2015年 2月、3月

今年で56歳になる私。コンピューターでの仕事中に首や腰が痛くなることもしばしば。

年齢と共に体にガタがきているのは分かっていますが、騙しだましでも仕事を続けなければなりません。

そこで始めたのが朝のストレッチ。

初めは布団の上で伸びをするぐらいでしたが、テレビや人から聞いたエクササイズの種類が増え、

今ではコースを終えるのに10分程もかかるようになりました。

元々ずぼらな私が毎朝休みなく続けられるのは、まだ生きたい、あるいはまだ死にたくないという思いがベースにあるのでしょう。

話は変わってNHKの連続テレビ小説「マッサン」。

私は休み前日の夜に、録画したマッサン1週間分をまとめて観ています。

笑ったり、泣けたり毎回とても面白いのですが、1週間分が2時間近くかかり翌朝の起床は昼近くになってしまいます。

マッサンも開始から100話を超えたので、試しに番組の15分×100話と電卓をたたいてみると=1500分。

これを60分で割ると25時間! たった15分の番組でも、ちりも積もれば25時間には驚きました。

そして、次に思ったのが毎朝のストレッチ。

10分でも365日続けると3650分。

これも60分で割ると約61時間にもなるじゃないですか。

自己流のストレッチでも61時間もすれば、何か体に良いこともあるでしょう。

子供のころから聞かされていた「継続は力なり」の意味が55歳になって初めて分かったような気がします。


さて今月のお薦めですが、年末に入荷した分がとても多く、新入荷等も倍以上になってしまいました。

まず北海道から、タキザワ・ワイナリーのキャンベル・アーリー種で14年産のロゼ・ヌーヴォー。

自然酵母による発酵とノン・フィルター瓶詰された新酒の為、ワインは濁っており瓶の底には酒石酸がたっぷり。

この時期ワイナリーに行って、特別に醗酵直後のワインをタンクから試飲させていただいたような味わいです。

次は札幌の藤野ワイナリーから、ナイアガラ種のスパークリングと、山葡萄の赤。

ナイアガラ種の泡は華やかな香りと、とっても爽やかな辛口スタイルで大人気。

メーカーで品切れでしたが、やっと14年産が入荷しました。

そして驚きは山葡萄からの赤。野生で小粒の葡萄は、強烈な酸味とタンニンがたっぷり。

飲み頃はまだ先でしょうが、道産の赤でここまでインパクトのある味わいでこの価格は絶対ありえません。

最後は道南・乙部町の富岡ワイナリーの赤。

収穫年の記載はありませんが、多分2010年前後ではと思われます。

1000円を下回るこの低価格で、果実味と酸、タンニンが調和した熟成旨みが楽しめます。

これは絶対にお得ですから、あまり口外せずにひっそりと購入しましょう。

皆に知れ渡るとこの年のワインは完売し、すぐに若いワインになってしまいます。


山形県の名門、タケダワイナリーのサン・スフル(硫黄・無添加の意)の白、ロゼ。

このワインは少し長い説明が必要です。

通常のワイン醸造には不可欠な亜硫酸塩は「酸化防止剤」とラベルに記載されます。

亜硫酸は今から2000年以上前の古代ローマ時代に、アンフォラと呼ばれる壺でワインを醸造する際、

少量の硫黄を燃やして(亜硫酸ガスが発生)からワインを詰めると、変質せず長持ちしたと記録されています。

こうして人類は2000年以上の間、化学式や原理は分からずに硫黄のお陰で美味しくワインを飲んできました。

現在日本の亜硫酸の基準は350PPM以下ですから、ワイン1000g中に0.35gまで

認めています(一般のワインはこの基準の半分以下の数値です)。

近年では亜硫酸・無添加が話題になっています。通常の醸造で亜硫酸を使わないと、

皮をむいたリンゴが赤茶ける様に若い白ワインでも茶色の色調になり、

漬物やたくあんの様な香りが出てしまいます。

若い白ワインが透明に近い淡い黄色で、フルーティな果実の風味があるのは、

一つは亜硫酸で酸化をさせていない為なのです。

タケダワイナリーでは亜硫酸の代わりに、炭酸ガスを酸化防止に使いました。

通常ワインの発酵は蓋のないタンクで行う為、醗酵時にぶくぶくと出る炭酸ガスは空気中に逃げてしまいます。

発酵の途中でワインを瓶に詰めると、ワインは瓶の中で発酵を続けます。

瓶の中で発生した炭酸ガスは、逃げ場が無くワインに溶け込みスパークリング・ワインになります。

そして醗酵終了後、役目を終えた酵母菌はオリとなって底に溜まります。

一般のスパークリング・ワインは、一度栓を開けオリを取り除いてコルクを打ちますが、

タケダワイナリーではこのオリを残して出荷します。

その為にガス圧が強く、オリの還元作用もあって、亜硫酸・無添加でも酸化が進みません。

ただガス圧が高い事と、オリが残っているせいで泡の発生が一気に進む為、

仏シャンパーニュ地方の物よりも泡が吹き出ます。

抜栓時は吹きこぼれの為にボウルの中に瓶を立て、栓も一気に抜かず栓抜きを使って数回に分けて少しずつ抜いてください。

一度経験して頂ければ、私のアドバイスが誇張でないことが分かって頂けるでしょう。

こうして造られたサン・スフルは、きめ細かな泡と独自の豊かで複雑な味わいが楽しめます。

タケダワイナリーではこの無添加シリーズを赤、白、ロゼ、シードルの4種類を造っていますが、

特に白とロゼのガス圧が高く、泡が吹きやすくなっています。

抜栓時は、ボウルの準備をして、一度に栓を開けないようお願いします。 


次は仏ボルドー地方からシャトー・ブリエット、シャトー・ラリヴォー、共に作柄の良かった10年産。

値上がり前の10年産を見つけたら、即、買いです。

特にボルドーの左岸(メドック側)は09年が上品で澄んだ仕上がりで、10年の方はタンニン豊かで詰まった印象。

濃さ強さがお好みでしたら、絶対10年産です。

09年産ではメドック地区のシャトー・ラ・グランジュ・ド・ブッサン。

完熟した果実味と細かなタンニンがきれいに調和しています。メドック地区でこの価格は、絶対お得です。

熟成タイプがお好みでしたら、シャトー・シトランのセカンド、ムーラン・ド・シトラン05年と、

オー・メドック地区のシャトー・レスタージュ・シモン96年。

シトランの方は10年を経てカベルネのタンニンと果実味とがこなれ始めて来た頃。

レスタージュ・シモンは19年を経て果実味は少し枯れ始め、ドライフルーツ、キノコ、革製品といった熟成香が楽しめます。

ボルドーの右岸ファンには、フロンサック地区のシャトー・クラーズ03年と、カスティヨン地区のシャトー・ムーラン・ローズ98年。

クラーズはカベルネ・フラン種主体と暑かった03年産の為、右岸としてはタンニン豊かで逞しいスタイル。

一方ムーラン・ローズは素晴らしいメルロ種が収穫できた98年産。

樽ではなくタンクで長期熟成させた為に木樽の風味はありませんが、今も枯れた感じがなく果実味がしっかりあります。

ボルドーの白ではシャトー・ラリイ・ブラン。

ソーヴィニヨン・ブラン種としては酸味が穏やかで、果実味がたっぷりあり、この価格ではよく出来た白でしょう。


ブルゴーニュ地方からはシャトー・ド・サントネのブルゴーニュ規格の赤で10年産。

とにかく10年産は色を見ただけで濃く、香りも凝縮して別物です。

こんな価格で10年産を見つけたら、即買いをしなければすぐ無くなってしまいます。

そして、アンリ・ノーダン・フェランのパストゥグラン。

先月号でこのワインの11年産をお薦めしましたが、熟成した08年産が少量入荷しました。

ピノ・ノワール種が30%でガメイ種が70%入っていても、ワインからにじみ出るエネルギーを感じます。

ガメイ種という先入観を捨てて、ワインに向き合って味わってみてください。

次もジャイエ・ジルが造るガメイ種混じりの赤。

セメント・タンクで18カ月熟成の為に木樽の風味はありませんが、ピノとガメイとがいい感じで調和し始めてきました。

こちらも、10年産らしいインパクトのある味わいです。

そして次もガメイ種混じりの赤。

こちらは最高の年05年産のピノ・ノワール種70%、ガメイ種30%のワインを、ステンレス・タンクで8年熟成させて瓶詰しました。

こちらも木樽風味はありませんが、10年を経て果実味と酸、タンニンが良い具合に溶け込み、二つの品種が一つにまとまって来ました。

今月のガメイ種混じり3種類はそれぞれが違う表情を持っており、味わいの違いを皆様も楽しめる事でしょう。

ここ数年高騰の続くブルゴーニュで、このお値打ちな3本をぜひお試しください。


次は上級品で、フランソワ・カリヨンのブルゴーニュ規格の白。

さすがはピュリニー村の名門と思わせる凝縮感と、豊かな酸とミネラルがたっぷり。

格上の世界を感じさせてくれる、ブルゴーニュ・シャルドネです。

一方シャンドン・ブリアイユが造るサヴィニ村の1級07年は、濃度ではなくひたすらエレガントなスタイル。

8年を経てスミレやキノコ、スパイス等の熟成香が開き始めて来ました。

ピノはこの位の濃度でも十分美味しく仕上がる事を教えてくれた1本です。

そしてもう1本はロワールからムヌト・サロン村のシャトノワが造るピノ・ノワール種09年。

味わいは、よくある南ではなく涼しい北の産地のピノなのです。

繊細な果実味と清らかな酸があれば、木樽は目立たなくても十分美味しい。

ちょっと見つけて、嬉しくなったピノです。

ロワールと言えばやはり白。ルイイ村のクロード・ラフォンがソーヴィニヨン・ブラン種で造るフレッシュで爽やかな白13年。

人気のサンセール村だと3000円を超える今、半値以下で入手できるソーヴィニヨン・ブラン種はあり得ません。

見つけたら即買いをお薦めします。

そしてサンセール村のセバスチャン・リフォーはある意味サンセールらしくない白。

一般的にはフルーティで爽やかな辛口のサンセール白ですが、

こちらはビオディナミ栽培した上に、収穫を遅らせ半分は貴腐化した葡萄が入った状態で発酵させた辛口タイプ。

色も茶色がかった濃い黄色、泡盛やイモ焼酎を思わせる香りに、豊潤で複雑な味わい。

少し大げさに言うとソーテルヌ村のイグレッグ(価格は2万円前後)に似ています。


アルザス地方からはシュルンバジェのピノ・グリ種の白。

とにかく完熟感と凝縮感がたっぷりで、半分近くの葡萄は特級畑の物を格下げしているのが嘘じゃないと理解できます。

当社の試飲会でも「こんな美味しいピノ・グリは初めて!」と言われる方が多かったです。


南仏からはジャン・ルイ・ドゥノワが造る南のスパークリング白。

葡萄はなんと黒葡萄のシラー種を用い、瓶内二次発酵で極辛口に仕上げています。

黒い果皮は入れず果汁だけで醗酵させますが、やはり白葡萄とは違った太さや強さが感じられます。

ワイン好きの集まりに、ブラインドでこの泡を出されると受けると思いますよ。


次は豊かな風味で大人気、カオール村のシャトー・ピネレですがメーカーで品切れた為、

代替えで、ハーフサイズが特価で入荷しました。

安くてもリッチな味わいの赤を探している方には、最適な一本です。


イタリアからはチェッチのランブルスコ・セッコ。

泡のある赤といえば少し甘みのあるランブルスコですが、こちらは辛口タイプの赤。

辛口は甘みが無い分、薄っぺらに感じてしまいがちですが、

チェッチはこの価格でも果実味がそこそこ濃くて味わいのバランスが良く仕上がっています。


トスカーナからは久しぶりに日本に再入荷したピアッツァーノの赤。

サンジョベーゼ種主体でスタイルはキャンティですが、フランス系品種を使わず、野太くて、複雑な旨みが楽しめます。

評論家の点数は期待できなくても、イタリア・ワインの持つ美味しさと楽しさがあるような気がしました。


シチリアからはフィッリアート社のエンポリオ赤、白。

2種そろって今月の旨安大賞に決定です。

赤はネロ・ダヴォラ種とメルロ種、白はカタラット種とインソリア種のブレンド。

私は何度も言っていますが、特に安価なワインは複数の品種を混ぜる事で、バランスの良さと厚みが出やすくなります。

その典型とも言える仕上がりがこの赤、白、ワインです。


そしてカンパーニャ州のジャルディーノがグレコ種で造る強烈な白(?)がアダムです。

実は白ワインは白い葡萄で造るから白ワインではありません。

黒葡萄でも、白葡萄でも、葡萄を絞った透明な果汁だけを発酵させたのが白ワインです。

しかし近年、栽培の自然派志向と共に、醸造にも自然派志向が高まり、

赤ワインの様に白葡萄の果皮も一緒に醸造する白ワインが少しずつ出て来ました。

このアダムも色は茶色がかって濁っており、10年前だと不良品と言われた外見。

白葡萄の皮も共に仕込んだこの豊潤で複雑な味わいを口にすると、今までの白とは異なる味の方向性に驚くことでしょう。


スペインからはファン・ヒルがアルマンサ地区で造るアタラヤの赤3種。

それぞれの価格帯の中で、最強と思える濃度が楽しめます。

地元の黒葡萄ガルナッチャ・ティントレラ種は、果皮だけではなく果汁も血の様に色があり、

アタラヤはその品種の特徴をストレートに表現しています。

フルボディ・タイプが大好きな方には絶対のお薦めです。


ナヴァラ地区からはイヌリエータがフランス系品種で造るナバエルス。

この価格帯で4年を経た11年産は今や貴重です。

カベルネ種の果実味と木樽風味が混じり、アルコールが溶け込み始めた熟成旨みをお楽しみください。


スペインで白と言えばルエダ地区。

ヴェルデホ種主体の白はメリハリ感とバランスの良さを合わせ持ち、

私的にはソーヴィニヨン・ブラン種とシャルドネ種の「いいとこ」取りした感じです。この品種は侮れません。


次はドイツのリンゲンフェルダーが造る貴重な赤。

地元品種ドルンフェルダーの最良区画で、天候に恵まれた年だけ造られる特醸品がオニキスです。

小樽で12カ月熟成させた05年産は10年を経たとは思えない程に、今も黒々とした色調を持っています。

細かなタンニンがたっぷりとあり、ドイツの赤ワインのイメージを覆してくれる1本です。


アメリカからは、テエラ・ディヴィナが樹齢100年を超えるジンファンデル種主体で造られたダイナマイトのような赤。

強烈なアルコール感と、フルーツドロップの果実味と、木樽の風味が口の中で爆発します。

その風味はストレートに響くロックンロールの様な味わいです。


最後は、ファレルニア社のチリでは珍しいサンジョベーゼ種からの赤。

当然、イタリアのサンジョベーゼ種とは違うスタイルなのですが、同じ品種ですから共通のトーンも感じられます。

「ここの所はチリの味」とか、「この感じはイタリアにもある」なんて言いながら、

ワイン仲間と共に味わって頂くと、このワインは更に楽しく美味しくなるでしょう。


最後はワイングラスです。

当社でも試飲時に使用するのは数年前まで小振りな国際規格の試飲グラスでした。

しかし今はこのプロ・テイスティング・グラスを使っています。

理由はワインが入るボウル部分の面積が広いのと、内側の形状に角があり、試飲の際に色々な香りを取りやすい点です。

また足が短く個数を並べても邪魔になりません。

ただグラスも人それぞれ好みがあります。

私自身このグラスは、香りと味とが繋がらない印象で、評価するには適していますが、

楽しんで味わうにはリーデル社のボルドーやブルゴーニュ型の方が適しているのではと感じています。

ただ、こうして文句を言いながらも、私自身、自宅でも会社でもこのグラスを使って飲んでいます。

全ての面で完ぺきではないですが、試飲には良く出来たグラスだと思います。