まずは先月の話の続きで、転落した方のお義母さんから電話があり 、経過も良くご本人は退院されたと連絡がありました。
さて今月はワインでも少し専門的なお話。内容はマロ・ラクティック発酵(Malo-Lactic Fermentation 以後MLFと略す)についてです。
北海道のような涼しい産地のワインは、香り高くフルーティで豊かな酸味が特徴です。寒冷地のワインに多く含まれる酸味がリンゴ酸で、味はレモンの様なシャープな酸味が特徴。このリンゴ酸(マロ)を、乳酸菌(ラクテック)が醗酵(ファーメンテーション)して、乳酸に変わる事をMLF(マロ・ラクティック発酵)と呼びます。一般にドイツやシャブリなどの爽やかな白は、「MLF」を行わずにリンゴ酸を味わいの特徴に生かしています。しかし、シャブリ村と同様にシャルドネ種で白を造るムルソー村では、アルコール発酵後に「MLF」を行って、リンゴ酸を乳酸(ヨーグルトの酸味)に変え、更に樽熟成させることで穏やかな酸と複雑さを持ったスタイルになります。
さて北海道に根付いたワイン用葡萄と言えば、ドイツ系品種の白・ケルナー。この品種はフルーティな果実感と、爽やかな酸味が特徴なので、今まで道内の生産者はMLFをせずに、リンゴ酸を生かした爽やかなタイプに仕上げていました。そこに元ココファーム醸造長ブルース氏の10R(トアール)ワイナリーが、ケルナー種でMLFを行ったのです。10Rのケルナーが発売したての頃は、MLFの風味はそんなに目立ちませんでしたが、半年を過ぎた頃から酸味が穏やかになり「旨味」を感じさせる味わいが開いて来ました。
その旨み成分が、和食や日本のお惣菜にとても相性がいいのです。多分、味噌やしょうゆなど発酵調味料を使った料理に、旨味を持ったこのワインが寄り添ってくれるのでしょう。今も多くの道産ケルナー・ワインはMLFを行わずに爽やかなスタイルに仕上げていますが、最近試飲をした藤野ワイナリーのケルナー14年はのっけからMLF風味。一般的な北海道産ケルナーの味わいとは全く異なりますが、このワインを味わった時に従来の壁を打ち破った新しいワインのスタイルを見つけた感じがしました。
MLFによる穏やかな酸味と、旨味、そして味わいを引き締めるミネラル感は、日本の食事に寄り添ってくれます。酸と果実味でメリハリのあるスタイルか、旨味とミネラル感のタイプを選ぶかは? 飲み手のお好みや、合わせるお食事で選ばれるのがよいと思います。そして間違いなく言える事は、北海道産ワインはどんどん進化をしています。
さて、今月のお薦めワインです。
まずは余市のオチガビ・ワイナリーと、千歳ワイナリーで、共に15年産ケルナー種からの白。この2種のケルナーは、MLFを行わずにフレッシュ&フルーティに仕上げた白。これからが時期のアスパラや、サラダ仕立ての前菜には最適の白です。
奥尻ワイナリーからは、ピノ・ノワール種からのロゼ。ベリー系の華やかな風味主体ですが、アフターに潮風からのミネラル感と言うか、複雑さが味わいを引き締めています。
栃木県ココファームからの白は、やっと入荷した農民ドライ15年。ここは自社畑が狭い為、日本各地の優良な農家さんから葡萄を購入して、良質な日本ワインを造っています。このワインのうち約半分は余市産ドイツ系白葡萄が使われており、フルーティで香り高い味わいの中心を担っています。
山梨県名産の甲州種からの白は、中央葡萄酒が造るグレイス・甲州15年。中央葡萄酒は甲州種の品質向上の為に、有名なボルドー大のデュブルデュー教授にコンサルタントを依頼し、そこで得たノウハウを県内の同業他社に公開して、甲州ワイン全体の品質向上に力を注いでいます。そして、この山梨県・中央葡萄酒の子会社にあたるのが、北海道の千歳ワイナリーです。
次は仏ボルドー地方から。 私は何度も言っていますが、「素晴らしい作柄だった09年、10年を値上がり前の価格で見つけたら、迷わずに即、購入です!」メドック地区で評価を上げているシャトー・スグ・ロング・モニエで09年産を見つけました。完熟した葡萄からの旨みと、凝縮したコクが楽しめるでしょう。
次は今では貴重な存在になってきた05年産を、ペサック・レオニャン村のシャトー・ルーヴィエールで見つけました。粘土質が少なく砂利質のグラーヴ地区は、濃度はミディアムですが香り高いスタイルに仕上がります。収穫から11年を経て、この村特有のタバコの葉や葉巻を思わす熟成香と、木樽の風味が混じり始めた頃でしょう。
シャトー・デギュイユ・ケレは今注目されるカスティヨン地区で評価を上げている小さな(2.4ヘクタール)シャトー。この価格ですが、ふくよかな果実味とローストした木樽の風味(新樽率6割)がしっかり楽しめます。そしてこの11年産は仏アシェット誌で1★評価を受けています。
私の近年の持論は「安物ブルゴーニュ白を買うなら、丁寧に造られたボルドー白の中堅クラスを!」。大人気シャトー・モンペラのオーナーが造る、シャトー・トゥール・ド・ミランボー白はまさにこのパターン。トゥール・ド・ミランボー白12年の並品「パッション」でも十分美味しいですが、同じシャトーの上級品「グラン・ヴァン」白は8年を経ただけあって木樽と果実味が混じり始めた熟成香が楽しめます。バターを使った魚料理や、鳥や豚肉のシンプルなグリルが食べたくなりました。
さて、ブルゴーニュ地方からはボーヌ村の名門シャンソン社の古酒で、93年産ボーヌ1級マルコネ畑。実はこの赤はまだ未試飲ですが、良い生産者と良い畑で23年を経たピノ・ノワール種が、この価格でしたら、93年生まれで無くても買うべきでしょう。この年の作柄も平均よりは少し良好でしたので、官能的な熟成香を期待しております。
さて、皆さんはワインの栓がコルクじゃないとダメでしょうか? ボーヌ村の超名門!ジョセフ・ドルーアン社のサン・ヴェラン村(定価3,300円)の白で、スクリュー・キャップ仕様が限定・特別価格で入荷しました。瓶の中身は一緒で、栓が異なるだけで約3割も安いんです。外見よりも中身を優先される方に、ぜひお薦めします。
次はデュボワ・ドルジュヴァルのサヴィニ・レ・ボーヌ村のピノ。しかも素晴らしい作柄だった02年産で、タストヴィナージュ・ラベル。このラベルは特級畑の中にあるクロ・ド・ヴージョ城で、この地の利き酒騎士団がブラインド試飲を行い、各産地の特徴が味わいに認められたワインにだけに与えられます。14年を経た今も、02年産らしい豊かな果実感が楽しめます。
そして、定評ある造り手ドミニク・ローラン氏のショレ・レ・ボーヌ村で作柄の良かった12年。古木葡萄が多く残った畑を見つけ出し、風味豊かなワインをマジック・カスクと呼ばれる独自の樽で熟成させ、果実味だけでなく旨みと複雑さを持った味わいに仕上げます。味わった後の満足感は、ボーヌ村でも1級畑クラスを思わせます。
ジュヴレ村フィリップ・ルクレールが造るブルゴーニュ規格の赤13年。ボン・バトン畑はシャンボール村で国道の東側の区画。完熟を待って収穫した葡萄を自然酵母で長時間醗酵させ、しっかりと樽熟成させます。このボン・バトンは造り手特有の凝縮感と、シャンボール村の上品さが毎年安定して楽しめます。
サヴィニ村の名門モーリス・エカールの赤。お家騒動から本家と息子夫婦が分かれ、本家は畑を売却しましたが、今もモーリス氏本人が醸造して昔の名前で販売しています。さてこのワイン、酸とタンニンが味の中心に位置しており、素直で飾り気が無く、食事と共に味わいたいタイプ。しかも赤は1級畑で、近年ではあり得ない価格。現代的なワインが無くしてしまった、何か、年老いた親父の背中を感じさせる様な味わいでした。
南仏からはミシェル・ガシェ氏がローヌ地区の古木葡萄で造った赤(グルナッシュ種85%、シラー種15%)は、 アルコール15.5%! パーカー氏も93点評価したこの12年産は、4年の熟成を経て濃さ強さは落ち着いて来ました。少しこなれた味わいの南仏・赤でこの価格は充分お値打ちだと思います。
ボルドーの隣、南西部マディラン村からはアラン・ブリュモン氏が持つ2つのシャトー。シャトー・ブースカッセはオーナー自身が住み、愛着のあるワイン。地元のタナ種からの濃さ強さと共に、繊細さを合わせ持つバランスの良い赤。
一方、斜面の畑を有するシャトー・モンテュスは、タナ種の可能性を追求し凝縮と緻密さを極めた赤。強烈な濃度を持ちながら、きめ細かで上品さすら感じる不思議なワイン。この2つは常に90点以上の評価を受けて、マディラン村の頂点に君臨しています。
プレミアム・シャンパーニュ2種が、特別価格で入荷しました。89年より無農薬栽培を実践するドラピエ社の大人気銘柄カルト・ブランシュ。ピノ・ノワール種主体(75%)、ドサージュは通常の約半分の6~7g。亜硫酸は約1/3に留めていますが、味わいは骨太で強さがあり、お食事と合わせたいタイプです。
一方、複雑さとスケール感のある味わいで知られるゴッセ社の代表銘柄がグランド・レゼルヴ。ピノ・ノワール種42%、シャルドネ種43%、ピノ・ムニエ種15%のベース・ワインはMLFを行わず、長期熟成(平均60ヶ月)によって酸味との調和と、豊潤な味わいを身につけています。
イタリアからはバローロ村の協同組合テッレ・デル・バローロが造るリゼルヴァ規格のバローロ。人気のこの村で、有名生産者の物は1~2万は超えてしまいますが、組合が手掛けたこの赤は良心的な値付け。しかも収穫は作柄の良かった07年。 頂点の生産者ではありませんが、9年を経た飲み頃の07年産がこの価格は、ネビオロ種好きには気になる事でしょう。
さて、白ワインとは、葡萄の皮を入れずに搾った果汁だけを発酵させます。赤ワインと同様に白葡萄を潰し果皮や種と共に発酵させると、酸化が進む事で赤茶けた色と、皮や種からのタンニンで複雑な味わいになり、近年こういったワインを色調から「オレンジ・ワイン」と呼んでいます。伊のオレンジ・タイプで有名なピエモンテ州のトリンケーロが入荷しました。
スペイン・ワインからは、大人気の生産者ファン・ヒルがカラタユド地区で造る赤オノロ・ベラ。スペインのガルナッチャ種は、同じ品種である仏グルナッシュ種より果実味と骨格が豊かになり、このワインでもその特徴がうまく生かされています。ガルナッチャ単体でも風味豊かで、バランスの良いワインに仕上がっています。
オーストラリアからは冷涼地ヤラ・ヴァレー産ウィッカムズ・ロードのシャルドネ。この国特有の果実味は程々に抑えられ、代わって酸味とミネラル感が色どりを感じさせます。濃すぎず、奥行きある味わいは、お食事と調和し共に楽しめるスタイルです。
次もオーストラリアで冷涼なジーロング地区から、ビトウィーン・ファイブ・ベルズが日本向けに造った「ジャパン」と言う名の赤。シラーズ種にネロ・ダヴォラ種、ネビオロ種、ピノ・ムニエ種、リースリング種、シャルドネ種の不思議なブレンド。オーストラリアに多い甘い果実感が無く、柔らかで繊細な味わいは、北国の赤を思わせる仕上がりです。
蒸留酒では有名なオスピス・ド・ボーヌ競売会のワイン用葡萄で造られたマール(ブランディ)。近年マール、グラッパは、日本のアルコールの品質基準が厳しく、事前検査で引っ掛かり輸入が困難になって来ました。13年を経たマールと言うだけでも、この価格はお値打ちだと思います。
食品では岡山県の倉敷味工房から丁寧に作られた各種ソースが入荷しました。全体に濃い味わいではないので一口目は物足りないのですが、試食の為に豆腐にかけてゆっくり味わうと、自然な旨味がじわじわと広がります。特に私はデミグラス・ソースと、ウースター・ソースが気に入りました。