今月は物欲のお話。
私が10代の頃は、流行りのレコード、コンバースのバスケットシューズ、
VANジャケットの洋服、とにかく何もかもが欲しいものばかりでした。
しかし、これが年老いた証拠なのでしょうが、ここ数年欲しいと思う物が無くなって来ました。
この前の休日、私は駅前の書店でワインの本を買い、大手電気店で話題の4Kテレビ、
スピーカー、カメラ等を見ましたが、ムラムラとした衝動までには至りません。
その後中島公園に行き、自転車を止めて一時間程ゆっくりと散歩をした事が買い物よりも楽しめました。
商店の店主はいくつになっても腕時計や外車を探し続ける気持ちがなければ、
そのお店に魅力的な商品も集まらないのではと感じつつも、本心に逆らってまでは買う気になれませんでした。
1970年代の街には商店が建ち並び、洋服だけではなく多くの物に沢山のメーカーや種類があった様な気がします。
街中の商店で売っているものと、カタログ雑誌に載っている様な舶来物とは、値段も見てくれも月とスッポンの様に別物。
親から買い与えられた物を卒業し、自分が買える範囲で色々なお店を回って、
少しでもカッコイイ物を探すのが当時の私にとって一番の楽しみでした。
40年後の今、商品の価格は昔より安くなり、安価な物でも格段に良質になりましたが、
種類は減り、大手量販店の商品か、高級ブランド品のどちらか両極端になっているようです。
ブランド品の存在すら知らなかった頃、小遣いの中で必死に物を探し、
欠点や良さを自分なりに発見した思いが、今、私のワイン探しに役だっています。
そして今年の春の「ウィンドウズXP」サポート終了の騒ぎは、
消費税率変更と共に、当社にとっても大きな出費と苦労が伴いました。
日本の一般家庭で、生活に必要な物はある程度揃ってしまった今、
食べ物の様に消費する物以外の商品を大量に販売する為には、
サポート終了の様な神風でも吹かないと難しいのでしょう。
今月のお薦めワインです。
北海道・長沼町のマオイ・ワイナリーから菜根(サイコン)13年。
2品種のブレンドによって、果実感、酸味、タンニンがバランス良く、今からでも、
また2~3年熟成をさせても伸びそうな資質を感じさせます。
後は少し高額ですが、山ブドウの「風雅」と、「豊潤」は、
パーカー氏が味わっても80代後半の点数が付きそうな濃度と強さを持っています。
一般に涼しい北海道では、どうしてもフルボディの赤ワインは出来ませんが、
これを味わった時は頭を殴られたような衝撃を感じました。
ボルドーからはグラーヴ地区のシャトー・クレール12年。
こんな安価な値段ですが、果実味とタンニンの感じはまさしくボルドー。
思わず「安くても、がんばってんなぁ」と感じてしまいました。お値打ちです。
同じボルドーでも少しこなれた07年産、グラーヴ地区のシャトー・ド・カラック。
こちらは濃さ強さが落ち着き、この地区特有のタバコを思わす熟成香が開いてきました。
こちらは少し大きめのグラスでいただくと、より香りが楽しめるでしょう。
白はアントル・ド・メール地区のシャトー・マルジョス白07年。
これも安価ですが、今月のボルドーでは1番輝いていた1本。
たっぷりとした果実味と、程良いスモーキーな樽香が混じり、誰もが喜ぶ美味しさを持っています。
これ以上熟成が進み果実味が枯れ始めると好き嫌いが出てくるでしょうが、
今の状態は若さと熟成香の両方が楽しめる最良の時だと思います。
残りが少ないので、ご希望の方はお早めに!
ブルゴーニュからはエマニュエル・ジブロ11年産の赤と白。
世界中のワイン生産者が、ピノ・ノワール種の赤と、シャルドネ種の白を、
どうしたらもっと美味しくなるのか必死に取り組んでいます。
そんな中で本家ブルゴーニュ地方ボーヌ村のジブロ氏は、何かを加えるのではなく、
不要な物をどんどん削ぎ落とし、残された真髄の部分を味わってほしいと願っているのでしょう。
味わいは豪華絢爛なタイプではなく、精進料理を思わせる研ぎ澄まされたスタイルです。
一方ヴォーヌ・ロマネ村のベルナール・グロ(グロ・フレール&スール)氏と言えば、
果実味たっぷり、樽香たっぷりの豪華絢爛タイプでしたが、近年になって化粧を止めて素肌美人へ変貌しました。
ここのロゼも、素のまま7年を経て枯れ始めた果実味の代わりに、旨みがのって来ました。
まるで和食のお出汁か、上品なお吸い物を思わせます。
最後は薄旨系ピノ・ノワール種ではなく、味わいのはっきりした旨安ピノ。
マコン地区のロシュバンが造る古木のピノ・ノワール赤。
温暖なマコン地区らしいふくよかな果実味と、木樽の風味が楽しめてこの価格は普通あり得ません。
入門ピノにも最適な1本でしょう。
南仏からはマラヴィエイユが、シラー種、グルナッシュ種主体で造る赤ル・サンク11年。
一般に軽く繊細な味わいの物が多い有機栽培のワインですが、
こちらはタールを思わす香りと凝縮した果実味がたっぷり。
濃くて美味しくて、お得な有機ワインがお好みの方には、一押しのワインです。
ボルドーの隣、シュド・ウェスト地方カオール村のお薦めは、ピネレと、ラ・ポジャッド、 二つのシャトー。
この2生産者は同じ村で、作付けもオーセロワ(マルベック)種85%、メルロ種15%、樽熟期間も1 2~18か月とほぼ一緒。
違いは生産者と、収穫年が10年産と12年産ぐらい。 ご興味がある方には、ぜひ飲み 比べをお薦めします。
イタリアからはピエモンテ州テッレ・ダ・ヴィーノがアスティ村のバルベラ種で造るルナ・エ・イ・ファ ロで熟成した05年産。
天候の良かった05年だけに、品種特有の酸味が穏やかで私としてはちょっと寂しいです が、
凝縮感と木樽の風味は立派なもの。若いワインが多いイタリアでは、貴重な赤と言えるでしょう。
スペインからはバレンシア地方のカサ・ベナサルの白13年。
品種は華やかな香りを持つ通称ゲベ種と、マスカット種ですが、
香りは強すぎる事無くフルーティさと爽やかさが程良く楽しめます。
夏の太陽の下、ワイングラスではなく、コップで飲みたくなる白でしょう。
アメリカ・カリフォルニア州からはエイリアスのシークレット・エージェント赤11年。
一般に温暖なカリフォルニア産ワインはジャムっぽい味わいが多いですが、こちらはブレンドが上手なのでしょう。
ミディアム・ボディですが甘さが目立たず、果実味に酸味とタンニンがきれいに調和しています。
白では南アフリカ産パンゴリンのシャルドネ13年と、チリ産ヴェラモンテのソーヴィニヨン・ブ ランが印象に残りました。
共に格上の果実感と爽やかな酸味が、味わいに瑞々しさを感じさせてくれます。
忘れちゃいけないのが、北海道・訓子府(クンネップ)町産の蜂蜜から造られたお酒、ミード。
樹液を思わす香りと、程良い甘さを伴った豊かな味わいは、本場フランス産のミードよりも複雑さと旨みが感じられます。
養蜂家(ヨウホウカ)・菅野氏の熱い思いに、東京農大醸造学部と田中酒造の杜氏が共感し生まれた素晴らしいお酒です。
また、このミードの元である菅野氏の菩提樹の蜂蜜も入荷しました。
一般の蜂蜜とは異なるこの凝縮した味わいがあってこそ、こちらのミードが出来たのでしょう。
そして同じ菅野氏が作るサクラと、タンポポの蜂蜜もぜひお試しください。
マダガスカルから届いた、キャビアの様に貴重な野生のペッパー。
コショーに山椒と、干物を思わすオリエンタルな香り。さらに唐辛子の辛さが口の中で広がります。
想像力あふれる方にこそ使っていただきたい、興味をそそられる香辛料です。