11年夏に出版された鹿取みゆき著「日本ワインガイド」のその膨大な情報量と正確さに驚きました。
さらに読んでいくと、文章全体から日本の葡萄から造った日本ワインと、生産者さんに対する作者の熱い思いが伝わってきます。
仕事柄、ワイン関係の本は多数読んでいますが、今までに類を見ないガイドブックに、私は感動し昨年は毎日のように多くのお客様にこの本をご紹介していました。
その著者、鹿取さんが12月の中旬に北斗市のワイン生産者・佐々木夫妻と共に当店にお越しになりました。
初めてお会いした鹿取さんは、気さくで、飾らず、すぅーと溶け込む自然派ワインの様な方。
当社の北道道産ワインのコーナーを見て、増毛(マシケ)のポワール(洋梨のスパークリングワイン)を手に取り「これが飲みたかった!」とすかさずチョイス。
更に店内をおもちゃ売り場に放たれた子供のように(失礼)見て回り、九州産のネオ・ジンジャエールと、英国製のキニーネ入りトニックウォーター「フィーバー・ツリー」を見つけ、バーカウンターで試飲されました。
この本の取材で回ったワイナリーは、全国で多分100軒以上でしょう。
今では、国内のワイン生産者でこの本を知らない人はいないと思いますが、出版前は初対面に近い形で現地に伺い、原料葡萄の入手先等のデリケートな問題をどうやって調べ上げたのかが不思議でした。
本の最後にある作者のプロフィールには、「東京大学教育学部卒業のフード&ワインジャーナリスト」と書かれています。
自分の通信簿には苦い思い出しかなく、回りに東大出の方はいなかったので、私は勝手に鹿取さんを高級官僚の様な方と思っていました。
でも、お会いして話をしていると、二人の男の子さんを育てながら、仕事をされている気さくなお母さんと言った感じです。
そして何か興味があると素直に質問されます。無垢な心を持った方からの質問は、答える側も誠実にお答えしたいと思ってしまうのでしょう。
鹿取さんの人柄によって引き出された回答が、たくさんの正確な情報となりこの本になったのだと思いました。
さて今月のオススメワイン。
まずはアレック・ガンバル氏が造ったブルゴーニュ規格の白10年は、村名規格のワインをブレンドした為に村名は名乗れませんが、
品質は村名規格に近いもので、ちょうど中田さんが造るルー・デュモンと近いスタンスを持つと思います。定価は3000円ですからこの価格はかなりお得です。
赤はカレのボージョレで、蔵元で10年以上忘れられていた01年産。ギャンブラー気質を持つ私ですら、発注には勇気が必要でした。
グラスに注いだオレンジ色の色調を見た時はもうダメかなぁと思いましたが、キノコや油粘土といった熟成したピノ・ノワール種の香りが広がり、
味わいには意外な程枯れた感じが少なく、もう少しはこのピークの味わいを保っていられそうな気がしました。
古酒でこの価格はあり得ませんから、古酒入門ワインとしても最適かと思います。私個人としては、これが今月1番のお気に入りです。
ボルドーからはオー・メドック地区のシャトー・ベル・ヴュー06年。近年評判のシャトーらしく、凝縮した果実味とタンニンがたっぷり。
飲まれる1時間ほど前に抜栓されるか、もう1~2年ほど熟成させると、香りも開き始めることでしょう。
南仏からはアティチュードがコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュの葡萄で造るグランド・オディアンス08年。
グルナッシュ種やシラー種からのスパイス感と、熟成香が上手く調和し始めたこの味わいでこの価格は驚きです。今月1番の安旨ワインでしょう。
そこそこの価格にはなりますが、さすがに別格だなぁと思わせたのがアルザス地方のトップ、ツィント・フンブレヒトが
ヴィンツェンハイム村のゲヴュルツトラミネール種で造る白08年と、ロワール地方サンセール村のアルフォンス・メロのサンセール村で10年産。
飲んだ印象からはアルザスが6000円、サンセールが3000円はするでしょう。共に収量を下げて得られた、凝縮感と華やかな香りが楽しめます。
シュド・ウエスト地方からはプレモンがVDQS規格サン・モン地区で造った99年産。
馴染みがないタナ種主体でカベルネ種の上品さはありませんが、力強く骨太な味わいが楽しめます。
安くてフルボディタイプがお好みの方には、ぜひお薦めします。
私の近年の好みはドイツ。モーゼル地方ボリッヒがトリッテンハイム村アポテーケ(薬局の意)畑のアウスレーゼ規格で造った何と93年産の白。
一部にコルク片が浮いている為に、半額になって入荷しました。20年近く熟成した伝統的甘口ドイツワインをこんな価格で楽しめるとは信じられません。
一方、同じドイツでもケスター・ヴォルフが造るクラシックは現代的な辛口スタイルの白。
温暖なラインヘッセン地区が得意とするシルヴァーナ種は、ふくよかな桃の果実味と穏やかな酸味をミネラル感が包み込みます。
同じドイツでも味わいのスタイルが新、旧と違いますが、共に完成度は高いお薦め品です。
食品では地元、北海道・増毛町農産加工組合が作る洋梨果汁。
果汁100%でも、濃縮還元ではなくストレート果汁は違います。瓶の底には1センチ以上沈殿物がございますが、これこそが旨みの元なのでしょう。
飲む際は瓶を振って旨みの元を混ぜてから、グラスにお注ぎください。生の果実を頬張ったような風味が口中で広がります。
フランスからはボベッティ社のショコラ各種。特にピンクペッパー・ショコラは、甘さとコショウ辛さが舌の上で対立しながら溶け合います。
マスタードやローズマリーも同様の大人のためのショコラです。
コーヒーもいいですが、ブランディと共にいただくと、おやすみ前の一時が恋しくなるでしょう。