2015年 1月

11月にワイン関係の昼食会が、京都・嵐山の料亭「K」であり私も参加してきました。

その会は30年ほど前、全国のワイン小売店が共同でフランスなどからワインの買い付けをする集まり。

その会に、当時私は最年少で参加させて頂きました。

毎年、皆でヨーロッパに仕入れに行くのが原則でしたが、当社は余裕がなく一度も現地には行かず、

その会も10年程で立ち消えてしまいました。

当初は現地に行く為に皆で会費の形で積み立てをしていましたが、

今回、事務局がその残金処理に昼食会を企画し、当時のメンバーが10名程集まりました。

集まった方々は皆60~70代ですが、今も元気に日本各地でワイン屋を続けていました。


この案内が来た時に真っ先に思ったことは、京都の老舗料亭で恥は掻きたくない!

その「K」のホームページの中に「食事の心得」というコーナーがありました。

先付け、煮物椀、造り、焼き物、等々11ページにわたって、食事の作法が細かく書かれています。

私が一通り読み終えて感じたことは、付け焼刃の作法はやめて、

最低限のマナーで滅多に行く事がない老舗料亭の食事を楽しむことにしました。

参加された方々もマナーに縛られるタイプではなく、昼食会は窮屈さを感じず和やかに楽しむ事が出来ました。

ただ私は55歳になってもメンバーの最年少でしたので、

本部が持ち込みをしたワインの内で古酒の75年、82年、86年の抜栓は私が担当。

3本の内2本のコルクがボロボロで1本は何とか抜きましたが、もう1本はコルクの底が5ミリ程ちぎれてしまい、

最後はその部分を瓶に押し込みデキャンタをしました。

それでも用意されたワインは皆良い状態で、皆さんも喜んでいました。


翌日の昼食は京都・南禅寺の傍で湯豆腐。

昨日の料亭は魯山人などの立派な器を使って食事を出し、着物を着た給仕の方もフルサービス。

翌日の湯豆腐のお店の庭には大きな池と立派な鯉。

美味しい料理だけではない京都の底力を充分見せつけられました。

安価な食器や内装、セルフサービス、立ち食い等によって価格を下げることは可能でしょう。

当然、京都に住む方だって料亭と安価なお店を使い分けています。

でも、京都にこうした高級店が残っているという事実は、

そのお店を利用される方が存在して経営が成り立っているという事です。

そう考えると、地元に良いお店が根付くということは、その街の住民の心意気が現れるという事なのでしょう。



さて、今月のお薦めワインです。

まずは北海道から千歳ワイナリーのピノ・ノワール種で、プライベート・リザーブ12年。

醸造は千歳ですが、葡萄は余市で最高のピノを造っている木村農園。

ここの畑でも、優良な区画のピノを特別に仕込みました。

今はイチゴやサクランボの風味と、樽からのヴァニラ香で十分美味しいですが、

数年後には果実味と樽とが混じりあうことで妖しい熟成香が開いて来るでしょう。

鶴沼ワイナリーからは、バッカス種の14年新酒です。

通常、鶴沼シリーズは2年間熟成させて発売しますが、早熟なバッカス種をヌーヴォーとして発売しました。

道内で多くの葡萄農家が絶賛する14年は、ふくよかな完熟感と爽やかな酸味が両立する期待の年。

残糖を減らし、果実味と酸味を生かした味わいが楽しめます。


今月はフランス・ボルドー地方で良い物が多く見つかりました。

ポイヤック村のレ・シュヴァリエ・ド・ドプラ08年。ポイヤック村で、7年を経た赤がこの価格は驚きです。

前回の07年産も骨太なカベルネ種の風味が好評でしたので、08年はもう一回り豊かな味わいが期待できるでしょう。

グラーヴ地区からはシャトー・ラムルー・サンマルタン06年。

グラーヴ(砂利の意)が多い土壌は、濃さよりも香り高いタイプのワインが生まれます。

この06年産も、9年を経てタバコ葉や土を思わせる熟成香が開いてきました。

少し大きめのグラスを使って頂くと、複雑な熟成香がさらに広がります。

メルロ種好きにはカスティヨン地区シャトー・コート・モンペザのコンポステレ04年。

メルロ種主体のワインを、ローストを強めの樽でしっかり熟成させています。

メルロ種からのチェリーシロップの風味と、樽からのスモーキーさが11年を経て混じり始め、芳醇な熟成香が楽しめます。

次は、暑い夏で凝縮した風味を持つ03年産のボルドーで、お手頃価格の赤が入荷しました。

シャトー・コンスタンタンの品種はメルロ種90%、カベルネ・ソーヴィニヨン種10%。

12年を経て二つの品種の果実味とタンニンが調和してきました。

通常、若いワインしかないこの価格帯で、作柄の良かった03年産は本当に貴重ですよ!

そして白では、貴腐ワインで知られるソーテルヌ村で造られた辛口、リュヌ・ダルジャン12年。

大切に育てられた葡萄の実は、甘口、辛口に関係なく良いワインが出来るのでしょう。

完熟した果実味と、上品な木樽風味、最後に若くても旨みが感じられます。

新しいスタイルのボルドー・ブランは、試してみる価値は十分にあります。


次はブルゴーニュ地方から。アンリ・ノーダン・フェランのパストゥグラン11年。

この生産者はヴォーヌ・ロマネ村で脚光を浴びるジャン・イヴ・ビゾの妻の実家。

当然夫のビゾが協力し、造られたワインは、ビゾと共通するトーンを持っています。

ビゾのブルゴーニュ規格の赤が10,500円、こちらはガメイ種が7割で2,400円ですから、

月とすっぽんぐらい違いますが、ハートに訴えかける何かがこのワインにはあります。

頭ごなしにガメイ種を否定せず、グラスに注がれたワインを素直に楽しむ事が出来る方に、お薦めしたいワインです。

白では有名なジャイエ・ジルが造るオート・コート・ド・ニュイ地区で作柄の良かった10年産。

この生産者は凝縮した果実味と派手な樽香で知られていましたが、

今は濃度勝負を止めてミディアムでバランスの良いスタイルになっています。

作柄の良かった10年産(定価4800円)が、この価格は注目です。


南仏からはカーヴ・ド・タンが造るクローズ・エルミタージュ赤12年。

ただでさえ高い北部ローヌですが、ここは評価が高い協同組合で価格と品質のバランスが優れています。

シラー種特有の強さが楽しめて、この価格はちょっと驚きでした。南仏好きでしたら、ぜひお試しください。

一方こちらはグルナッシュ種主体の赤で、サンタ・デュックが造るコート・デュ・ローヌ規格の熟成した07年産。

南仏の当たり年07年産は、8年を経た今では貴重な存在。

果実味と、スパイス感と、アルコールが調和し、熟成旨みが開いてきました。

ロワール地方からはサン・マルタンのミュスカデ。

13年産だけにフレッシュなのは当然ですが、

この味わいは日本で飲んだのではなく現地の蔵元で味わった様に酸味が生き生きしているのに驚きました。

改めて、ワインは元々の味わいだけではなく、輸送過程がいかに重要であるかを気づかしてくれた白です。

そしてアルザス地方からはシュルンバジェが造る安価な入門ワイン、テール・ダルザス12年。

この価格で完熟感と旨みが楽しめます。

この価格破壊的なワインは、自社畑を130ヘクタールも持っている為に、コスト等を考えず、

味わいを優先して造っているのでしょう。これも驚きの旨安ワインです。

次もアルザスで有機栽培を実践するマルク・クレイデンヴァイスが、リースリング種とピノ・グリ種からの白。

今までアルザスでは安価な物はブレンド・タイプで、上級品は単一品種で造られてきました。

ところが近年は、上級品でも品種をブレンドして造る所が増えて来ました。

特にこのワインは個性的な2品種を半分ずつ入れているので、調和というよりもお互いが競い合っているような緊張した味わい。

これは面白いブレンドだと思いました。


イタリアからはトリンケーロがバルベラ種で造る赤、ア・ユヅキ。

このワイン通常は畑名付きの上級バルベラとして発売されるのですが、

09年は好天で葡萄が過熟し発酵後に味わいが濃くなりすぎたと感じたオーナーは、ワインを規格申請に出しませんでした。

結果、テーブル・ワイン規格となったこの濃密な赤を試飲した日本の輸入業者ヴィナイオータの太田氏は、

即決で全量購入し、同じ09年生まれの娘さんの名前を付けました。

この強烈な味わいは、二倍の価格でも納得する程の満足感がたっぷりです。

できれば、ゆっくり熟成させてから味わいたい赤ワインです。


イタリアで旨安ワインの生産者と言えば必ず名の上がるウンブリア州のファレスコ社の

モンテリーヴァ・ウンブリア・カベルネ・ソーヴィニヨンは毎年安定してふくよかで良質なワインに仕上げています。

そして旨安ワインでもう一社を挙げるとすれば、アブルッツォ州のファルネーゼ社。

ここも旨安で有名ですが今月のお薦めは、1ランク上のカサーレヴェッキオ13年。

収量を下げたモンテプルチアーノ種からのワインは、この価格とは思えないコクが楽しめます。

現地でも大人気で、もう13年産が入荷。もう少しこなれた味わいがお好みでしたら、ご自宅で熟成させるしかない状態です。


スペインからはポンセのクロス・ロヘン。

今まで注目されていなかった地元のボバル種にこだわり、有機栽培とタイプの異なる4区画のブレンドによって、

澄んだ果実味とバランスの良さを身につけています。

スペインの低価格ワインにも自然派の兆しが感じられます。

次はお隣ポルトガルのダン地区から、キンタ・ダス・マイアスの自然派ワイン。

こちらも有機栽培らしい澄んだ果実味が楽しめます。

そして洗練された味わいは、醸造に関しても有名コンサルタントの先生等が関与しているのでしょう。

有機栽培でも特有の癖が無く、誰もが美味しく楽しめる自然派ワインです。

一方キンタ・ドス・アヴィダゴスが造る「ロテ 138」は目の詰まった味わいで、少し仏ボルドーの赤を感じさせるスタイル。

多分4品種のブレンドが功を奏しているのでしょう。

果実味、濃さ、タンニン、調和感といった各要素がバランス良く楽しめます。

最後は人気の産地チリでカサス・デル・ボスケが造るレゼルバ・カベルネ・ソーヴィニヨン。

安くて濃いワインの産地だったチリですが、近年は皆が濃度から上品さへ移行しています。

そんな中で樽と濃さがはっきりと楽しめるマッチョ系のチリ・ワインを久しぶりに見つけました。


ビールではベルギーの修道院で造られるシメイ・ゴールド。

ここの看板はアルコール9%のシメイ・ブルーラベルですが、このゴールドはアルコール4.6%。

実は造っている修道僧の方々が仕事の後に飲むのはこのゴールドだそうです。

初めての人を驚かすにはブルーラベルでしょうが、毎日飲むにはゴールドなのでしょう。


食品からはロハス・クラブのメルロ種100%果汁。

北海道にとって最高の作柄となった14年産のワインは多分、春以降の発売ですが、まずは葡萄果汁が入荷しました。

梗(茎)の有無よりも、14年の完熟感がたっぷり味わえます。

ここのメルロ葡萄は藤野ワイナリーに納入され、赤ワインとなって発売されるのは半年以上先でしょうから、

まずは果汁だけでも試してみてはいかがでしょうか。