今年の2月号の「独り言」に書いた、4席しかない小さなラーメン屋さんが、諸事情から「十割蕎麦 そば丸」に変わって再オープンしました。
ここでは注文を受けるとその都度手で粉と水を混ぜて蕎麦を練り特製のマシーンに入れます。鍋の上にセットされたこの機械がところてん式に押し出すと打ち立て細切り蕎麦が煮えた鍋の中に落ちる寸法。つなぎの小麦粉が無い為あっと言う間に茹で上がり、麺を洗い氷水で締めて、もり蕎麦の出来上がりです。
値段はもり蕎麦390円、北海道産そば粉を使ったもりは490円。蕎麦好きで大食いの私は「北海道産、新そば入荷!」のポスターを見て、もり蕎麦は490円道産粉の方を選び、温かいかけ蕎麦は並みの粉で390円の計2枚の食券を購入しました。
まずは冷たいもり蕎麦。薫り高さとボソボソ感が、つなぎ無しの十割新そばを感じさせます。つゆは塩っ辛くて甘い江戸前スタイル。昔、知人に連れられ浅草の並木藪そばで教わった粋な食べ方、箸でつまんだ一口分の蕎麦につゆは先っちょに一寸だけ浸けてすすり込むスタイルをしたくなりました。
私の個人的な好みで言うと、まずはたれを生のまま少量味わい、その後はわさびよりは少量の唐辛子が合うタイプ。一方温かい方のつゆは攻撃的ではなくカツオだしの感じが柔らかく口の中で広がります。こちらは唐辛子も良いけれど、私は少量の山椒が合う気がしました。
高級蕎麦店のムードはありませんが、麺は良質な粉を新型の機械で作り、たれは江戸前の伝統的なスタイル、価格はお値打ちと、私はすっかり気に入ってしまいました。一杯ずつ粉から作るので少し時間はかかりますが、雰囲気はなくても価格以上の味わいを求める方にお薦めします。(十割蕎麦 そば丸 札幌市中央区南3条西3丁目4-2新山ビル1F ビルは3条通り沿い北向き 080-1889-7740(コンノ) 営業11~20時 火曜定休)
さて今月のオススメワイン。
今も高騰を続けるボルドーワイン。そんな中で見つけたお買い得品はオーメドック地区のドメーヌ・ド・カルテュジャック08年。グラスに注ぐとスモーキーな香りが華やかに広がり、柔らかな果実味と細かなタンニンがボルドーらしさを感じさせます。
あとはポイヤック村のレ・シュヴァリエ・ド・ドプラ07年。ボルドー最高の産地と呼ばれるポイヤック村のワインでこの低価格は予約輸入だから実現できました。ミディアムな果実味とタンニンが4年を経てこなれ始めて来た頃。今でも楽しめますが、さらに熟成を待てる方はとても良い買い物だと思います。
今月は再入荷も含めてブルゴーニュ産で良い物が多かったです。白ではムルソー村の名手ミッシェル・ブーズロー氏のアリゴテ種08年産。軽くて酸っぱい印象のこの品種ですが、彼が造るとふくよかな果実味と樽熟成による複雑さがあり、もしワイン名を明かされずに私が味わったら「ブルゴーニュの有名生産者が造るシャルドネ種」と答えそうです。
そしてもう一つの白はまさにそのパターンで、名門アルベール・グリヴォー氏が造るブルゴーニュ規格のシャルドネ。ここの筆頭畑はムルソー村の1級クロ・デ・ペリエールですが、その畑の斜面上部にあった休耕地に植えたシャルドネ種からのワイン。村名は付かなくても味わいはまさしくムルソー村を感じさせます。
赤はアンリ・ボワイヨのヴォルネ村1級フレミエ畑07年。開けたてからチェリーシロップとカカオの香りが広がります。完熟まで収穫を遅らせ、更にかなりの低収量なのでしょう、凝縮した果実味の濃さはまるでボルドーのようです。
このワインの理想的な飲み方は数本購入し、まずは1本すぐに味わって果実味の濃さを体験し、残りは2017年頃まで買った事を忘れて熟成させるのが最適ではないでしょうか。
少し熟成したワインではロッシュ・ド・ベレーヌのブルゴーニュ ピノ・ノワールでヴィエイユ・ヴィーニュ(古木葡萄の意)05年。村名は付かなくても古木葡萄と天候の良かった05年のお陰なのでしょう、6年を経た今も凝縮した果実味がたっぷり楽しめます。ちょっとした食事でも、このワインがあれば華やいだムードに変わる魅力を持っています。
もう1本はシャンボール村の生産者ミッシェル・モドがこの村の葡萄で造った04年産。繊細なイメージで知られるシャンボール村、しかも7年を経た04年産の割には強さを持った味わいです。
この味わいから私は所有する畑はこの村でもモレサンドニ村側にあるのではと思いました。モド氏は高齢で跡継ぎもなかったため、04年で引退し畑は貸し出されたそうです。人気の高いシャンボール村の熟成ワインでこの価格は間違いなくお買い得です。
次は南仏からのお買い得ワイン。シャトーヌフ・デュ・パプ村の名門アンドレ・ブリュネルがコート・デュ・ローヌ地区で購入した新しい畑から造る赤。この畑はローヌ地区とヴォークリューズ地区の二地区に跨り、ヴォークリューズ側は格下のヴァン・ド・ペイ規格になるため、同じ畑のワインですがローヌ地区側より値付けが安くなっています。
葡萄はグルナッシュ種90%、カリニャン種10%で、果実味に力強さとスパイス感が合わさったローヌ地方らしい味わい。それが規格が変わるだけで、お安く楽しめるのですから言う事ありません。
イタリア・アブルッツォ州のカンティナ・トロがモンテプルチアーノ種で造るカジオーロ07年。とにかく濃いワインで、グラスの向こうが透けて見えません。同じ州の中でも濃さで知られる「カサレヴェッキオ」より上でしょう。4年を経た07年産ですが、やっと若さが落ち着き始めた頃で熟成感はこれから。安くてもフルボディワインがお好きな方には絶対オススメです。
最後は食品から、いずも地元農協が作る珍しい国産干しいちじく。島根県多伎(タキ)町名産の蓬莱柿(ホウライシ)種は上品な甘さとしっとりとした食感が心地良く、ワインだけではなく上質な日本茶にも合いそうな味わい。たまには和物のデザートも新鮮ですよ。