2月の下旬、余市へ行って来ました。
毎年この時期、余市の葡萄栽培農家さんがワイン生産者さんと共に開催している「余市のワインを楽しむ会」に参加するためです。
会場は余市町中央公民館2階の会議室と廊下を全部使い、立食形式で行われます。
今回の入場者は450名、地元では募集後すぐに完売となるプラチナ・チケットだそうです。
私は昨年から参加していますが、ワインをサービスする各メーカーのブース前はすし詰め状態。
その中でワイン・グラスと、試飲のコメントを書くノートを持っていると、初めての方に名刺を渡すことが出来ません。
そこで妻に、「札幌・ワインショップフジヰ・藤井敏彦」という名札を頼んだ所、出来上がった名札は、
横16センチ、縦11センチの特大サイズ。付けるのに勇気がいる大きさです。
今年は「ワインを楽しむ会」の前にセミナーが企画され、
共に日本のワインに詳しい石井もと子さんと、 鹿取みゆきさんによる講演がありました。
石井さんはここ10~20年で有名になった新しいワイン産地、米オレゴン州と、ニュージーランドの2地区が、
世界のワインマーケットにどんなプロモーションを行い、認知されるようになったかを説明。
鹿取さんは葡萄栽培農家がワイナリー設立に向けての注意点を、
九州の茶葉農家がお茶の自社ブランドを展開しカフェも併設して直売を行っている例を出して説明していました。
その後の質疑応答では、講師の方が提案した余市にワインのインフォメーション・センターの 設置案に関して
賛成意見が多く出され、出席していた余市町長は財政赤字を理由に苦しい答弁を繰り返していました。
さて当日、私はセミナーの会場に着き次第、胸に特製の大きな名札を付けました。
知り合いの方からは「その名札はどうしたの?」とか「藤井さんも今日の講師なのですか?」とひやかされました。
そしてセミナーの後で宴会が始まると、450名の中で名札を付けているのは私一人。
「札幌のワイン屋さんですか!私は○○と申します」とか、
「藤井さん!紹介したい人がいる」と声を掛けられ、私のポケットは名刺で一杯。
集まった名刺の中には、先程ステージで苦しい答弁をしていた町長さんとか、
前の町長さんとか、普段はお会いできないような方々ともお話しができました。
昨年、名札を付けずに参加した時は、こんなに名刺は集まりませんでしたから、
まさにこの名札のおかげです。次から大人数の会には名札を付けようと決めて、妻に礼を言いました。
さて今月のオススメ・ワイン。
ブルゴーニュ地方では低価格でも良質な物が見つかりました。
ジャン・ルイ・カンソンのシャブリ1級畑11年、ブルゴーニュ・シャルドネ11年、ブルゴーニュ・ピノ・ノワール11年の3種。
特にシャブリ1級畑は、樽なしシャルドネでは理想の姿と言える出来。
ブラインドで出されたら3000円以上の価値があると思いました。
さらにブルゴーニュ規格の赤、白は、この価格ですから全く期待せずに試飲を開始。
一口味わった後、そつのない出来に当社スタッフ全員の目が丸くなりました。
この価格のブルゴーニュがあるだけでも驚きなのに、薄っぺらでなく、ちゃんと楽しめる味わいを持っています。
多分、買い付け担当者は、随分苦労をしたのだと思いました。
そして共に2000円以下、ロジェ・リュケのサン・ヴェラン村10年と、
同じマコン地区の生産者ロシュバンのブルゴーニュ・ピノ・ノワールでもヴィエイユ・ヴィーニュ10年。
白は樽熟成をしていませんが、少し凝縮感のある果実味をミネラル感が引き締め、良く出来たマコン地区の上物。
赤も樹齢50年が納得できる凝縮感と木樽の風味があり、間違いなく2000円以上はするだろうという味わいです。
ボルドー地方からは、プルミエ・コート・ド・ボルドーのシャトー・スオウで上級品のフ・ド・シェーヌ(樫樽熟成)00年。
凝縮した果実味と豊かなタンニンが、13年を経てもまだまだたっぷり味わえます。
やっぱりボルドーは熟成感と共に、そこそこの濃さ強さがあった方が好きと言う方には理想と思える出来でしょう。
この価格で久しぶりに00年らしいワインに出会えた気がします。
イタリアからは北部の白でとても良質な物が見つかりました。
北部リグーリア州ルナエ社のヴェルメンティーノ種からの白。キンカンの砂糖煮の香り、
遅摘みを思わせるふくよかな果実味を引き締めるアルコール感。
凝縮感と奥行きのある味わいは、なかなかの物だと思います。
私の一押しは、フリウリ州のイル・カルピノがルンク畑で造る白3種。
ソーヴィニヨン種の白は、果実味の凝縮感がちょっと信じられないレベル。
しかも樽無しのタンク熟成で、これほど複雑な味わいは初体験でした。
マルヴァジア種は果実味よりも、溢れるミネラル感。柑橘の皮とアルコール感が、舌の上をギシギシと刺激します。
さらに上級品のセレツィオーネ・マルヴァジアになると、私は仏ローヌ北部のエルミタージュ・ブランを思い浮かべました。
そしてヴィーニャ・ルンクのビアンコはブレンド・タイプ。果実味お化けのソーヴィニヨン種と、
ミネラルお化けのマルヴァジア種が上手く合わさると、ふくよかでバランスの良い白に生まれ変わります。
改めて生産者イル・カルピノの実力をまざまざと見せつけられた気がします。
そしてジェラルド・チェザーリがピノ・グリージョ種で造る白は07年産。
輸入業者が長期在庫品の為に特別価格になって入荷しました。
6年を経た黄金色の色調、麦わらを思わす華やかな香り、
ふくよかさとミネラル感に熟成旨味が合わさり、これ以上はあり得ないような味わいでこの価格!
私は2倍でも安いと思います。間違いなく今月の旨安大賞はこのワインです。
最後に地元からは(株)北海道ワインの北海道・ケルナー11年。
この価格でこの品質は、さすが大手生産者と納得しました。
今まで同社には甘口ワインのイメージが強かったですが、このメリハリのある豊かな酸味は
同社が新しいステップに進んだ事を感じました。道内のワインは、今後ますます目が離せません。