8月初旬、仏ブルゴーニュ地方のワイン生産者シモン・ビーズ一家が札幌を訪れました。今札幌では月に何回かメーカー主催のワイン試飲会が行われています。その際に現地の方が来る事も珍しいことではありません。しかし、今回のビーズ一家はバカンスの途中で試飲会を開く形だったので、お子さんも参加してのアットホームな雰囲気の会でした。
後で話を聞くと、日中、夫のパトリックさんは大通公園のビアガーデンでビールを飲み、お子さん二人は9丁目の公園で水遊びをしていたそうです。
もちろん試飲会となれば、日本のブルゴーニュファンはマニアックですから質問もビオディナミ(無農薬、有機栽培法)の事や、他の生産者の事まで熱心に聞いていました。私が興味を持ったのも、そのビオの話です。
奥さんの千砂さん自身も興味があって、ビオの研究会に参加してかなり勉強したそうです。そして思ったことは、素晴らしい栽培法だが制約が多いということです。ビオは無農薬の代わりにプレパラシオンと呼ばれる自然の物質から生成された数種の調合剤を、それぞれ月の歴で決められた日に畑に散布します。ビーズ家の畑23ヘクタールはいくつもの村に点在しているため、決められた日に全ての畑に与えるにはヘリコプターを使わなくてはならな い。でも無農薬の為にヘリコプターを使うのは矛盾してはいないだろうか?
さらにパトリックさんは「毎日畑に出て木を見ていれば、葡萄は何を欲しているのかが解る。何も欲していない木に、暦だからと物質を与えるのは間違っている。」と言っていました。
私は妻からよく「なぜ私の気持ちが解らないの!」と抗議されます。それなのにパトリックさんは、喋らない木の気持ちが解ると言うのです。
最終日、ビーズ一家と私は三笠の山﨑ワイナリーを訪問しました。醸造所で2時間以上話をした後、あいにくの雨でしたが畑に出ました。白葡萄ケルナー種の所で山﨑さんが「ケルナーは毎年肥料を欲しがるのです。」と言いました。千砂さんが通訳をして伝えると、パトリックさんは「ピノは?」と問い、山﨑さんは「いやピノノワールは肥料を欲しがらない。」と答えました。
私は気付きました、ブルゴーニュだけでなく三笠にも、木の気持ちを解る人がいる。
パトリックさんは「今年の収穫は9月15日の予定だ。息子さんをその時期フランスに来させられないか?」山﨑さんは「うちの収穫は10月だから大丈夫、息子をお願いできますか。」と言うと、パトリックさんは「今年は収穫時だけでも、来年は1年間かけて栽培を学びなさい。」と言ってくれました。
私は木の気持ちは解りませんが、こうして初対面の人間が同じ「百姓魂」を持つことで解り合える姿を見ていると、ワイン屋をやっていて本当に良かったという実感がこみ上げてきました。
最後に息子の亮一さんは05年9月9日出発が決まりました。
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