< 2023年7月 店主の独り言 >

 先月は伊達で始まった、葡萄畑のお話。

 そして今月は空知地区のあるワイナリーに用があり、近隣のワイナリーも一緒に当社の花かつおを手土産に持って回って来ました。札幌から岩見沢で高速を降りて234号線を南に走り、街道を左に曲がると「中澤ヴィンヤード」さん。街道を更に進むと「近藤ヴィンヤード」さん。次は西に向かって30号線を超えて登って行くと、栃木のココファームが始めた「こことあるヴィンヤード」さんの畑が広がり、さらに上ると「わいん畑うらもと」さん。30号に出てタイヤマン人形を左に曲がると「10R(トアール)ワイナリー」さんと「イレンカ・ヴィンヤード」さん。

 更に30号を進むとランチに最適なブッフェ・レストラン「大地のテラス」をすぎて、30号は交差点を右に曲がりそのまま北東へ進むと左に「宝水ワイナリー」さん。更に30号を進み美唄三笠線を右に曲がって行くと達布山に向かって道は登りになり、達布を左に曲がると濱田さんと宮本さんの「ドメーヌ・タプコリーヌ」さんと、その先の右には「山﨑ワイナリー」さん。戻って真っすぐ進むと左手に山﨑さんの畑があり、その先に「タキザワ・ワイナリー」さんと、近藤さんの「タプコプ・ヴィンヤード」さんがあります。この30号線は空知のグランクリュ街道とも言えそうな道。

 伺ったのは5月の末で、各ワイナリーさんは春と共に伸びて来た草刈りの真っ最中でした。この時期の草刈り、畑の掘り起こしと言えば話題の中心は「近藤ヴィンヤード」。ここでは2019年から厚真町の馬搬(バハン)林業家と協力して、馬耕(バコウ・馬が農具を引っ張って、畑の土を掘り起こす作業)を始めています。でも同じ畑の葡萄で、トラクターが耕(タガヤ)した葡萄と、馬耕栽培による葡萄でワインを造り、両者の味わいが明確に違うとは思えません。しかし近藤さんは「葡萄にとって、健康で、快適な環境で育てられたものであるかどうか」を考え、そのために世話をする人間が、少しでも葡萄が快適に育つ様に手段や方法を考え続けているのです。

 近藤さんによると、馬耕により重たいトラクターのタイヤで踏み固められた畑は馬の足跡だけになり、土壌への踏圧負担は減って地中に適度な空気の供給が増え微生物が活発になる事で徐々に土が柔らかくなって来たそうです。しかし効率は下がるわけで、トラクターだと2時間で終わる作業が、馬ですと2頭を交代しながら行って丸一日掛かるそうです。

 その後、10Rさんの畑に伺うと奥さんが居ません。でもお隣のイレンカさんの前に「マキタ電動工具」と書かれた大きなワゴン車が止まっているので行ってみると、畑の中で2軒の女性にマキタの営業の方が電動草刈り機の実演を行っています。バッテリーとモータが大きな強力タイプと、軽くて取り回しが楽な軽量タイプ、更にカッターの刃が金属製と樹脂製とを、二人は交互に試していました。商談の途中で私が別のワイナリーさんの話をしたら、マキタの方は私もワイナリーの人だと思ったらしく名刺をいただきました。私はワイナリーさんから仕入れて販売している酒小売店ですと話したら、お詳しいので勘違いしましたと笑っていました。

 そして、この日の最後に濱田ヴィンヤードに伺うと、お父さんと息子さんが手に鎌を持って草刈りをしていました。先ほどの電動農具の話をしましたら、農作業は場所や時期によって、トラクターや、電動器具、鎌等を使い分けて行っていると話されていました。北海道には現在、沢山のワイナリーがあり、各ワイナリーではそれぞれ理想のワインを目指して、様々な手段や方法で日々作業をしている事が改めて分かった一日でした。

< 2023年 6月 店主の独り言 >

5月に家内と白老・虎杖浜温泉に行って来ました。

泊まった「ホテルいずみ」は食事も良かったですが、1番は少しトロミのある温泉で肌がツルツルになる素晴らしいお湯。翌朝、せっかくここまで来たのだから、近所にどこか面白そうな所はないかと検索していて思い出したのが近隣のワイン産地。確かサントリーさんが伊達でワイン用葡萄の栽培を始めた事を思い出して検索してみましたが、サントリーのホームページからは畑の住所が見つかりません。色々詮索していると、「伊達市(ダテシ)乾町(イヌイチョウ)」が出て来たので、ダメ元でもと思いながら車を走らせました。乾町に着き辺りを走っていると、針金に固定された葡萄の木が並ぶ畑を見つけ、農作業をしている方に聞いてみると正に「ビンゴ!」

サントリーが1983年に購入した、ボルドーの名門シャトー・ラグランジュ。スペイン系の前オーナーが世界恐慌や戦争で経済的に没落し、荒廃していたシャトーでしたが、サントリーが引き継いで購入額の数倍ものお金をかけて、畑、醸造設備、シャトーの建物等を整備した事で評価をどんどん上げ、今ではグラン・ヴァン(偉大なワイン)としての評価を受けています。現地で日本人のトップとして現場を指揮したのが、初代は鈴木健二氏、二代目は椎名敬一氏で、お二人とも数年ごとに札幌でセミナーを開催して本場のワイン造りの話を聞かせていただきました。

2020年からラグランジュでその任を引き継いだのが桜井楽生(サクライ・ラクサ、※逆に読んでも同じ名前)氏。今回アポなしで伊達の畑に伺い、声を掛けた方がその桜井さんご本人でした!なんでもシャトー・ラグランジュ2022年産のプリムール(新酒)発表会を現地のボルドーで終えて、少し休暇が取れたので日本に帰り、葡萄の様子を見に伊達に来て農作業をしていたところだと言うのです。桜井氏は2009年から山梨のサントリー登美の丘ワイナリーで勤務をされていたそうですが、2014年頃から山梨以外の日本でのワイナリーの可能性を感じて日本国内各地のデータを集め、6年かけて選んだ地が北海道伊達市でした。

道内各地のワインを販売している私は、果樹産地としてアドバンテージを持つ余市、あるいは十勝、岩見沢、函館等ではなく何故、伊達なのかを真っ先に伺いました。すると赤ワイン、白ワインを造るなら余市か岩見沢を選んだかもしれません。でもあの積雪量から葡萄の木を収穫後に地面に寝かせて雪の下で越冬させ、春には木を起して針金に固定するという作業が葡萄にとって良いとは思えなかった。一方で伊達は、雪は少ないが積算温度はどこよりも低い。そのため、糖度が十分上がらず、毎年安定して良い赤ワインや白ワインがつくれるとは思わない。

そこで視点を変えて、スパークリング・ワイン(以後は泡と表記)ではどうか。泡はアルコール発酵の後、泡を得る為に二回目の発酵も行います。収穫時の糖度が高いと、二回目の発酵後にアルコール度数が高くなりすぎるので、泡用の葡萄は糖度が上がりすぎる前に収穫します。例えば、伊達であれば、赤、白ワインをつくろうとすれば、糖度21~22%を目指して収穫を10月中下旬まで無理して待たなければなりません。しかし、泡用の葡萄は糖度が20%以下で収穫する為、2週間以上早い10月上旬、葡萄の品質にとって最適なタイミングで収穫することになります。

昔から醸造学の世界では、「秋の終わり熟した葡萄」からは、葡萄由来のフレーバーが多く生まれることが知られています。本場シャンパーニュでは、9月前半から収穫を始めます。すなわち、ブドウ由来の味わいに頼りすぎないワインづくりと言えます。早めに収穫した葡萄はフレーバーは少ないかもしれませんが、果汁の良い部分だけを惜しみなく使うことでエレガントなワインをつくり、そこへリザーブワインと呼ばれる何年も熟成させた秘蔵ワインを高割合で加えることで、味わいに厚みと複雑さがもたらされます。長い歴史をもつシャンパーニュだからこそできる素晴らしい製造方法ですが、私たちのようにこれからワインを造り始める新産地ではリザーブワインはありません。私たちの産地では、リザーブワインがない代わりに、10月に収穫する完熟葡萄由来の風味があるはずです。それを活かして、シャンパーニュとは違った個性のスパークリングワインを生み出したいと話していました。

リザーブワインに頼らずに遅摘み果実の複雑さを生かした、独自な泡が伊達で出来るであろうと考えた桜井氏は、サントリーの社員としてフランスのシャトー・ラグランジュで働きながら、伊達に畑を購入して自身のワイナリー設立に向けて動き始めているのです。太平洋沿岸部の冷涼さを逆手に取った桜井氏の賭けはどう出るか?私はその答えを知りたくて今、ウズウズしています。ここはまだ畑しかなく、今後収穫した葡萄は道内のワイナリーで委託醸造するとの事。今後も目が離せない産地がまた見つかりましたので、進展があれば逐次ご紹介させていただきます。

< 2023年 5月 店主の独り言 >

 今月は珍しくBar(バー)のお話し。

 私は時々、残業のお供に南部せんべいや、ひねり揚げなど袋菓子を狸小路のドン・キホーテに買いに行きます。この前も袋菓子を探していると、壁に「ドンキが始めた酒屋Bar HANASAKU(ハナサク)開店!」と貼ってあります。これから残業だけど、ビール1杯ぐらい試してみようかと寄ってみました。場所はドンキの地下1階で南3条通り側の角。地下2階の酒売り場には沢山のビールがありますが、バーにビールは3種類しかありません。でも、初めて見たチェコのピルスナー・ウルケルで樽ビールがあったのでオーダーしました。下面発酵ビールの爽やかさと、香ばしいホップの風味はそのままですが、瓶入りよりもクリアでシャープな味わいに寄り道した甲斐がありました。

 下面発酵のビールは爽やかでのど越しが良いのですが、次は香り豊かな上面発酵のビールも飲みたくなりました。メニューを見てスコットランドのエール(上面発酵ビール)でブリュードックを頼みました。まずは香りが豊かでアールグレイの紅茶を思わせます。ふくよかなコクもあり、やっぱり2杯目は上面発酵がいいねと楽しんでいました。ところで1杯目は気づきませんでしたが、ビールを頼むとお店の方は大きな引き戸の冷蔵庫を開けて、最上段の棚に冷やしてあるグラスを取り出します。そしてタップと呼ばれる樽ビールのレバー下の注ぎ口にグラスを置いて注ぐのですが、このタップも冷蔵庫内の上段にあり、注ぎ終えると引き戸を閉めます。冷蔵庫の下段にはホースでつながった樽ビールがあり、つまり樽ビールも、ホースを含めた配管も全て冷蔵庫の中なのです。

 今どきのお店で樽ビール用のタップはバーカウンターの上に立っていたり、壁に何本か並んでいて目の前でビールを注ぎます。でも考えてみると樽から出て配管内に残ったビールは室温になる訳です。ですから味にうるさいお店では、注ぎ口から出たビールの始めの1秒分位はもったいないですが流しに捨てて、途中からグラスを置いて次ぎ始めます。でもここでは、樽も配管も注ぎ口も全て冷蔵庫の中なので、低温で管理されているわけです。更に冷蔵庫内の樽を見ると、よくある金属製のずんぐりした樽以外に、透明なペットボトルの大きな樽があります。調べると「キーケグ(KeyKeg)」という新素材の樽で、大きなペットボトルの中に銀色の袋が入っていて、その袋にビールが入っています。これは段ボール箱入りワイン(バッグ・イン・ボックス)と同じ構造で、病院の点滴と同様に中身の液体が減ると袋がしぼんで空気が入らず、酸化が少ない優れモノの容器なのです。

 結局一杯のつもりが二杯になり、この日は店に戻っても仕事が出来ずに仮眠をしてから残業を始めました。しかし飲食店の樽ビールもどんどん進化している事を知り、実りの大きい体験でした。実はここのバー、日本酒と焼酎が主体のお店なのですが、この樽ビールは絶対にお勧めです。

< 2023年 4月 店主の独り言 >

 先月はワイン会のお話で、今月はワインセミナーのお話し。

 2月の末にニュージーランドのセントラル・オタゴからリッポンワイナリーのオーナー、ニック・ミルズさんが札幌に来てセミナーを開催しました。元ニュージー・ナショナルチームのスキー選手だった彼はヒザを痛めた為に競技を辞めてフランスに行き、4年間仏ブルゴーニュ地方ヴォーヌ・ロマネ村のジャン・ジャック・コンフュロン、DRC、ニコラ・ポテル、その後はアルザスで研修し2002年に実家のワイナリーへ戻ります。そして当時のニュージーランドではまだ少なかったビオディナミ(バイオダイナミック)農法と、灌漑をしない葡萄栽培を始めました。

 このビオディナミ栽培とは有機栽培の1種なのですが、化学的な農薬と肥料を使わず、月や惑星の動きと植物成長の調和、動物との共生、独自の調合剤の使用等を特徴としています。セミナーの中で、リッポンワイナリーを紹介するための簡単なプロモーションビデオを観ましたが、畑の横で薬草類に水をかけて発酵させたり、土に埋めて独自の調合剤(プレパラシオン)を作って畑に散布している様子が映っていました。その後6種のワインをニックさんの説明を聞きながら試飲をして、質疑応答となりました。

 何人かの質問の後に、私も手を上げました。私は先ほどの映像を見て、「スタッフと共に畑の横でプレパラシオンを作っている姿に感動しました。ただ、フランスでは最近、大きなホームセンター等でビオディナミのプレパラシオンが販売されていると聞きましたが、そういった事はどう思われますか?」と質問しました。正直、私は「そういった安易な方法でビオディナミ栽培を始めても効果は期待できない」と言った答えを期待していました。するとニックさんは、どんな方法でもいいと思う。まずは今までの慣行農法に疑問を感じ、出来る所から始めてみて一歩でも前に進んでみることが大切だと思う。ビオディナミ農法は細かな取り決めが沢山あるが、20年続けてみて最近感じたことは、取り決めを一語一句守る事よりも、この畑の中で出来た薬草や動物のたい肥を用いて調合剤を作り、それを再び畑に散布することで畑の中で生命が循環され、土や微生物、動植物がより活発に活動を始めることが分かって来たと答えて下さいました。

 私の安直な考えを覆す、寛大で、懐が広く、明るい展望を持った答えにちょっと自分が情けなくなりました。ニューワールド産ワインの多くは、目標としているフランスの名産地の味わいを模倣したようなスタイルが多いのですが、ニックさんのピノ・ノワール種のワインは、例えばヴォーヌ・ロマネ風とかではなく、骨太な骨格を持った果実味と樽の風味が調和した独自のスタイルを持っています。ニックさんがワイナリーを始めて20年程ですが、このセミナーに参加して北海道のピノ・ノワールの一歩先を行っているのが分かりました。現在、北海道の各地でピノ・ノワールがどんどん栽培され始めています。もちろん最初は何事も模倣から始まるとは思いますが、ゆくゆくはその土地独自の味わいを目指して行く事を忘れては一過性に終わってしまうということを気づかされました。そう思うと、生産者の人柄と出来上がったワインの味わいとは共通する何かがあると感じました。

< 2023年 3月 店主の独り言 >

 今年の2月には道産ワインの大きな試飲会が、3年ぶりに2件開催されました。

 一つは比較的大手の生産者さんが集まる、道産ワイン懇談会が主催で、ロイトンホテル札幌で開催される「北を拓く道産ワインの夕べ」。もう一つは札幌京王プラザホテルで開催される、小規模でも個性的な生産者が集まる「ワインヘリテージ」が、コロナの落ち着きと共に3年ぶりに開催されました。コロナが猛威を振るったこの3年間は生産者さんとのやり取りはメールが主体で、試飲会やイベントなどでリアルで話す機会がないと、何となく一方通行感を感じていました。

 それが生産者と直に話が出来ると、昨年の天候とか醸造の話が直ぐに返事が聞けて、味わっているワインの理解度が高まります。また、ワインヘリテージのパーティー前に行われる、ワインとチーズの生産者によるパネルディスカッションで司会を行っていた、ワインライターの鹿取みゆきさんが、全国各地のワイナリーと共に「日本ワインブドウ栽培協会」(以下JVA)を立ち上げ、活動を始めたと発表されました。この協会はワイナリーが葡萄栽培に関わる問題点を共同で改善して行こうという協会なのですが、特に近年問題になっているのが、葡萄苗木のクローン指定が出来ないという点です。これは少々説明が必要なのですが、私たちはワインを選ぶ際に何という葡萄品種なのかを重視しますが、その品種が果たして何処から来た、どんな血統の品種かというルーツを明確にしようという動きです。

 ピノ・ノワール種等のヨーロッパ系葡萄の起源は古く、突然変異等を経て同じ品種でも国や、地方、あるいは村によって、性格が少しづつ異なって来ました。元は同じ品種でも、今では性格の異なる兄弟葡萄たちを別の品種と扱い、数字やアルファベットで管理する様になったのがクローンです(例・115,777,Abel、UCD5,MV6、等)。フランスとアメリカでは、オリジナル・クローンの管理を国の機関が厳格に行っていますが、日本の苗木商では新品種の需要がここ10~20年で急に高まった為に、クローンが不明のまま販売が行われて来ました。

 そこで前述の鹿取さん、岩見沢10Rワイナリーのブルース・ガットラヴさん、長野ヴィラデストワイナリーの小西さん他、全国の名門ワイナリーたちが集まって「JVA」を設立し、ワイン生産者が困っている問題に一社ではなく団体の力で解決しようと動き始めたようです。現在、協会の本部は長野県にあり、協会が直接、優良なクローンを輸入して、信州大学、日本の苗木業者と連携して、希望するワイナリーへ供給できるように準備を始めているそうです。こうした働きによって、益々良質な日本ワインが全国各地で出来る様になる事を願っています。

2023年 2月 店主の独り言

 今月は今更ですが、年越しのお話し。

 何度も書いていますが、私の年越しは札幌・時計台の前(当然屋外です)で、シャンパーニュを飲みながら時計台の鐘の音を聞いて新年を迎えていました。始めた理由は、私は中学の頃まで札幌の北1条西3丁目に住んでいて、周りはビルしかない中で子供の頃は時計台裏の芝生が唯一の遊び場でした。二十歳を過ぎて偶然見たテレビで「世界各地の年越しの風景」が映っていた時、ロンドンでは有名な時計台ビックベンの周りに人々が集まり、12時の鐘と共にそこにいた車が一斉にクラクションを鳴らして新年を祝っていたのを見て、「札幌だったら時計台だ!」と閃きました。

 当時の友人と飲みながらその話をしたら、皆がその場で盛り上がって時計台での年越しパーティーが決定。私は言い出しっぺで酒屋ですから、シャンパーニュとグラスは持って行く事になりました。さて、1980年12月31日夜、一張羅の黒いスーツと蝶ネクタイに真っ黒のサングラスをして、泡とグラス1箱を持って11時に時計台に行くと誰もいませんでした。そのうち皆は来るだろうと一人で栓を開けて飲んでいましたが、屋外だとグラスから香りは全く立たず、何より寒くて膝はガクガク震えてきます。結局友人は誰一人来ませんでしたが、時計台の前は色とりどりのスキーウェアーを着た観光客が、代わる代わる来ては記念写真を撮って行きます。そんな中で一人黒ずくめの男がシャンパーニュを飲んでいると、「あの人何なの?」と声が聞こえてきます。始めは友人が来ると思ったので、周りの人にご馳走すると友人の分が無くなると思い、周りの人を無視して一人で飲んでいました。

 当時は携帯が無かったので友人を呼び出すことも出来ず、ムカムカしながら12時を待っていると、自然に10秒前からその場でカウントダウンが始まり、「さん、に、いち、」の声と共に「カーン」と時計台の鐘の音がビルの谷間に鳴り響きました。これが、私が時計台カウントダウンを始めたエピソードです。そしてこの荒行のようなカウントダウンを40年続けました。

 そして41年目の2021年大晦日、私は体調を崩し起きることが出来ずに初めて欠席し、気持ちが萎えてしまいました。2022年の大晦日は準備をしましたが、家内と息子と3人、家で紅白を見ながら時計台用のシャンパーニュをゆっくりと味わい、そして思いました。師走の忙しい中を働き終えて、家族が集まりゆっくりと過ごすひと時。最初の年に思った「約束したのに何故、誰も来ないのだ!」の答えが42年後に納得出来ました。一人暮らしや、観光の方以外は、年越しの時間は家族にとって大切な時間だったのです。そんな訳で、私の時計台カウントダウンは40年間で終了しました。でも、時計台は鐘を鳴らし続けているので、荒業をしたい方はどんどん行ってください。そして、もし行かれた方がいらしたら、私にその様子を知らせていただけると嬉しいです。

2023年 1月 店主の独り言

今月は温泉のお話。

12月の休日に息子と休みが重なり、親が望む温泉と息子が希望のアウトレットパークに親子水入らずで行って来ました。ランチは清田区北野にある「そば処大和」。元白バイ警官だった大将の打つソバは人気でいつも行列です。次はお風呂、方角的に探して見つけたのが千歳の祝梅温泉。ここの看板は、2メートル強の倒れたボーリングのピンが目印。モール温泉という地中深くにある泥炭層を通って沸いた温泉は、濃いウーロン茶色でトロッと粘性のあるお湯。40度程の丁度良い熱さと柔らかなお湯に浸かっていると、じわじわと温泉の成分が肌に浸透する感じがたまりません。

ゆっくりお湯に浸かっていると、外から引っ切り無しにジェット機のエンジン音が聞こえてきますが、これも千歳の風情と思えば気になりません。私も家内もお湯が良ければ、設備は豪華絢爛よりはひなびた方が好きなので、ここはすっかり気に入りました。しかも源泉かけ流しの温泉料金は一人350円と、札幌の銭湯より安いのです。お風呂の後は千歳ワイナリーで、醸造担当の青木さんから新しい搾汁機と、スパークリングワイン用のジャイロパレットを見せてもらいました。そして最後は息子の希望である三井アウトレットパークで締めです。

アウトレット内にある「道の駅」的なスーパー。ここがまた安く、カボチャ、葉物、レンコンなどの野菜、果物を一通り買った後に、魚売り場で見つけたのが、幅20センチ×長さ40センチ以上ある半身の大きなタラが650円!

普段行かないショッピングセンターでの買い物は発見が色々あって楽しかったです。でも何より嬉しかったのは、小さな時は何処に行くのも一緒だった息子が、小学校後半から親離れをして10年強。それが又こうして、家族3人で出かけられた事に感謝しました。僕が小さかった頃は、実家の果物屋は休みが無かったので家族で出かけることは無く、外での食事は父と、買い物は母とで。僕の両親が味わったことが無い家族全員での外出、この幸せを満喫している僕を両親はきっと天国から笑顔で見ている事でしょう。

2022年12月 店主の独り言

2022年で私は63歳ですが、札幌が市になって今年で100年だそうです。

この市制100周年の記念講演会が札幌市中央図書館で11月に行われ、札幌の出版社・亜璃西(アリス)社の和田由美さんが札幌駅前通りの街並みの変化や文化の歴史について話をされました。この講演で多くの時間を掛けたのは、1951年黒澤明監督が札幌を舞台にした映画「白痴」。私も昔に一度見ましたが、まだ白黒映画でアクションシーンもなく、娯楽映画好きな私にとっては暗く重たい印象が残っています。和田さんは街は破壊と、創造を繰り返し発展する、無くなった風景や建物は人の記憶の中にしか残らないが、こうして映画になることで、昔の札幌を今も見ることが出来るとおっしゃっていました。

また亜璃西(アリス)社が今年出版した本「さっぽろ燐寸(マッチ)ラベル グラフィティ」の中から、札幌にあるお店のマッチ箱の写真もたくさん紹介されました。このマッチは札幌の上ヶ島オサム氏が収集したもので、飲食店だけではなく旅館、商店、銀行、メーカーなど多岐にわたります。上ヶ島氏はマッチラベルだけで何と数十万枚所有し、札幌関連だけでも数千枚、今回の本には厳選した約1200枚が掲載されています。上ヶ島氏は小学校の頃からマッチを集め始めたそうですが、未成年だった自身は当然ですが両親や家族もタバコを吸っていなかったそうです、不思議ですね。

先月は、札幌の南3条通りのカレンダーのお話しで、今月もこうして地元ネタとなりましたが、皆さんにも書店で「さっぽろ燐寸(マッチ)ラベル グラフィティ」を是非見ていただきたいと思います。たった数センチ角のスペースに「店名」「住所」「電話番号」と共に描かれたイラストが皆センスが良く、和風あり、洋風あり、アールデコっぽかったり、独自の味わいが感じられます。

話は戻って映画のお話。札幌が舞台の映画で私のおすすめは、1996年の怪獣映画「ガメラ2レギオン襲来」。ススキノ十字路の角にあったデパート「札幌松坂屋」が怪獣の巣となり、ガメラと共に怪獣が札幌で暴れまくります。しかしこの建物の実際の運命は紆余曲折を経て何度も名前が変わり、最後は「ラフィラ」の名称で廃業し怪獣ではなく解体業者によって2020年に取り壊されました。もう1本はちょっとマニアックですが、1989年吉本ばなな原作の映画「キッチン」。この映画は函館で撮影されましたが、一瞬ですが札幌・地崎バラ園前にある美しい夜景で知られるBAR、「N43」さんの白い屋外通路が登場します。近年の映画では、やはり2011年からの3部作・大泉洋主演の「探偵はBARにいる」になるでしょう。

2022年11月 店主の独り言

今月は札幌南3条通りのお話し。

この3条通りは私の知る40年以上前から大箱の店舗が少なく、小さくても個性的なお店が点在しています。西1丁目には今でも語られる喫茶の名店「イレブン」がありました。物静かで強面のオーナー、日比さんが落とす当時珍しかった深入りのコーヒーと、ジャズが流れるとてもクールなお店。ところがこの喫茶店、夜の9時を過ぎると、店奥のテーブルに狸小路の店主らが集まり、神輿(ミコシ)の会「北海睦」の会議室の様になって、オジサンのたまり場状態。このお向かい西側には、今も人気で居心地の良いビアホールの「米風亭」。一昔前、夕方前のカウンターには欧米からの外人さんが集まり、ギネスのパイント・ジョッキを飲みながら英字新聞を読んでいて、まるでロンドンのパブの様でした。そして次の角を右に曲がると、今は無きおやき屋「千歳焼」。昼は白衣を着たお父さんが焼き、夕方からは映画好きな娘姉妹が切り盛りしていました。ここのクリームおやきが好きでしたが、タコ焼きも美味しくて、スガイビルで映画を観ながらよく食べたものです。

さて、札幌在住のイラストレーター・松本浦(マツモト・ウラ)さんは、街の様々な店舗や古い家を題材に作品を描いています。毎年9月には個展を開いて、多くの新作と共にイラストが載った翌年のカレンダーを発表。今回の個展に出ていた来年のカレンダーのテーマは「南3条通」。表紙は南3条西14丁目・みゆき交番の前を走る市電の除雪車・ササラ電車。1,2月は5丁目・喫茶ランバンさんと、オープン前のバーFMさんのシャッター。3,4月は何とワインショップフジヰとお隣の中山ビル。5,6月は東3丁目・八百屋の南里商店さん。7,8月は6丁目・狸小路市場。9,10月は7丁目・パンのポームさんが入っているKAKUイマジネーション。11,12月は6丁目・ビストロ・エルスカさん。

こうして当社も南3条通の仲間に入れていただき感謝なのですが、浦さんの個展にあった作品の店舗でも、「今は解体され残っていません」と書かれた建物がいくつもあってちょっと複雑な気持ちになりました。考えてみるとコロナ禍だけでなく、都市計画や、オーナーの健康状態や諸事情で5年、10年後に残っているのかは、現オーナーですら分からないとも言えます。ただ今は無くても、イレブンや千歳焼の様に記憶に残るお店と、残らないお店があるのも事実。

当時、私は夜10時過ぎに喫茶イレブンの前を通って帰宅していました。毎晩ここでは、ホールの女性が重たいテーブルと椅子を全て店の外に出して、店内を清掃していました。冬、吹雪の時でも同様にしているのを見て、長く繁盛しているお店はお客様の居ない時でも努力している姿が心に残っています。そう思うと、将来の行く末の心配よりも、お客様の心に残ってもらえるお店になるように今を努力する事だと感じます。実は、この2023年版カレンダーを当社でも販売しています。サンプルも展示していますので、気になる方は是非ご来店いただき、現物をご覧ください。

2022年10月 店主の独り言

 9月の休日に息子と三人でキャンプに行って来ました。

 コロナが始まった2020年から3年間程、家内と二人で道内各地をキャンプして来ましたが、テントも小さく、寝袋も二つしかありません。今回は大人になった息子と3人なので、札幌市南区常盤(トキワ)にあるキャンプ場の設置されたテントに泊まる「グランピング」を体験して来ました。当初はベッド付きテントに宿泊予定でしたが、その日は台風14号の影響で大雨が予想された為、貨物輸送用の鉄製コンテナを改造して中に二つのベッドがセットされた所に三人で泊まりました。そして予報通り、その日の夕方からはずっと雨でしたが、風が強くはなかったので、コンテナの前に設置されたタープ(天井部分だけのテント)内のテーブルで、雨を見ながらゆっくりとバーベキューを屋外で楽しむことが出来ました。

 息子は初めて自分一人で火をおこし、焚火とバーベキューの火の世話が好きになった様です。今回もお肉は、札幌東区役所そばの塩原精肉店の生ラム。厚さ1センチの超厚切りにカットしていただいたので、ジンギスカンと言うよりはラムのステーキ。表面が少し焦げても内側はピンク色で、噛む度に肉の旨味が楽しめます。そして、もう一つの楽しみはワイン。まず乾杯のシャンパーニュはボーモン・デ・クレイエールのブラン・ド・ノワールで、ミレジム2012年(7,480円税込)。ピノ・ノワール種70%、ピノ・ムニエ種30%をブレンドし、瓶内二次発酵と熟成に96ヶ月もさせていますが、黒葡萄からの凝縮した果実味がまだまだ濃すぎて、液体ではなくゲル状の様に感じられました。多分、若い頃のロバート・パーカー氏がコメントしたら「ワオ、ワオ、ワオ」と言って95~96点位の評価をしたと思います。

 次の赤は南仏から。生産者はサンタ・デュック、葡萄はラストー村のブロバック畑産で、収穫は2014年(2,530円税込)。品種はグルナッシュ種80%、シラー種10%、ムールヴェードル種10%のブレンド。醸造は野生酵母を使ってゆっくりと行い、その後オリと共にタンクで熟成させています。アルコールは14.5度と高いですが、8年を経て果実味とアルコール感、スパイス感が調和し始めてきています。個人的には上記のシャンパーニュよりも熟成感が楽しめるラストー村の赤の方が気に入り、塩コショウしたラム肉との相性も良かったです。

 こうして美味しい肉とワインを家族三人で楽しんでいましたが、私は前日の残業から睡魔に襲われてしまい、なんでも椅子に座って箸を持ったまま寝ていたそうです。その後は二人に起こされ、夜の8時前に一人でベッドに入って朝まで寝ていました。そんな訳で、食事後半の記憶はございませんが、息子は夜中まで一人で焚火と戯れていたようです。