学校の成績が芳しくなかった私は、終業式の日に渡される通信簿を開けるのに一瞬ためらいます。意を決して中を見ると当然「5」は無く、多くの「3」の中で「2」もしっかり自己主張。「世の中から通信簿がなくなればいいのに」と貰うたびに思ったものです。
私にとってイヤな思い出しかない通信簿ですが、飲食業界では皆の通信簿が12年4月20日、人前にさらされるというので、昨年からちょっとした騒ぎでした。そう、噂のミシュランガイド北海道版の発売です。
フランスのタイヤメーカーであるミシュラン社の創業者が、1900年に車の旅行者の為、ガソリンスタンドや修理工場、ホテル、レストランを掲載した小さなガイドブックを刊行したのが始まり。
その後、美味しい店を探すために覆面調査員を組織してフランス各地を調査し、1926年から美味しい料理を星の数で表す評価法が生まれたそうです。
さてこのミシュラン北海道版を読んでみると、高級店を厳しく批評するのかと思いきや、家庭的な店も豪華な店も、各店のお薦めメニューやチャームポイントを専門用語なしに読みやすく記載してあり、どのページを見てもお店に行って食事をしたくなります。
フランスで112年前から続く歴史あるレストランガイドですから、この本に掲載されるか否か、あるいは3★評価か否かで、本国フランスではシェフが解雇されたり、最悪は自殺に至る事もあると聞きます。
その覆面調査員(今回はフランス人と日本人で構成されているとか)が北海道に来て、フランス料理だけではなく和食、イタリアン、中華、すし、ラーメン、そば、ジンギスカンとあらゆるジャンルの料理を食べて、約700軒のレストランとホテルを選びました。
知っている店が載っていると嬉しいものですが、逆に自分が好きでも載っていない店もありました。そこは覆面調査員が見つけられなかった、自分の隠れ家と思いましょう。そしてたまには、この本で見つけた新しいお店に食事に行ってみてはいかがでしょうか。
因みに、残業前に近所で済ます今日の私の夕食は、南5西2第7グリーンビル1階にある立ち食いそばの「山忠」。娘さんとお父さんが打った太めの麺は安くて盛りが良く、覆面調査員が見つけられなかった私の隠れ家です。
そして今月のオススメワイン。
今月は千円台のワインで良質な物が多く見つかりました。
仏ボルドーからはシャトー・デュ・ボワ・シャンタン09年、規格はボルドー・シュペリュールです。通常ボルドーでこの価格ですと、正直言って多くは望めません。しかしこのワイン、しっかりとした果実味とタンニンを持ち、アフターには木樽の風味まで楽しめます。ちょっと驚きの出来でした。
ブルゴーニュ産は千円台ではありませんが、ボーヌ村のエマニュエル・ジブロが造るブルゴーニュ規格の赤06年。40年以上有機栽培を続けた葡萄は6年を経て旨味が広がり、果実味が濃くなくても豊かな味わいが楽しめます。ノンフィルター瓶詰めでワインには細かなオリが舞っていますが、これこそが旨味の証なのでしょう。
南仏はお値打ちワインの宝庫だけに見逃せません。白はフォンカリュ農協のシャルドネ10年。3割を樽で発酵、熟成させた味わいは豊かな果実味と調和した木樽風味を持ち、シャルドネ種のお手本のような仕上がりです。
一方マレノン農協の上級品、コート・デュ・リュベロン地区のグラン・マレノン06年は、地元のグルナッシュ種やヴェルメンティーノ種からの白。シャルドネ種とは違って果実味ではなくミネラル感と木樽の風味が6年を経て調和しています。川魚や山菜等に合わせてみたくなる様な少し個性的な味わいです。
赤ではコルビエール地区のエトワール・デュ・マタンが造るジー・ヴァン10年。有機栽培のグルナッシュ種、カリニャン種、他からのワインはミディアム・ボディですがインパクトがあり、アフターには旨味が広がる不思議な味わいです。
もう一つの赤はコトー・デュ・ラングドック地区のシャト・サンピエール・ガリグー07年。ボルドー、ブルゴーニュとは違って南仏の07年は素晴らしい作柄でした。スパイス感たっぷりの地元品種同士が5年を経て混じり始め、熟成香はまるでゴマ油を思わせます。アルコール辛さも落ち着き始めた飲み頃ワインです。
イタリアからも今月は安旨ワインが数多く入荷しました。マルケ州のヴェレノージ社が造るロッソピチェーノ10年。サンジョベーゼ種とモンテプルチアーノ種からの赤は果実味がたっぷりのフルーティタイプ。赤が苦手な方にもオススメできるワインでしょう。
また、ここの上級品ロッジョ・デル・フィラーレ07年は奥行きとスケール感を持つ味わいで、この価格はかなりのお値打ち。伊ガンベロロッソ誌でも3★評価を受けています。
白ではヴェゼーヴォ社がファランギーナ種で造るコクのある辛口。華やかな香りと凝縮した果実味は、オリーブオイルとの相性も最適でしょう。
スペインからはバレンシア地区のフィンカ・エンゲラ社が地元のヴェルディル種、他で仕込んだ白10年。良質なオレンジで知られる産地ですが、この葡萄からのワインにも不思議とオレンジを思わせる風味が感じられます。豊かな味わいを持ち、有機栽培でこの価格ですから、一度買われた方はリピーターになる方が多いです。
最後は地元北海道から、千歳ワイナリーのレシラ・ロゼ11年。葡萄は有名な余市の木村農園産ピノノワール種を使い、実を潰して数日後のピンク色に染まり始めた時期に果汁をタンクから抜き、果皮を入れずに発酵させた爽やかな辛口ロゼ。お花見や食前酒にはピッタリのワインです。