2015年 9月~12月

今年の夏、家内の実家に里帰りした際に、栃木県のココファームまで行ってきました。

ご存知の方もいるとは思いますが、ココファームの生い立ちは

当時中学の特殊学級の教員だった故川田氏が、 特殊学級を卒業した生徒さんの職場を作る為に、

足利市郊外の山に葡萄畑を切り開き始めた「こころみ学園」がスタートです。

初めて見たココファームの葡萄畑(平均斜度38度)は余りに勾配が急で、

私は札幌大倉山のジャンプ台(平均斜度37度)を思わせました。

案内をしていただいた方に「なぜこんな場所に?」と聞くと、

一介の教師だった川田には平らな農地を得る事ができず、山奥の急斜面を開墾するしかなかったそうです。

しかし急斜面の畑だから、日当たりの良さと水はけが良く葡萄にとっては良い環境でした。

こころみ学園の園生は知的ハンディがあるから何もできないと家族からも思われ、

自宅では過保護に育てられた子供さんばかり。

自宅にいた時は夜に寝られず暴れる事も多かった子供さんも、

急斜面の畑で転びながら農作業をしてご飯をしっかり食べると、

夜もぐっすり睡眠が出来るようになり、心身共に健康になるそうです。


沖縄サミットの晩さん会で乾杯に使われたココファームのスパークリング・ワイン「NOVO(のぼ)」の話も伺いました。

代表の川田氏が発泡酒も造ってみたいと言い出し、

当時の醸造長だったブルース・ガットラヴ氏と シャンパーニュ地方へ視察に行きます。

アルコール発酵が終わったベースの白ワインをシャンパン瓶に詰め、

同時に砂糖と酵母を加えて栓をし、泡を得る為の二次発酵を1本、1本の瓶の中で行います。

発酵が終わると酵母は死に、瓶底にオリとして沈殿します。

数年の熟成後にオリを取り除くため、寝かせていた瓶を沢山穴のあいた作業台に1本、1本差し込みます。

そして約100日の間、朝と晩に瓶を手で45度づつ回しながら徐々に瓶を倒立させてオリを瓶の口に集めます。

この単純で気の遠くなる作業を見た川田氏は、

学園にいる自閉症の子供たちに最適な仕事が見つかったと喜んだそうです。


現在では、本場のシャンパーニュ地方でもこの動瓶作業は、

手ではなくジャイロ・パレットと呼ばれる専用の機械を使って省力化が進んでいます。

川田氏は、毎日手で動瓶をしていたら普通の企業ベースでは採算が取れない。

しかし、だからやろう。障害を持った子たちが採算づくでなく、手間暇かけて馬鹿正直に造ろうと言って、

何と!削岩機を入手して発泡酒用の涼しいセラー建設の為に、自ら裏山に穴を掘り始めたそうです。

このトンネルは間もなく岩盤に当たり途中からは専門の業者に依頼したそうですが、

今もワイナリーの隣にあり発泡酒の熟成庫として使っています。

ココファームのワインは、手間をかけ、正直に造っているだけではなく、

創業者の熱い思いが合わさる事で人の心を打つまでになるのでしょう。


今月のお薦めワインです。

北海道からは滝沢ワイナリーのミュラー・トゥルガウ種のスパークリング・ワイン。

ふくよかな果実感を、爽やかな酸味ときめ細かな泡が柔らかく包み込んでいます。

洞爺湖畔・月浦ワインのドルンフェルダー種・赤13年。

タンク熟成の為か、果実味がはつらつとして表情が開いています。

樽に入れなくても良質な赤となる典型のようなワインです。

余市の新生産者「三氣の辺(ミキノホトリ)」のシードル。

ワインの製造免許はまだなので、自社畑産リンゴを函館の「農楽蔵(ノラクラ)」で委託醸造しています。

農楽蔵らしい自然派の醸造で、味わいには果実味と共に、旨みもたっぷり感じられます。

三笠・山崎ワイナリーのケルナー種の白14年。

ここで定番人気のケルナー辛口ですが、作付して20年近くなり山崎さんは植え替えをするようです。

山崎ケルナーに思い入れのある方は、最後の収穫と言えるこの14年産を大切に取って置くべきでしょう。

北海道のパイオニア、十勝ワインのピノ・ノワール12年。

葡萄樹は-10度で、凍傷にかかり枯れてしまいます。

日本海側は雪が断熱材となり、気温が-10度以下でも雪の下に寝かせた木は越冬出来ますが、

太平洋側は降雪が少ない為にその手法が使えず、

寒さに耐性のある山葡萄と、ワイン用葡萄とで品種改良をして越冬が可能となります。

その為、十勝ワインではヨーロッパ系葡萄の開発が遅れ、

今回は余市の契約農家さんに欧州品種の栽培を依頼し、醸造が出来ました。

北海道12年産の赤は繊細な味わいですが、ワインの熟成には独自のノウハウを持つ池田町。

樽で1年、瓶で1年以上熟成させて旨みが開いて来ました。

「月を待つ」は栃木県ココファームが北海道・余市の藤澤農園と小西農園のケルナー種で造る白。

葡萄を栃木に送り、自然酵母を用い中低温で4か月間ゆっくりと醗酵させました。

道内のワイナリーにもケルナー・ワインは多数ございますが、

定評あるココファームが造るケルナーは一味違います。ぜひ一度お試しあれ。

余市・曽我貴彦氏の実家、長野県小布施ワイナリー。

こちらは貴彦氏の兄、彰彦氏が、渾身の思いで有機栽培を実践し、自然酵母でワインを造っています。

自然派醸造の特徴ともいえる還元香(アニマルや硫黄っぽい香)を彰彦氏は嫌い、

その香りが強く出た樽は除かれます。

各種のワインではじかれた樽をブレンドしたのがこのヴァルプチュー(官能的の意)です。

小布施の自社畑ワインは4、000円前後しますので、この価格はかなりお得。

しかもメルロ、カベルネ、バルベラ、フラン、タナ等がバランス良く調和しています。


次は仏ボルドー地方から。飲み頃になってきた08年産がお値打ち価格で2種類も入荷しました。

トラディション・デ・コロンビエはメドック地区のカベルネ・ソーヴィニヨン種主体でタンニン豊かな赤。

そしてサン・テミリオンの隣にあるリュサック村のシャトー・ド・リュサックは、メルロ種主体のふくよかタイプ。

共に7年を経たワインはハツラツとした果実味と、熟成による複雑な風味の、両方の美味しさが楽しめます。

グラーヴ村のクロ・フロリデーヌ・ルージュ04年。

グラーヴ(砂利の意)村の土壌は砂利が多い為に、ワインは「濃さ」ではなく香り高いスタイルになります。

大きめのグラスに注いでいただくと、土やキノコを思わす熟成香が豊かに広がり、

まるでピノ・ノワールの上物を味わっているかのような気持ちになるでしょう。

次はボルドーの白、シャトー・ラブリュス。

今受けする白は、爽やかなソーヴィニヨン・ブラン種でしょう。

でも、丁寧に作られたセミヨン種の辛口は、貴腐ワインに繋がる重厚で豊潤な風味を持っています。

少しへそ曲がりの私は、ちょっと野暮ったい程に複雑なこの白を、更に数年熟成させてから味わってみたくなりました。


ブルゴーニュ地方からはトルシュテ家の白09年。

地元で白と言えば普通シャルドネ種ですが、こちらはピノ・ブラン種、しかも6年を経た09年産。

少しすりリンゴの様な酸化のニュアンスはありますが、独自のコクとミネラル感が楽しめます。

同じ生産者のオート・コート・ド・ニュイ赤09年も野太い味わいです。

エルヴェ・シャルロパンのマルサネ村の赤。この赤は安定した品質で当社でも人気の1本。

今は13年産を販売していますが、作柄が更に良かった12年産が限定で入荷しました。

美味しい上に、更に1年こなれている12年物が同価格ですよ。

シャルロパンのファンでしたら、飲まずに取って置きたくなるでしょう。


そして、ルイ・ジャド社と共に、大手でありながら良質さで知られるジョセフ・ドルーアン社。

高騰しているブルゴーニュで、なんと、ここだけが値下げをしました。

入荷したどれもがお薦めですが、まずはアリゴテ種。

味わいはシャルドネ種かと思われそうな果実味の豊かさと、

爽やかな調和した酸味で、この価格は信じられません。

赤はショレ・レ・ボーヌ村。溌剌とした赤い果実の風味がたっぷり。

チャーミングで品のあるピノ・ノワール種のお手本のような出来です。

シャルドネ種ではリュリー村の白12年。

グラスからナッツやスモーク香が立ち上り、柔らかな果実味に酸味とミネラル感が調和しています。

「ドルーアン社が値下げをすると、周りの生産者は困っちゃうでしょう!」という声が他から聞こえて来そう。


フィサン村のベルトー家が造るブルゴーニュ規格の赤13年。

名門ベルトー家の赤は渋堅い味わいで、北のピノそのものでした。

そこへ13年から娘のアメリさんが実家に戻り、ワインは生まれ変わりました。

重いタンニンのベールを脱ぎ棄て、瑞々しいチェリーの果実味が広がります。

きれいな娘さんが造るワインを応援してみませんか。

モンテリー村の生産者組合会長を長年続けるポール・ガローデ氏のブルゴーニュ規格の赤。

こちらは4年を経た11年産なので、ベリー系の果実味にも少しだけこなれた表情が楽しめます。

白ではサン・トーバン村の重鎮マルク・コランのブルゴーニュ規格の白13年。

こちらは自社畑ではないですが、香りは梨にナッツとカスタードが混じり、

ふくよかな果実味に酸とミネラルが絡み合って、豊さとメリハリ感が楽しめます。

そして自社畑1級ルミリは、凝縮感とスケール感がばっちり出てきます。

この白を味わっていただければ、難しいと言われる13年産ですが、白は当たり年だとしか思えません。

ちょっと上物の赤ではルイ・ジャドが所有する生産者「デュック・ド・マジェンタ」で、

シャサーニュ村の1級クロ・ド・ラ・シャペル01年赤。

14年を経て果実味は少し落ち着いてきましたが、タンニンが味を引き締め今も豊かな味わいを持っています。

この味わいで産地が有名な村だったら、2倍以上の価格になるでしょう。


南仏からはシャトーヌフ・ド・ガダーニュ村のシャトー・グラン・ディニテル12年。

村の名前からも連想出来ますが、約千年前はシャトーヌフ・デュ・パプと同じ台地だった村。

当然、葡萄品種も味わいもヌフ・パプと同じスタイルで、値段は約1/3。

このワイン、あと1~2年待てば更に美味しくなるでしょう。

次は北部ロワール地方の中でも有名なサンセール村の白。

生産者はこの村で自然派の第一人者、セバスチャン・リフォー。

まずは、切れの良い辛口で知られるサンセール白の先入観を捨てて、

セバスチャン氏が完熟したソーヴィニヨン・ブラン種を、思い描く自然派の方法で醸造したら、

旨みと複雑さが増して独自な味わいになりました。

従来の淡麗辛口か、こちらのコク旨タイプかは、飲み手が選べば良いのです。

そして上級品のスケヴェルドラは、貴腐葡萄が半分混じっていた葡萄から造られました。

仏北部・ジュラ地方ジャック・ティソ氏のアルボワ村シャルドネ09年。

スイス国境近くの涼しいジュラ地方は、ポピュラーなシャルドネ種を使っても、

熟成が独特で複雑な味わいの白になります。

これからの時期クリーム系のシチューと合わせてみては如何でしょうか。


イタリアからはピエモンテ州トリンケーロのオレンジワイン。

ワインで色別の分類は、赤、白、ロゼでしたが、近年オレンジ色のワインが出て来ました。

赤は果皮と共に仕込む為に黒葡萄の皮の色が染み出て赤になり、

白は果皮を入れず果汁だけで仕込む為に淡い黄色になります。

近年、自然派の生産者が古代の製法を取り入れ始め、

白葡萄の果汁を搾らず、赤の様に白葡萄の果皮も共に醗酵させ、

酸化防止剤も無添加で造ると、酸化と果皮の色とで、ワインはオレンジ色になります。

味わいはフレッシュ&フルーティではなく、赤の様に渋みや複雑さのあるスタイルなので、

食事も鳥や豚の煮込みといった料理に合わせたくなります。

モンド・デル・ヴィーノのピノ・ピノは、高級品種ピノ・ノワール種を使って、

伝統的ブルゴーニュ・スタイルではなくフレッシュ&フルーティで微発泡の白に仕上げました。

難しい顔をしてではなく、コップでぐびぐびと愉快に楽しみましょう。

トスカーナ州の赤、モンテ・アンティコ10年。

地元のサンジョベーゼ種主体の赤を樽で1年、瓶で3年以上熟成させています。

濃さ強さは少し落ち着いて来ましたが、熟成香が開き始めており、

ドライエージング・ビーフのステーキと合わせてみたくなりました。

若いワインが多いこの価格帯で、作柄の良かった10年産は貴重です。
                                                                 
ピエールサンティ社が地元のヴェルディッキオ種で造った白。

この品種はコクと旨味が特徴で、この価格でも痩せた感じがなく風味豊か。

地元で魚の形と呼ばれる、独自の瓶に入っています。


スペインからはアルベアルがペドロ・ヒメネス種で造ったデザートワイン。

完熟まで待って収穫し、さらに天日干しした葡萄を伝統的な壺(約800L)で18ヶ月長期醗酵させています。

残糖は425g/Lもありますが、透明感のある果実甘味で、パーカー氏93点も納得します。

このワインがあると、食後の一時がとてもゴージャスになることでしょう。

辛口の白ではディット・セラーのカビロール。

有機栽培されたガルナッチャ・ブランカ種とマカベオ種の樹齢は30~65年と高く、果実味の凝縮は別格です。

赤で知られるスペインですが、最近は白も侮れません。

スペインの赤ではフラウタ・デ・バルトロの赤13年。

モナストレル種の瑞々しい果実味が少しこなれ、余韻に樽のニュアンスも感じられます。

安価ですが、バランスが良く、最適なデイリー・ワインだと思います。

もう1ランク上ですと、リオハ・アルタ地区のセニョーリオ・デ・ウヌエラのクリアンサ10年。

最新の設備から生まれたのでしょう、凝縮した赤い果実の風味とスモーキーな木樽の風味が豊かに広がります。


カリフォルニアからは黒いラベルのカーニヴォ。

この価格で樽濃いフルボディな赤は、やりすぎ感も少々ありますが、インパクトは十分。

安くて濃いワインがお好きな方には、お薦めします。


チリではヴィーニャ・パルグアのアンカ・パルグア09年。

このワインは有機栽培のカベルネ種、他5品種をブレンドした赤。

何よりも収穫後6年を経て果実のジャムっぽさが落ち着き、6品種が少しずつ調和してきました。

私はどうしても熟成したワインを選んでしまう傾向がありますね。


食品からはヴァンドーム社のノンアルコール・ドリンク。

発酵後のワインからアルコールを減圧蒸留で除去したようです。

今まで数々のノンアル・ワインを試しましたが、味に欠点があるか、

間抜けな感じがして扱う気にはなれませんでしたが、このクラシックは味、価格共に、納得できる商品です。


余市の三氣の辺(ミキノホトリ)農園の各種ストレート・ジュース。

将来的にはワイナリーまで考えていますが、その第一弾がストレート果汁です。

飲んでいただければ分かりますが、同じ100%ジュースでも濃縮還元タイプとは全く違います。

将来が楽しみな生産者の一人です。

スペイン・マラガ村の名産マスカット葡萄のレーズン。

完熟まで収穫を遅らせ、更に天日乾燥させたこのレーズンは種入り。

この種が完熟していてナッツのように香ばしく、実と共に美味しく味わえます。

長期熟成させたハード系チーズの付け合わせにも最適です。