2003年 10月

 今回は小別沢の永田さん宅におじゃました時の話をします。
 まず、永田さんの紹介をしますと、旦那さんは「アトリエ・オン」という設計事務所を札幌市西区小別沢の自宅でされています。そして奥さんはその家の周りで山羊(ヤギ)を10頭ほど飼っていて、その山羊のミルクからフランス・ロワール地方で有名なシェーブル・チーズを造っています。このシェーブルが実にうまいのです。また家の横にある窯で焼き上げたパン・ドゥ・カンパーニュ(山羊乳の天然酵母を使った田舎パン)がこれまた絶品なのです。しかし、知り合いにしか分けておらず、私は時々ワインを持参しておすそ分けをいただいています。

 さてその日、永田邸に伺うとなにやら音色が聞こえてきます。中に入るとまだ高校生の池田小夜(さよ)さんがピアノを、大学生の能登谷安紀子さんがヴァイオリンを練習していました。何でも初顔合わせで音合わせをしているときに偶然伺ったのでした。その後4曲ほど演奏を聴いたのですが驚きました。
 数メートルの距離で聴くヴァイオリンって、聴く人に戦いを挑むかのようにストレートで鋭いのです。絶対的な音量はアンプを使った電子楽器の方が大きいでしょうが、能登谷さんの弓を持つ指の動きと間髪入れずに自分の耳に振動が届く感覚、その音の立ち上がりの早さは初めての経験でした。さらに、まだ高校2年生の池田さんは、いま渡された楽譜で初めての曲を演奏していると言うのです。
 2歳になったばかりで落ち着きのない息子が家内の膝の上でずっと真剣に聴いていました。普段からクラシックは聴きませんでしたが、ジャンルどうこうではなくあの臨場感とあきれる程の技量に打ちのめされた僕の頭は真っ白になりました。池田さん、能登谷さん素晴らしい演奏を聴かせていただきありがとうございました。