9月の休業日にワインショップフジヰとフジヰ食料品店のスタッフで、余市の葡萄栽培農家さんを見学して来ました。一軒目は千歳のグレイスワイナリーとドメーヌ・タカヒコに葡萄を納入されている木村さん。二軒目は念願の余市で畑を購入し、今年から葡萄を植え、ワイン醸造所も完成したドメーヌ・タカヒコの曽我貴彦さん。
二人の農家さんが力を入れるのはフランスの黒葡萄ピノノワール種です。 北海道でもワイン用の葡萄栽培は増えて来ていますがまだまだ少数派、水田や畑の中に時々垣根仕立ての葡萄畑が点在する感じです。ところが果物の町、余市では逆に水田や畑はなく、見渡すと周りは果樹園だらけ。特に蘭島寄りの登(ノボリ)地区は垣根仕立ての葡萄畑が連なっており、ちょっとフランスのコートドールのような風景です。
二十数年前、㈱はこだてワインが数軒の契約農家さんに、当時は育つかどうかも解らないピノノワールの苗木を斡旋しました。この品種は栽培が難しく収量も低いため今は別の品種に植え替えた農家さんも多いそうですが、余市の木村さんはこの品種に将来性を感じて少しずつ栽培を増やして来ました。
一方まだ30代の曽我さんは、今まで有名なココファーム(栃木県)で葡萄栽培と醸造を行ってきた方。原料葡萄が地元の畑では足りない為、醸造長だったアメリカ人ブルース・ガットラヴ氏と共に全国の産地を回って葡萄の買い付けを行って来たそうです。その彼が選んだ場所が北海道の余市だったのです。
余市は果物とニッカのウィスキー工場で知られる町。ニッカの竹鶴氏が工場を余市にした理由の一つは、ウィスキーは製造後から出荷まで数年の熟成期間が必要で、その期間の売り上げ確保に地元名産のリンゴで100%ジュースを作り販売していたそうです。1934年設立時の会社名は「大日本果汁㈱」。これを略した「日果(ニッカ)」がウィスキー名の由来です。
昔から果実の町として王道を行く余市。しかし近年、ワインに関しては空知地方が注目され、私が応援する三笠市の山崎ワイナリーだけではなく鶴沼ワイナリー、宝水ワイナリー、中澤ヴィンヤードと素晴らしいワインが出来はじめています。さらに前述したブルース・ガットラヴさんも、今、岩見沢市に暮らし葡萄を植え始めています。
現在日本の葡萄畑の総面積は約2万ヘクタール。ただ生食用が多くワイン用は約一割の2千ヘクタールと言われています。そして北海道のワイン用葡萄畑の総面積は、先駆者の十勝ワインと、おたるワインで知られる㈱北海道ワインのおかげで、全国の約半分にあたる千ヘクタールにもなりました。特に余市では本州企業のワイン用葡萄の買い付けが急激に進み、地元ワイナリーが入手困難になって来たと言われる程です。
ワインショップフジヰでも販売の多くは輸入ワインですが、私自身は地元のワインに特別な思い入れがあります。皆さんも地元の食材でごちそうを作った時、たまには北海道産のワインを合わせてみてはいかがでしょうか。
さて、今月のおすすめワインです。
今月は熟成したワインでいい物が多かったです。若いワインにはない豊かな熟成香と芳醇な味わいを是非お試し下さい。まずはジャイエ・ジルが造るオート・コート・ド・ニュイ地区の04年。木樽の風味と豊かな果実味がうまく調和し、シャルドネ種の理想の姿と言える味わいになってきました。
赤では南仏でヌーヴォー・モンドが造るコトー・デュ・ラングドック00年。シラー種とムールヴェードル種からの強くスパイシーな味わいが10年を経てこなれ、アニマルっぽい熟成香が開いてきました。イタリアからは86番ロッカ・ディ・モリのコペルティーノ・ロッソ03年。暑かった03年らしく豊かな果実味が今もたっぷりで、更なる熟成も可能でしょう。
でも、今月のイチオシはアンヌ・ボエクラン(アルザスの協同組合のブランド)でアルザス・グランクリュの97年産リースリング種と、99年産ゲヴルツトラミネール種(完売)からのワイン。共に熟成香だけで酔ってしまう程の魅力がたっぷり。更に味わいは酸化や枯れた感じが微塵もなく、これこそ芳醇と言える味わいです。ぜひこのワインをお試し下さい。