁目にある丘のような石の滑り台(クジラ山)を撤去して設置される予定だったが、現地を視察したノグチは、子どもたちに親しまれているクジラ山をそのまま残し、空間全体のバランスを考えた上で、大通公園8丁目と9丁目とをつなぎ、その間の道路にあたる場所に設置することを主張した。一見、無謀とも思える提案でしたが、札幌市は「子供らの遊び場に」(「ブラック・スライド・マントラ」は)「子どもに遊ばれて、完成する」というノグチの意思を尊重し、8丁目・9丁目間の道路をふさいだ話をしました。

 遊んでいる子供達の列に加わって、僕らも童心に帰って滑り台を堪能しました。夕食は「町のすし屋・四季花まる」。人気の回転寿司店が運営する新しいスタイルの寿司屋さん。車の運転が終わった私は、お刺身盛り合わせと日本酒を堪能し、お姉さんと家内は二階建てホタテだ、イクラだと大騒ぎ。こうして札幌での観光を楽しんでいただきました。

2022年 7月 店主の独り言

 今月は車のお話。

 今まで乗っていた青い日産ノート初期型2005年式が、17年を経てそろそろ買い替えの時期感が出て来ました。私の希望はトヨタ・ポルテ。メジャーな車種ではないので御存知ない方もいるでしょうが、軽以外の小型車でちょっと変わった車でした。社名はフランス語PORTE(扉、ドアの意、読みはポルト)をローマ字読みしたのでしょう。助手席ドアが、大きなスライドドアから付けたようです。

 ある時、私の目の前を女性がスタスタとこのポルテに近づき、リモコンを押して助手席の電動スライドを開けて車内に入ると、助手席のシートが40センチ程後方に下げてあり、助手席側から運転席のシートに当たり前のように座って、内側からスイッチで助手席ドアを閉めました。車に乗り込むには自分でドアを開け、椅子に座って「ドン」という音と共にドアを閉めると思っていたら、何ともスムーズで優雅な乗車に見とれてしまいました。

 この車の運転席側は普通のドアで、助手席側が大きなスライド式、後方は跳ね上げ式ドアという、左右でドアの切り方が非対称の車でした。発売後、赤ちゃんを抱っこしたまま、あるいは荷物を持っていてもスムーズに乗り込める事が受けて、女性に人気が出ましたが、やはりイレギュラーな車として販売台数も下がり生産中止になってしまいました。

 少しへそ曲がりな私は、こういった設計者の思いが色濃く出ている商品が好きです。ぱっと見には、小さくて背が高いファミリーカーですが、ドアの切り方や内部のレイアウトに関して、トヨタ内の設計・企画会議ではかなり難産だったであろうこの車が、私にはとても魅力的なのです。さて、私が家内にポルテの説明をした後に、家内の希望を聞くと「私は黄色い車が良い!」の一言。そこで調べてみるとポルテに黄色は発売されておらず、全塗装をするか、別の車種で黄色を探すしかありません。はたして次の車は何になるのでしょうか。

2022年 6月 店主の独り言

 今月は映画の話。

 5月に狸小路の映画館で「ハーメルン」という日本映画を観ました。監督は若手で現在、室蘭に暮らす坪川拓史(タクシ)さん。家内の友人に素晴らしい監督で、今、上映しているから是非観てと言われて二人で行って来ました。しかも日曜夜18時30分からの上映後に、監督と出演した役者・坂本長利(ナガトシ)さんの舞台挨拶付。ストーリーは廃校になった小学校の先生と生徒さん達が、年月を経ても忘れられない記憶を辿る物語。映画だけでも素晴らしい作品でしたが、上映後の舞台挨拶が驚きでした。

 舞台挨拶、最初の一言は「今、話題のシン・ウルトラマンではなく、ハーメルンを見に来ていただき、ありがとうございます」でした。実はこの二つの映画には、今売れっ子の西島秀俊氏が共に出ているからなのでしょう。そして、この映画は2013年に完成後に、全国各地で場所を借りて上映会を行いましたが、こうして劇場での通常公開は完成後9年を経て初めての事なので、監督として大変嬉しいと喜んでいました。私は映画は映画館でやるものだと思っていましたが、組織に属さない監督さんの作品を映画館で普通に上映するのは大変な事とは知りませんでした。

 坪川監督は、ハーメルンの主役は廃校になった木造の校舎ですが、2007年完成した一つ前の映画「アリア」の撮影でも別の校舎を撮っています。その際に全国に残っている廃校の校舎を色々探して、一番気に入ったのがハーメルンの学校だったのですが、当時はこの校舎が何処にあるのか分からず、別の校舎で撮影をしたそうなのです。その後にこの校舎は1980年廃校になった福島県昭和村の喰丸(クイマル)小学校という事が分かり、次の映画はここで撮ると決めて村役場に伺い来年撮影させてくださいと話をすると、廃校後30年を過ぎて老朽化が進んだ為に、来年壊す事で国の予算が下りたので無理と言われたそうです。

 そこで何度も行政に掛け合い、解体を1年延ばしてもらい、制作費や役者さん、制作スタッフ等の段取りをしていたら、今度はメインのスポンサー企業と監督との関係がダメになり製作はとん挫したそうです。すると主演女優の倍賞千恵子さんがこの映画はどうしても完成させたいと言って、福島県の名士の方々を当たってスポンサー探しをしてくださり、さらに東北の震災もあって製作は5年も掛かったそうです。監督は何度も何度も村長や役所に行って、「もう1年待ってください」、「もう1年~」とお願いし続けて、2013年に映画が完成しました。

 こうして大劇場でなくても上映会が始まると、映画を観た方々がぽつぽつと昭和村に訪ねるようになり、さらに旅行代理店が、喰丸小学校に行くバスツアーを企画して、団体さんも昭和村にやって来ました。すると、解体、解体と言っていた行政がクラウドファンディング等で資金を集め、保存と校舎の耐震工事が決まり、2018年から校舎は村の観光拠点施設として運営しています。一人の映画監督の情熱が役者さんを揺り動かし、その作品は観客だけではなく、村の住民の心までも虜にして、行政を変えて行く程の大きな流れになる話を聞いて私も胸が熱くなりました。「ハーメルン」はハリウッド映画とは全く違うスタイルですが、素晴らしい作品でした。

2022年 5月 店主の独り言

 4月に日本ワイナリー協会主催のピノ・ノワール・ワインセミナーに参加しました。

 セミナーは今流行りのオンラインで、3ヶ所の生産地を繋いで各産地の生産者さん同士がディスカッションします。まずフランス・ブルゴーニュからは、函館で葡萄栽培を始めたヴォルネ村のモンティーユさん。札幌会場は日本ワイナリー協会顧問の石井もと子さんが司会進行を務め、生産者は山﨑ワイナリーの山﨑さん、千歳ワイナリーの三澤さん。長野会場はヴィラデストワイナリーの小西さん。離れていても顔と声はオンラインで伝わりますが、ワインの味わいはオンラインでは無理なので、3会場にそれぞれ5種のワインが用意されました。

 ワインは全てピノ・ノワール種の赤で、モンティーユ北海道(余市産葡萄使用)2019年、モンティーユのフランス・ヴォルネ村1級畑ミタン2018年、千歳ワイナリー(余市産葡萄使用)北ワイン2019年、三笠・山﨑ワイナリー・プライベート・リザーヴ2019年、長野・ヴィラデストワイナリー2019年。また札幌会場でワインのサービスをされたのが、オーストラリア生まれの高松ソムリエ。現在、余市のドメーヌ・タカヒコで研修中の彼は、豪州、英国のレストランで勤務しながら独学し、世界ソムリエ業界の頂点に立つ英国のマスター・ソムリエ(2020年時点で世界に269人)を取得した現在最年少の青年です。コロナ禍以降、今となっては当たり前ですが、札幌に居て、各生産者のコメントをオンラインで聞きながら、実際にそのワインを試飲しました。

 さて5種のワインの味わいです。モンティーユ北海道、色調はミディアムですが、果実味が詰まっていて骨太な印象。熟成香的な香木や革の香りも開き始めています。一方、ヴォルネ村のピノはとても暑かった18年産。果実味が凝縮して北海道のピノと比較すると、温暖なカリフォルニア産ピノ・ノワールの様に濃厚でした。余市産葡萄を使った千歳のピノ・ノワールは、酸とタンニンが調和し、ふくよかな果実味と共に柔らかな印象。三笠のピノ・ノワールは干した果実の風味を酸味が引き締め、ミネラル感と本わさびの香りが余韻に感じられました。最後は長野でも標高850メートルの丘の上にあるヴィラデストワイナリーのピノ・ノワール。ふくよかな旨味と果実味に細かなタンニンと穏やかな酸が調和し、余韻には麦わらを思わせるにが旨味が楽しめます。

 司会の石井さんがモンティーユ氏に、本場の産地に居ながら何故、北海道でピノ・ノワールを栽培を始めたのかと聞くと、1990年以降ブルゴーニュでは果実の抽出が強くなった。僕が思うには、パーカー氏を始めとするワインの点数評価が影響したと思います。それと、現地の温暖化が進んだ。そんな時にプロモーションで日本に来て、北海道のピノ・ノワールを味わい1980年代のブルゴーニュが持っていた冷涼地らしい繊細な味わいに驚いたそうです。その後も北海道に来て、産地を見て回ると、欧米の様に生産者の悩みを国や研究機関がサポートする体制が全く無く、個々の生産者が手探りで葡萄栽培を行っている姿を見て胸が熱くなり、自分が持っているノウハウと、地元ディジョン大学の研究結果をオープンにして、共に力を合わせてピノ・ノワールの新産地を作りたくなったと言っていました。

 その1990年以前のブルゴーニュの味わいについて質問すると、モンティーユ氏は「アロマのエヴォリューション(香りの進化の意)」と言われました。当時のブルゴーニュが、10年以上かけて上手く熟成した時に出て来る熟成香が、北海道のピノ・ノワールは5年程でその香りが開き始める。これが驚きで、この特徴を持った道産ピノ・ノワールを更に磨き上げると、どうなって行くのかが楽しみだそうです。

 あと、私がモンティーユ氏の映像を見て思ったのは、彼が現地で試飲に使っていたワイングラスは、多分オーストリア・ザルト社のブルゴーニュ・グラス(現在メーカー欠品中)の様でした。セミナー後に、ソムリエの高松さんに聞いても、同様の返答でした。こうして現地に行かずに、産地の様子が見えるのはオンライン映像だからこそ。話は戻りますが、これから10年、20年後の北海道のピノ・ノワールは益々楽しみになって行くでしょう!

2022年 4月 店主の独り言

 今月は春のお話。

 記録的な雪に見舞われた札幌も、3月に入り日中はプラスの気温になり、車道はアスファルトが見えて来ました。営業的にも3月後半から「まん延防止~」が解除され、ホテルや飲食店の方々はいつも以上に春を待ち望む気持ちでいっぱいでしょう。また、ワイナリーさん側の話をすると、2021年の9~10月に収穫した葡萄は約1ヶ月間の発酵を終えてお酒となり、若飲みタイプのワインはひと冬のタンク熟成を経て瓶詰めし、これから発売の時期となります。2021年産の作柄は日本海側の産地、余市と、岩見沢地区では収量は減ったようですが、記録的な暑さだった夏のお陰で完熟した葡萄が収穫出来たようです。

 しかし、人間社会ではコロナが続く中で2022年になり、北京でオリンピックが開催、ウクライナでは戦争が始まり、東北ではまた大きな地震が起きました。人類的には大騒ぎですが、九州や横須賀の友人からは、梅や桜の写真がスマホにアップされています。北海道でも、もう直ぐふきのとうが雪の中から顔を出し、草木も活動を始める事でしょう。今年の様に驚くような事が連続して起きると、私たちが平和な日常生活の中で、季節と共に生活できる事が最高の幸せなのだと感じます。そう思うと、まずはふきのとうの天ぷらと、まだ少し渋硬さが残るであろう2021年産の道産ワインとを味わいながら、春を満喫したくなりました。何気ない日常を送れる事、3月が終わると新年度が始まる事、春から自然界が活動を始める事、すべてに感謝をして楽しく生きて行きましょう。

2022年 3月 店主の独り言

 今月は映画の話。

 アメリカの女性ソウル・シンガーの大御所、故アレサ・フランクリン。彼女が1972年に行ったコンサートの記録映画が、名曲「アメイジング・グレース」の名で公開されました。50年前、僕が中学、高校の時代はロックミュージックが全盛でしたが、高校の頃からR&B(リズム・アンド・ブルース、日本ではソウルミュージック)が少しずつ広まって来ました。当時の僕はソウルはあまり好きではありませんでしたが、私も30歳を過ぎてヴォーカルの良さに気づき今ではソウルも聞くようになりました。

 さてこれは、当時売れに売れていたR&Bのトップシンガーのアレサが、立派なコンサートホールではなく、ダウンタウンにある黒人の方々が集まるキリスト教の教会で行った礼拝のようなコンサートを撮影した記録映画。ストーリーもなく、聖歌隊の入場から始まる映像を見ていると、自分がこの会場にいるかのような気持ちになって来ます。牧師さんがピアノで伴奏をしながら、アレサ・フランクリンと、30名程のゴスペル・クワイア(聖歌隊)がゴスペルの讃美歌を歌い続けます。すると、ステージだけではなくこの教会に通っている150名ほどの信者も一体となって、天上から光と共に天使が舞い降りて来て、会場全体が何と言うか信じられない状況になって行くのです。

 音楽や宗教は人それぞれなので、全ての方がこの映画を見て感動するかは分かりませんが、50年前のこの教会に居た200名程の人々は、「この時、私は神を見た!」と言った事でしょう。今よりも明らかに人種差別があり、そんな中で教会に行き皆で讃美歌を捧げている間は辛い事を忘れ、神と共に天国にいる様な状態になれる。あり得ないことですが、その映像を見ていると私もその会場の椅子に座って、涙を流しながら参加している様な気分になりました。特にソウル系ミュージックがお好きな方は、ぜひ一度ご覧ください。ちなみに私はこの映画をレンタルDVDで観ました。

2022年 2月 店主の独り言

 今月は今更ですが、大晦日のお話。

 ご存じの方も多いと思いますが、私の年越しはいつも時計台の前で、鐘の音を聞きながら新年を迎えています。人に言うと笑われますが、1980年の大晦日から40年間ほぼ一人で、夜の11時過ぎに時計台の前に行き、極寒の屋外でシャンパーニュを飲みながら12時の鐘の音を聞いていました。数えると、2020年の大晦日で40回になります。そして2021年の大晦日も、夕食を終えて8時前に2時間程の仮眠をして、41回目の年越しに向かう予定でした。

 しかし、今年の夏はコロナのまん延防止対策で、飲食店での酒類提供が禁止となり、当社は3ヵ月間休業している様な売上になってしまい、体がなまってしまいました。その禁止令が解けて10月過ぎから急に忙しくなり、11~12月は怒涛の勢いの様でした。準備運動無しで全力疾走した為か、31日の10時過ぎに仮眠から起きようとしても、腹も痛くなって全く起きる事が出来ません。今年の泡は、余市・木村農園の葡萄で造ったココファームのスパークリング・ワインを用意し、グラスもちゃんと洗っていたのにです。

 そんな訳で41回目で、初めて時計台の年越しを欠席しました。これを始めた理由は、うちの家族は私が中学生の頃まで北1条西3丁目にあった果物屋、フジヰ食料品店の4階に住み込みの従業員さんと共に暮らしていました。今、時計台の隣に建つ時計台ビルの場所には、50年以上前に清水建設札幌支店があり、東の仲通側にはその会社の寮があって、そこに暮らしていた娘さんと、時計台裏の芝生でママゴト遊びをしていました。こうして私は時計台と共に暮らした思い出があって、あるきっかけから年越しを時計台でするようになりました。雪もちらつく冬の真夜中、氷点下の屋外で冷えたシャンパーニュを飲むという無謀な事に参加する人は普通いませんが、時々ですが、当社のお客様が参加される事があるので、毎回、グラスは6個ぐらい持参しています。もし、2021年の大晦日に来た方がいたら、もう謝るしかありません、ごめんなさい。今年2022年の大晦日は、体調を整えて11時過ぎには時計台の前に居るつもりです。

 毎年の事ですがこれは営業活動ではないので、私に声を掛けてくれればどなたでも無料でワインをご馳走しています。ただ、40年かけて色々なシャンパーニュの銘柄を飲みましたが、氷点下の屋外では香りはほぼ分かりません。味わいは辛うじて感じられますが、本来の味わいの1/3程度しか感じ取れないと思っています。こんなやせ我慢のエーカッコシイを本当にやっているのか確かめたい方は、温かい格好をして31日の11時過ぎに時計台へお越しください。よーく冷えたシャンパーニュを飲みながら、12時の鐘の音を聞くと、足元は震えて来ますが頭の中は真っ白になりますよ。

2022年 1月 店主の独り言

 今月は私が大好きなスーパー(スーパーマーケット)のお話。

 私は一般的な男で料理も殆ど作らず、家事も休みの日には食器を洗ったり、洗濯物を干して、たたむぐらいですが、何故かスーパー巡りが好きなのです。始めは東京に行く度に、新宿伊勢丹本店のデパ地下、東急渋谷本店のデパ地下、自社ビルだった頃の青山・紀伊国屋、勝山さんがいた頃のナショナル麻布等のワインショップ巡りが仕事でした。各売り場はワインも輝いていましたが、野菜や果物も美しかったです。それから暫く経って、イオン札幌新道東店、近所ではアークス菊水店などデパ地下的なスーパーが開店し、生鮮も、日配品も、お惣菜も輝いて来ました。しかしここ数年は、強大なスーパーの牙城を崩そうと、ゲリラ的な八百屋さん等が出て来るなど新しい展開になっています。

 確かに豪華な売り場になると、カップ麺でもスポットライトを浴びて立派に見えます。でも、売り場のスタッフが愛着を持って販売している生鮮食品は、裸電球の下でも輝いています。そんなスーパー好きな私が今一番気になるお店は!今年の夏に清田区の清田通にオープンした「カウボーイ」です。ここオリジナルの商品は、「凄い」の一言!私は大食漢で、赤身の牛肉でしたら一人で1ポンド(453g)は食べられます。だから家内と二人で、5~600gの塊肉が欲しいのですが、通常スーパーのステーキ肉は厚さ1センチ程しか売っていません。もちろん買う人がいないから仕方が無いですが、ここでは希望を言うと大きな塊からカットしてくれます。私のお薦めは南米ウルグアイ産の牛ランプ肉で100g150円弱!500gで厚さ4~5センチのステーキ肉が800円程で買えます、驚きませんか!

 この肉を室温に戻し、鉄のフライパンを使って、銀座マルディグラの焼き方で12分以上かけてゆっくり焼くと、表面は少し焦げて香ばしく、内側はロゼ色の美味しいステーキになります。後は家内が作るサラダと、チーズと赤ワインがあれば私は大満足。カウボーイのお肉は冷凍物が多いですが、とにかく種類が多くて安価です。あと驚きは、製麺コーナー。普通、ソバは茹で麺か、生麺かで、後は何玉入りか、ぐらいでしょう。ここのソバは、幌加内、新得と言った産地名入りだったり、ソバの実の内側だけの白ソバか、黒い皮ごと製粉した黒ソバか、色の違いなど多種あります。更にラーメンも、味噌ラーメン用、チャンポン用、担々麺用と、呆れる程の種類が並んでいます。

 ただここは総合スーパーではないので、商品の種類はそれ程多くはなく、欲しい物が無い事もあるでしょう。しかし好奇心がある方でしたら、他では絶対にない様な面白い物が見つかると思います。そして私がカウボーイに行くと必ず寄るのが、清田通りの向かい側で36号線に向かって100m程先にある「そば処大和」。ただ12月に行くと、入口に張り紙で「店主が体調を崩した為に、1月まで休業します」とありました。通常営業中も、昼は外に何人ものお客さんが並び、15時前には麺が完売で閉店でしたから、行く前に電話で011-556-8740確認した方がいいでしょう。ここ大和は大盛りで、美味しくて、良心的な価格。椅子はありますが、立ち食いソバ店の様なお店です。

2021年 12月 店主の独り言

 今月は少しマニアックなお話。

 店内で鳴らしているオーディオ機材を、少し改良しました。今使っているスピーカーは札幌・苗穂にあるラヴ・ワークス・サウンド工房製(左右ペアで7万円)。直径8センチ程の小さなフルレンジ・スピーカーを、高さ26センチ×幅16センチ×奥行き24センチの箱に組んだ物。これ以前は英モニター・オーディオ社製のスピーカー(左右ペアで約10万円)でしたが、ラヴ・ワークスの音が気に入りこちらで数年間鳴らしています。私のイメージではノイズが少なく、クリアーな音が低音から高音までストレスなく再生する感じです。そしてモニター・オーディオの前は、30年以上前から米JBL社のコントロール1(左右ペアで約5万円)というこちらも小さなスピーカーでした。これも大変気に入り、途中からコントロール1用のサブ・ウーファー(低音専用のスピーカー・1台約5万円)を購入し、左・右+ウーファーの形で使っていました。

 さてある時、使っていないJBLのサブ・ウーファーを今のスピーカーに組み合わせてみてはどうだろうと思いついたのです。何だ、かんだ言っても、低音再生は大きな箱には勝てない気がした為です。そこで休みの前日、閉店後一人で脚立に登り、棚板に穴を開けて配線をセットし、作業を終えたのは朝の3時過ぎ。そして鳴らした音は、驚くほどに臨場感が出て来ました。アンプからの音声信号をまずウーファーのSB-1につなげ、SB-1の出力端子からラヴ・ワークスの左右スピーカーにつなげました。SB-1は入ってきた音の信号を周波数で二つに分け、50Hz(ヘルツ)~150Hzの低音域だけを鳴らします。残った150Hz以上の中、高音をメイン・スピーカーが受け持つ形です。

 音出し前は低音専用のスピーカーを加えたのですから、低音が増強されると思いましたが、聞いてみると中高音の方が綺麗に伸びた感じがしました。今まで小型のスピーカーが頑張って低音を鳴らしていたのでしょう。その低音部分を別のスピーカーが受け持ってくれた事で、メインスピーカーは中、高音に専念して、声高らかにソプラノを歌い始めた感じです。それと使っているアンプは今は無き「サンスイ」のAU9500という50年前の名機。電源用のトランスが特別大きく、重さはアンプだけで23キロ以上あります。このパワーが強いので、小型スピーカーは音量を上げると直ぐに音が歪んでしまいました。

 しかしウーファーを加えた事で負担が減ったのでしょう、音が歪む限界が上がり音量を上げてもクリアに聞こえるのです。もちろん営業中はそこまでボリュームを上げられませんが、閉店後に一人で音を聞いているとダイナミックレンジが広がり、管楽器などの大きな音の隣で鳴らした鈴の音の様な小さな音が聞こえるようになりました。38センチ・ウーファーを組み込んだ、畳一畳ぐらいある大きなスピーカーに憧れはありますが、26センチ×16センチの小さな箱とサブウーファーでも中々の音になったのではと、夜中に一人でほくそ笑んでいます。気になる方は、営業中でも他のお客様がいない時でしたら、私に「もう少し大きな音で聞けますか?」と聞いてみてください。

2021年11月 店主の独り言

 今月は八百屋さんのお話。

 新聞に「今、地下鉄麻生駅付近で八百屋さんの戦いが凄い」と載っていました。スーパーが大好きな私はその記事を見て我慢が出来ず、次の休みに家内と行って来ました。地下鉄の終点駅・麻生地区は元々賑やかな商店街で、大きなマンションが立ち並び、全国チェーンのスーパーや、飲食店、美容院が軒を連ねています。そこに数年前開店した元気な八百屋さんが繁盛していたのですが、今年の9月、その数軒先に別の八百屋さんがオープンした事で、安い野菜を求めてお客さんがどんどん集まっているのです。

 二軒ともスーパーではなく八百屋さんなので、コンビニ程の広さですが、店内には安い野菜や果物がたくさん並び、買い物かごを持ったレジ待ちのお客さんが何人も並んでいます。一見同じような二軒の八百屋さんですが、両方のお店を見てみるとお店の商品に対する思いとか、新商品の提案とか、何となくスタイルが異なり個性が感じられます。もちろん消費者にとって値段は重要ですが、二軒を見ていると価格だけではなく買い手との相性もあるなと思いました。

 今は日本中の街で、全国チェーンのコンビニ各社が向かい合ったり、並んでいます。コンビニ各社の本部では、血のにじむ思いで商品開発やマーケティングをしているのでしょうが、実際のコンビニ同士はクールな感じであまり争っている風には見えません。でも八百屋さん同士が並んでいると、どうしてもお互いに意識するのでしょう。ご興味ある方は、一度、二軒の様子を見て、買い物をしてみてはいかがでしょうか。特に夕方からは勤め帰りの方々が集まり、二軒共にかなりの賑わいです。ただ、共に駐車場がないので、車の方は近くのコインパーキングをご利用ください。

2021年10月 店主の独り言

 今月は、私の朝の仕事。

 当店の開店は午前11時ですが、毎朝10時過ぎには店前の歩道を簡単に掃除しています。それが、コロナ禍で時間と余裕が出来た事で少しずつ掃除の範囲が広がり、掃除の後は周りの街路樹に水をあげるまでになりました。

 歩道には、ゴミもあれば、落ち葉、たばこの吸い殻、飲みさしの缶ビールなど色んな物が落ちています。私も二十代の頃はタバコを吸っていたので、多分何百本もの吸い殻を道に捨てて来ました。それが今、罪滅ぼしに毎朝拾っていますが、タバコの吸い殻はここ10年ですっかり減ったように思われます。あと飲みさしの缶ビールは、まず中身を捨てて、缶を潰し、燃えないゴミの袋に入れてと、手間がかかります。でも私の仕事はお酒の販売なので、怒りの気持ちをぐっと飲み込み、笑顔で昨晩コンビニでこれを買われて飲まれた方は、楽しいひと時を過ごされたのかなぁ~と思いながら掃除をしています。

 当社のある札幌の南3条界隈は物品の販売店と、飲食店の両方が混在しています。飲食店でもランチ営業が無いと、お店に入るのは夕方になるので、店前の掃除は期待できません。こんな中で掃除を続けていると、思いがけない事が起きました。斜め向かいのビルに入っている花屋さんが、歩道の掃除を始めてくれたのです。朝、カラスの鳴き声と車の騒音の中、ホウキで掃く音「シャツ、シャツ、」は掻き消されそうでしたが、向かいとこちらで「シャツ、シャツ、」「シャツ、シャツ、」と合唱になると、なぜかホウキを持つ手に力が入り、道路が一層キレイになるような気持ちになって来ます。

 また得意先の飲食店が休業している状態で、当社の業務店向け配送担当の三浦が、空いた時間を使って新しいホームページの制作を始めて、先月から切り替えることが出来ました。今まで商品名と価格しかなかった画面を、新ホームページでは写真と、商品説明も見られるようにしています。ただ当社扱いの商品数が多い事と、収穫年変更も含めて毎月100種以上の新入荷がある為、今までの商品登録だけでも大変な作業でした。私には全く分かりませんが、元々理数系を得意とする三浦が、黙々とその作業をこなしてくれました。また、昨年の2月から中止している土曜の試飲会ですが、簡単ではありますが社内で続けている新商品の試飲の報告をホームページで発表し始めています。まだまだ不備な点も有るとは思いますが、一度、新しいホームページもご覧いただければ幸いです。

2021年 9月 店主の独り言

 今月は温泉のお話。

 時間が空いてしまいましたが、函館の親戚に会って来ました。ただコロナ禍と先方は高齢でもあるので、マスク越しで要件を話し、お宅には泊まらずに妻と二人で東大沼のキャンプ場で2泊と、感染対策をして旅館に2泊して来ました。そしてせっかく函館に行ったので、家内が好きな源泉かけ流しの温泉を数ヵ所回って来ました。

 先に言っておきますが、家内は超豪華よりはひなびた秘湯的な温泉の方が好みです。最初は函館市の郊外、西ききょう温泉。ここはお湯の質重視で豪華さはありませんが(失礼)、確かに熱くて少し黒っぽいお湯に浸かっていると肌がツルツルして来ます。まずカーナビに住所を入れて、この場所に着くまで幹線道路から細い砂利道に入って少し走ります。周りは建築会社の資材置き場が続き、途中で道を間違えたのではと確かめた程。そして見つけた建物は古いバッティングセンターか、資材倉庫といったムード。正式名称は西ききょう健康グランドで、横には野球のグランドもありました。ここの湯船は直径2メートル程のコンクリート製で、水道用の土管を輪切りにした物。これが3つあり、温度がぬるめと、熱いのと、超熱い、になっています。ここに行ったのが15時頃だったので年配の方が多く、皆さん涼しい顔をして「超熱い」に入っていました。あの時、私も我慢して超熱いに入っていれば、函館の温泉仲間に入れたかもしれませんが、片足を入れただけで私には無理でした。

 次は函館から車で海沿いを西に1時間強走った、恵山(エサン)温泉旅館。ここのお湯がまた凄く、PH2.1の強酸性でちょっと口に含むと明らかに酸っぱく、お湯を手にすくって顔を洗うと、目をつぶっていても瞼(マブタ)がチクチクします。脱衣所には「強酸性温泉の為に石鹸が使えません」と大きく書かれています。このお湯で、時計やアクセサリー類も黒ずんでしまうそうです。このお湯で体を殺菌した後はお食事。海に面した恵山は漁港が多く、魚づくしの料理でした。驚きは鱈(タラ)のお刺身で、厚さ1センチ程に切られた身は淡白でヒラメの様。ワサビ+醤油ではなく、持込させていただいた千歳ワイナリーのケルナーを、お醤油に少し垂らして鱈のお刺身をいただくと、とても相性が良くなりました。でも私の一番は、濃厚な味わいがしみ込んだ「いかめし」で、複雑な味わいはちょっとチーズを思わせます。建物も新しくはありませんが、お父さんの美味しい魚料理をお母さんと娘さんが部屋まで運んでくれるのを見ていると、ほのぼのとした気持ちになりました。こちらも秘湯好きの方にお薦めします。

 そして最後は、八雲から内陸に入ったおぼこ荘。先の2ヵ所はちょっとマニア向けな温泉でしたが、こちらはどなたにもお薦めできる綺麗で設備の整った温泉宿。建物の横を清流が流れ川岸まで下りて散策すると、川横の岩盤の割れ目から2メートル程の滝を見つけました。先ずは温泉、茶色に濁ったお湯はしっとりと肌になじみ、鳥や虫の鳴き声と、渓流の音がこだまする露天風呂はまさに天国。更に内風呂は源泉が別で、色も違って二つのお湯が楽しめます。食事はいろりコースをお願いしました。こちらは炭火で魚介類を自分で焼きながら食事をします。実は魚料理でも焼くことで焦げ目が付くと、赤ワインと相性が良くなります。そこで持ち込んだのがカリフォルニアのピノ・ノワール種で、生産者はアルタ・マリア。涼しい海岸沿いのサンタ・マリア・ヴァレー地区で、8年を経た2013年産。タンニンの強いカベルネ・ソーヴィニヨン種は肉料理に合いますが、柔らかな果実味のピノ・ノワールだと炭火焼の魚やエビに寄り添ってくれました。こうして数日間、仕事をせずに温泉とご馳走を食べた代償は体重の2キロ増。これから溜まった仕事と、減量が私を待っています。

2021年 8月 店主の独り言

 今月はワインの試飲のお話。

 毎土曜の午後に行っていた試飲会は、コロナ禍で昨年の2月から中止のまま。実は毎金曜日の閉店後に当社スタッフで試飲を行い、その残りを翌日の午後からお客様にご試飲いただいておりました。そして2月以降も、毎金曜閉店後の社内試飲は続けています。その本数は金曜夜で18種類、更に多い時は土曜にも数種試飲をしています。

 土曜の試飲会が無い今、開けた18本のワインで見込みがありそうな物は、保存容器に入れて得意先の飲食店の方が来店されると、店内で試飲をお薦めしています。でも保存容器も10個程しかなく、残ったものはスタッフで分けています。この状態が1年以上続いているので、新着ワインの試飲を目的にお寄りいただくソムリエさんも増えて来ました。さて、皆で分けたワインは各自、家に持ち帰って飲むのですが、試飲と違ってその時々の食事と共に飲むわけです。試飲はワイン単体で味をみますが、食事と共に味わうと印象が異なることが多いのです。

 例えば、ワインに苦みや酸味が目立つと、試飲のメモには欠点として記載しますが、油っぽい料理と酸味豊かなワインは調和しますし、山菜や根菜類と苦味のあるワインを合わせると旨味を感じさせます。こうして食事と共に味わうと印象が変わり、世の中に不味いワインは無いんじゃないか?と思ってしまいます。そんな訳で、最近の私は料理との相性を考えるようになり、ソムリエさんの気持ちが少し分かって来ました。

 そんな時、お客様に勧められて観たのがNHKの番組「あてなよる」です。今までのテレビ番組は、食べたことが無いような素晴らしい料理と、最高のワインを有名ソムリエがサービスする形が多かったと思います。しかしこの番組は、日頃食べている様な何気ない食材を使った創作料理に、実力派で知られる若林ソムリエが多分2~3、000円位までの普通のワインを中心に、日本酒、ビール、焼酎、ウイスキー等をちょっと変わった方法で合わせて行くという内容。お酒単体での味わいと、食事と合わせた時の印象、更に提供する容器や、ストレートに味わうか、水で割ったり、お湯や氷を入れたり、様々な方法を用いて、より楽しく味わう方法を提案しています。

 ワイン評論家が100点評価した様な偉大なワインではなく、普通のワインを家にある容器や、食材を使ってお値段以上に楽しむ方法。これは正に家飲みの最適な楽しみ方ではないでしょうか。民放ではないので、具体的なお酒の銘柄名は出ませんが、「あてなよる」は、久々に多くの方にお薦めしたいと思ったテレビ番組です。

2021年7月

今月は親バカのお話。

2020年4月から調理師として働いている息子は、拘束時間の長い飲食業界で何とか1年を迎えることが出来ました。先日、私が一人残業中に息子から連絡が来て、前の料理長が独立するので、今の料理長と息子が一緒に食事に行くことになり、お祝い用のワインを今から買いたいとの事。普段の営業中と同様に、息子から好みや予算を聞いて何点か選び、ワインの説明をします。

閉店後で他に誰もいないので、好きなCDを少し大きめな音量で聞きながら品選びをしていました。そのうち、多分、録音時にベースの音を強めにしたせいで、少し低音が暴れて聞こえる部分があったので、私はアンプの音質調整で低音を削って再生した所、それが息子には驚きだったようです。

もっと大型で、過入力にも対応できるスピーカーであればいいのだが、与えられた環境の中でいくらかでも良い音で再生したいから調整すると伝え、元の状態と、低音を削った時の音とを、息子相手に比較を行いました。昔、自分も中~高生の頃は、低音ドンドン、高音シャリシャリの派手な音が好きだったけど、こういった音は飽きちゃうよと言うと、少し理解してくれたようです。その時の息子は少し憧れの眼差しをもって私の話を聞き、まるで映画の親子のワンシーンの様でした。

普段、家に居る時は親とは話さず、自分の部屋でスマホを触ってばかりですが、こうして共通の話題で息子と話していると、親冥利に尽きる程に嬉しくなりました。コロナ禍で、経済的には厳しい状況ですが、久しぶりの息子との語らいで家族から新しい力をもらいました。

2021年 6月

 今月はわたしの休日の過ごし方。

 私の職場は狸小路とススキノの間で、コンクリート・ジャングルの中。緊急事態宣言で、日本の禁酒法とも言える酒類の自粛が始まり、お得意先の飲食店の多くは休業になってしまいました。ここ南3条西3丁目が、夕方からはゴーストタウン状態。そんな時、お客様が「休み中に飲むワインを買いに来たよ!」と言って、ご来店頂くと胸が熱くなります。

 こんな時の気分転換には、ハイキングが最適。先月は札幌の三角山、今月はその隣にある、赤坂さんが所有しているという、赤坂山に行って来ました。三角山は311メートル、赤坂山に至っては120メートルで、10分程で登れる小さな山ですが、とても気持ちの良いハイキングでした。歩いていると手作りの看板が所々にあり、近所の方が利用者の為に色々整備をされているのが感じられて嬉しくなります。たった10分でも、山の中を自然を感じながらテクテクと歩き、山頂でお茶とおにぎりを食べるとチョットした幸せを体験出来ます。

 自然の中をゆっくり歩き、帰りにスーパーに寄って晩御飯を用意する。赤坂山の帰りはコープさっぽろ西野店でした。家内はクジラのお刺身をゲットし、私は丸一匹の鶏が二割引きでしたのでゲット。帰宅後、私は何年かぶりにダッチオーブンを取り出して、下ごしらえを始めます。鍋に鶏を入れガスを弱火にして20分焼き、更にジャガイモを投入して弱火で30分タイマーをセット。

 あとの焼き上げはタイマーに任せて、新着の仏メルキュレ村産ピノ・ノワール種の赤を開けて、食事はスタート。クジラのお刺身は生姜醤油に付けると生臭さが出ず、シカ肉のカルパッチョの様でピノとも合わせることが出来ました。その後タイマーが鳴り、ローストチキンを皿に盛って、鍋に残った汁にワインを加えてソースにします。ローストチキンとピノ・ノワール赤の調和を楽しみながら、この休日も楽しい夕食となりました。皆さんも休日には、近所の山や公園に行ってみませんか。夕食がとっても美味しくいただけますよ。

 

2021年 5月

今月はスーパーの話。

意外に思われるようですが、僕はスーパーマーケットが好きなんです。休みの日は家内とスーパーへ行き、今夜のメニューを考えながら野菜や肉、魚、食品類を見るのが趣味。特に活気のあるスーパーだったら、ちょっと遠出をしてでも行きたくなります。

僕が好きなスーパーの一つが、大曲のジョイフルAK(エーケー)内にあった「ジャパン・ミート」でしたが、惜しくも昨年閉店になりました。ジャパンミートは関東圏で展開しているスーパーで、「ミート」の名の通り肉に関しては品揃いの多さが特徴でした。ヒズメの付いた豚足や、豚の耳を買うことは無かったですが、大袋に入った現物を見て驚きました。

その跡地にオープンしたのが地元のスーパー・エース。正直、そんなに期待をせずに行った所、鹿肉の品ぞろえに驚きました。まずはザブトンかと思うような大きさの鹿バラ肉が100g200円。その1キロ弱のザブトンを買い、厚みのある部位をステーキにして、残りは筋が多いので圧力なべで煮ることで鹿肉タップリの美味しいシチューになりました。

実はこのザブトンを買う際に迷ったのが、鹿モモ肉の「シンタマ」という部位。ラグビー・ボールを半分にしたような形で厚みもあり、ステーキには最適かと思いましたが、1.5キロ程の大きさにめげてしまいました。

前回の雪辱を兼ねて来店した所、1.3キロ弱のシンタマが2,500円でしたのでゲットしました。売り場で見るのと違い、家の台所で見るとシンタマはラグビーボール大に見えて来ます。

私が300g強、家内と息子で300gをステーキで食べ、残り半分の塊は冷蔵庫へ。そして3日後、家内はひき肉にしてハンバーグと、ミートソースになって美味しくいただきました。

仕事柄少しワインの話もすると、鹿のステーキ用には、熟成した2012年産のピノ・ノワール(メルキュレ村)を合わせました。しかし鹿肉自体が若くてストレートな味でしたので、もう少し濃さのあるボルドー地方か、南仏産のスパイシーな赤の方が相性が良かったと思いました。

多くの方にとっては、2,500円という値段よりも、1.5キロの肉の塊を買ってどうするの?でしょう。うちの場合、僕が駄々をこねて買いますが(もちろん肉代は僕が出します)、残りを家内がシチューやハンバーグにしてくれる事で助かっています。僕にとって、活気のある店で食材を見ながら妻がメニューを考え、僕はワインを合わせるのが何よりの楽しみ。これが、休み明けの仕事の活力になっています。

2021年 4月

今月は久しぶりに仕事のお話。

私は毎年2000種程のワインの試飲をこなして来ましたが、昨年はコロナ禍でイベントや試飲会が全て無くなり、多分、半分ぐらいしか試飲が出来ませんでした。毎週金曜の閉店後に社内試飲で約16種、土曜にも数種の社内試飲は続けていますが、これで800種程。あとは休日に飲む分が50~100種ぐらいでしょう。正直、コロナ禍で当社でも特に飲食店さん向けの売り上げが大幅に減りました。当然、中~高級品の商品開発に関しては少し弱まった感は事実です。

その代わり巣ごもり需要に対して、1,000円前後のデイリー・ワインに関しては必死になって探した1年でした。少しでも新しい売り上げを得るために、今、話題のフードデリバリー・サービスも考えています。

実は、私の携帯は俗に言う「ガラケー」でした。休日に家内と車で出かけた時は、助手席の家内がスマホで目的地や道順を検索してくれたので、私はガラケーでも十分でした。しかし家内からこのままではダメだと責められ、遂に今年の1月「スマホ」デビュー。まだまだ使い慣れてはいませんが、先日は初めてフードデリバリー・サービスで夕食の配達を頼みました。

風呂から上がり部屋着姿のまま、頼んでいた焼き鳥とハンバーグを受け取り、家にあったワインを開けてゆったりと食事をする。何かの用事で帰宅が遅れた際には、調理をしなくても家で食事が出来るのは助かる事でしょう。40年以上前、近所のラーメン屋さんから時々出前を取っていましたが、今の時代にフードデリバリー・サービスという形で分業化するとは思いもつきませんでした。

昭和50年代は岡持ち(オカモチ)を持って出前をしていましたが、今は揃いのユニフォームを着て、カッコいいデザインの専用バッグで料理を運びます。このサービスを使ってみて、当時の出前と、デリバリーサービスの一番の違いは、届ける人の笑顔でした。呼び鈴がなってドアを開けると、明るく爽やかな笑顔で料理を手渡され、自然に私の口から「ご苦労様でした!」と言葉が出て来ました。

新しいシステムを考え、それを言葉や習慣、法律が全く違う世界の各地で運用をする。各関係省庁への申請等は大変だったと思いますが、スタートして半年も経つと、大きなバッグを背負って自転車に乗っている光景は、日常に溶け込んで普通の事になって来たように思われます。