2016年 8月、9月

今月は本のお話しです。

今、当社でも扱っているマンガ仕立てのワイン・ガイドブック、小久保 尊(タケル)著「図解 ワイン一年生」。私は仕事柄、ワインの本を見つけると購入するようにしていますが、この本は今まで見た事が無い衝撃的なワインの本でした。著者・小久保 尊は33歳で、千葉県でワインバーのオーナー・ソムリエとか。


ワインは中世以降ヨーロッパでの飲み物だったので当然ですが、国内のワインの本は現地の書物を翻訳するか、見本にする物が殆どです。欧州では2000年以上の年を経て葡萄品種や産地が淘汰され、各葡萄産地内では区画による品質の上下が認知されています。しかし日本でワインが飲まれるようになったのは近代から。そして今では世界各地でワインが造られるようになり、物流の整備も進み札幌にいても世界各地の物が入手できるようになりました。伝統的な産地では歴史を超えたワインが残り、新興産地では今までワインを飲まなかった消費者に向けた新しいワインがどんどん生まれています。

しかし今までのワイン・ガイドブックは、欧州の伝説的なワインしか取り上げていませんでした。この筆者は今、日本で買える様々なワイン(伝統的な物と、新興産地の物)を同列に並べて、その時の気分や好みに合わせて選びましょうという切り口で本は書かれています。この新しいワイン選びに使われるのが、産地ではなく葡萄品種による分類。そして沢山ある葡萄品種を覚える為に、各品種をアニメのキャラクター化しました。このキャラクターが良く考えられており、カベルネ・ソーヴィニヨン種は優等生の男の子、シャルドネ種は誰からも好かれる可愛い女の子、ピノノワール種は人を寄せ付けない気品と美しさをを持った女性といった具合。まずはこの性格分けがとても的を得ていて感心します。

でも、いろいろワインを飲んで来ると、同じ品種でも違うスタイルの物がある事が分かってきます。出身はフランス・ボルドー地方のカベルネ種だって、アメリカや、チリで栽培されるとその産地の味わいが加味されて、少しずつ変わってきます。そういった違いをこの本では、ボルドー地方では優等生タイプのカベルネ君が、アメリカに行ったカベルネ君だとサングラスをかけていたり、ブルゴーニュの地方のピノ・ノワールちゃんは黒毛で影のある暗さを持っていましたが、アメリカのピノちゃんは金髪でガムをクシャクシャ噛んだ姿で違いを表現しています。


もう一点は品種や産地でワインを分類していますが、銘柄を明記せずに目安となるアバウトな小売価格を伝えています。たとえば「日本のビールは350缶で230円ぐらいで、とても美味しいですよ」と書いてある感じです。当然ビールメーカーはキリン、アサヒ、サッポロ、サントリーがあり、各社とも何種類か出していますが、どれを飲んでも美味しいですよと言う事でしょう。

この手の本は筆者の好みが当然あり、普通は好みのメーカーの商品が推奨されています。この推奨銘柄が無いという事は、勘ぐって言うとメーカーのお抱えになっていない事です。ガイド本を見て各名産地の推奨品の輸入元が1社に集中していると、多分この筆者はその会社と関係があり、味ではなく自分の都合で銘柄を選んでいると思われます。このデリケートな部分をこの本はバッサリと捨てました。ブルゴーニュの説明で、「千円、二千円台でブルゴーニュを買えば、まずひどい目にあうと思っておいた方がいいです」と言って、ピノ好きな筆者は安物買いでガッカリするぐらいなら、五千円以上の物を買ってピノの良さを堪能してほしいそうです。


このあたりの割り切りの良さは、私も業界関係者だけに「アッパレ」と言いたい気分です。内容の約1/3はマンガ仕立てで読みやすく、文章の所も重要な所は始めからアンダーラインが引いてあります。誰もが読みやすい「おちゃらけた本」に見えますが、筆者のワインに対する思いは公正で、厳格で、何より純粋なのでしょう。ワイン好きでしたら、1本買うのを我慢してでもこの本をジックリ読んでみてください。結構、ワインの本質を突いているような言葉に出会える事でしょう。



さて今月のお薦めワイン、まずは北海道から。

余市のオチガビ・ワイナリーのバッカス種15年。創業から3年を迎え、栽培、醸造、共に安定してきました。そして今までケルナー種より高額の設定だったバッカス種の価格が、15年からお安くなりました。お得な価格でふくよかな果実味と、熟した風味が楽しめます。

次はタキザワ・ワイナリーのミュラー・トゥルガウ種15年。この年からミュラーは醸造法を変えて、3種類の醸造法でワインを造りブレンド。フルーティな果実味はそのままに4割ほどを果皮と種と共に醗酵させた事で、果皮からのタンニンや旨みが味わいに厚みと輪郭を与えています。地元の葡萄を醸造によって更に磨きあげる試みがなされています。

そして十勝ワインのピノ・ノワール13年。地元ワインのパイオニア、十勝ワインが造るピノは熟成させ飲み頃になってから発売しています。今、道産ワインの多くは15年の中で、13年産を発売するのはメーカーの心意気でしょう。3年を経て熟成旨みが少し開いて来ました。

長野県・小布施ワイナリーのメルロで、葡萄は佐藤明夫氏のキャトル・サンク農園の14年。やはり長野産メルロは完熟感があり、ボルドー右岸の物に近い風味を持っています。涼しい北海道にはない、熟したチェリーの果実味とスモーク風味が楽しめます。


フランス・ボルドーからは、シャトー・レオヴィル・ラス・カーズが造るクロ・デュ・マルキ10年。何度も言いますが、値上がり前の10年産を見つけたら即、買です。完熟感と凝縮感がたっぷりで、二周りは豊かな風味が楽しめます。将来の楽しみに取って置きたいワインでしょう。

さて、ボルドーの09、10年産は当然美味しいですが、今、狙い目はその前後の年です。オー・メドック地区の大規模シャトー、ボーモン11年。この年は思いのほか出来が良く、めっけもんが見つかる年。

そして次は高額で知られるポムロル村から、クロ・ブラン・マゼイル11年。熟したメルロ種からの豊かな味わいの赤は限定の入荷です。ラベルではなく、中身と価格を優先する方にお薦めします。

日本で大人気シャトー・モンペラと同一オーナーで、トゥール・ド・ミランボーのレゼルヴ赤。完熟したメルロ種からのチェリー・シロップ風味に、上質な木樽の風味が混じってこの価格ですから、お隣、英国での人気もうなずけます。作柄の良かった09年と、06年産マグナム瓶が限定入荷。

ボルドー地方シャトー・ル・ノーブル11年は大変お得なオーガニック・ワイン。自然派ワインに多い癖などはなく、素直な果実味ときめ細かなタンニンが楽しめます。今月入荷のフランス赤で、旨安大賞決定!


ブルゴーニュ地方からは、良質な白2種が入荷。白の名門アンリ・ボワイヨのブルゴーニュ規格の白12年と、シャトー・ド・ピュリニー・モンラッシェが、シャサーニュ村のシャルドネ種で造る白11年。共に数年を経て若さが落ち着き始めた頃で、そろそろ飲み頃になって来ました。こういった名門生産者の物でこなれた物は滅多に見かけません。

今、シャンボール村でグングン評価を上げているエルヴェ・シゴーのシャンボール13年。有機栽培からの澄んだ果実味と、清らかな酸味がとってもチャーミング。現在7,000円以上しているこの村の赤が、この価格は見逃せません。


ピノ・ノワール種の赤のお値打ち品では次の3種がお薦め。まずは大人気ジャエ・ジルが造るパストゥグラン11年。セメントタンク熟成ですが一部を樽熟させたのでしょう、うっすらスモークが香ります。ピノの香り高さと、ガメイ種のコクが、5年を経て混じり始めています。

二番、セリエ・デ・ウルシュリーヌは自社畑ではなく、ネゴシアン(ワイン商)のワインですが、ここのブルゴーニュ規格のピノ・ノワールは素晴らしい作柄だった02年産。14年を経た熟成香と共に、素直な果実味が今も十分楽しめます。

三番目はニュイサンジョルジュ村のはずれに暮らすショーヴネ・ショパンのコート・ド・ニュイ・ヴィラージュ12年。4年を経てニュイ地区特有のタンニンと、果実味が調和してきました。旨安の中でも私が一押しするのはショーヴネ・ショパン。正にこれからが飲み頃の、お値打ちで良質なピノ・ノワールです。

今月はヴォルネ村でビオディナミ栽培を実践するフェヴリエ家の飲み頃赤が限定入荷しました。まずは本拠地ヴォルネ村の98年産。18年経た豊かな熟成香と、熟成旨みがきれいに楽しめます。


そして隣のボーヌ村に所有するシャルドヌロー畑の赤で98年と96年。こちらは共にもう少し熟成が進み、香りに紹興酒や麹のニュアンスがありますが、味わいは果実味とタンニンが調和した感じで香りよりは若い印象でした。約20年を経た名醸地のワインとしては破格にお安く、味わいもまだしっかりしています。誕生年の方だけではなく、古酒入門にも最適なワインでしょう。


南仏からは白、赤2種のワインです。白ではラ・クロワ・グラシオがピクプール種からの辛口。長女が醸造を担当し、フレッシュな果実味とミネラル感が調和した白に仕上げています。地中海沿岸で採れる生カキだけでなく、魚介類にピッタリのワインです。

赤ではラストー村のコンブ・デューが造る赤で2000年産。作柄の素晴らしかったこの年ですが、16年を経て今ではほとんど見かけない貴重なワインです。味わいはグルナッシュ種と他の品種が調和してきましたが、今も強さを持っています。


ロワール地方からはサン・マルタンのミュスカデが、少しお安くなりました。瓶詰め後2年を経てフレッシュさが落ち着き、少し味わいが調和して旨味がのって来ました。この価格は注目です!

山のふもとサヴォワ地方からはリュパンがルーセット種で造る白。アルプスからの澄んだ空気を味わうような爽やかな味わいです。


イタリアからはエミリア・ロマーニャ州で有機栽培を実践し、バリバリの自然派の醸造を行うイル・ヴェイの赤、白が入荷しました。若干、自然酵母由来の酸化風味がございますが、澄んだ果実感と、旨味を感じさせる味わいはここ独自の物です。


赤ではボッター・カルロ社のサリーチェ・サレンティーノで、樽熟せさせたリゼルヴァ規格。この価格で強さと、複雑さを持った赤は中々見つかりません。そして更に2~3年熟成させる事も十分可能でしょう。


カリフォルニアからはメーカーで品切れていた旨安ワイン、エイリアスのシークレット・エージェント赤がやっと再入荷しました。今までこの地では単一品種の濃くて強い味わいのイメージでしたが、少しずつ調和のとれたタイプが出て来ています。この赤も数品種のブレンドで、ミディアムな果実味とバランスの良い味わいが楽しめます。


スペインからのお薦めは白1種と、赤2種。白はアラゴン地区ランガのパイ・ブランコ。ここの畑が3.14ヘクタールだったことから畑名を「パイ(円周率)」と名付けました。古木のガルナッチャ・ブランカ種を樽熟成した白は、筋肉隆々の引き締まったスタイルでほれぼれするほどです。シャルドネ種を使わずに、2,000円以下で、パーカー氏が90点は付けそうな出来に「あっぱれ!」と言ってあげたい出来。

赤ではメルム・プリオラーティのアルディレス07年。プリオラート地区の急斜面畑で栽培された、ガルナッチャ種、カリニェナ種、他が9年を経て少し調和してきました。この地区の赤は通常3,000円以上するのに、半値に近い価格でパーカー91点の出来。こちらも又「あっぱれ!」の出来です。

後はスペインの天才的サッカー選手、イニエスタ氏のワイナリーの上級品でプレミウム。シラー種、カベルネ種、等3品種のブレンドを18ヶ月樽熟成させた赤は、凝縮した果実味と木樽風味が充分楽しめます。サッカーファンでなくても納得できる上級ワインです。


次はウィーンのあるオーストリアからの白。この国の白グリュナー・フェルトリーナー種は良質な事で知られますが、小規模生産者が多い為に価格も、3000円前後します。フーグル家の白は半値以下の価格で、品種特性がしっかり楽しめます。ちなみにこの白品種、岩見沢の10Rワイナリーさんが少量栽培しています。


今月はカリフォルニアから良質な物が多数入荷しました。白はヴィラ・マウント・エデンがビエン・ナシード畑のシャルドネ種で08年産。8年を経てグラマラスな完熟感と、カスタード・クリームを思わせる木樽風味が混じり始めた「コテコテ」の白。バターをたっぷり使った料理が恋しくなります。

アメリカの赤で名産地と言えばナパ・ヴァレー地区ですが、値段もハイクラス。コン・クリークは地元農家とのネットワークを生かして、お値打価格で良質なワインを造っています。カベルネ種のタンニンと、シラー種の果実味を生かしたこの赤は、価格以上の濃さと豊かさを持っています。一度ナパ・ヴァレーを飲んでみたいと言う方には最適の入門ワインでしょう。ナパのカベルネ種で有名銘柄を追いかけると値段は数万円以上になりますが、地元で多く栽培されるジンファンデル種では頂点の物でも1万円ほど。カリフォルニアでコスパを求める方は、この品種抜きには考えられません。

サイクルズ・グラディエーターは、日当たりの良い事で知られるパソ・ロブレス地区のジンファンデル種を中心にブレンドし、フレンチオーク樽でしっかりと熟成させる事で、フルーティさと複雑さの両方が楽しめます。


そしてオーク・リッジのエイシェント・ヴァイン。ジンファンデルの銘醸地ロダイ地区の自社畑の中でも、最高齢120年~80年木の実を使って醸造した逸品は、ネクターやシロップの様な果実味と骨太なアルコール感が口の中で爆発します。アメリカン・スピリッツの真髄とも言える強烈なワイン。


ハードリカーからは、モルト・ウイスキーの最高峰ザ・マッカランの18年。日本でもNHKテレビ「マッサン」の放映後、ニッカ、サントリーの熟成年数入りの物は完売したままです。今から20年以上前、世界のハードリカー市場はウィスキーからラムやテキーラ等を使ったカクテルに需要が移り、当時ウィスキー原酒の生産は激減しました。そして近年になって、モルト・ウィスキーがブームになると、飲み頃の原酒が少なく18年等の長期熟成品が今、生産出来ない状態になっています。何せ、今から原酒を増産しても発売できるのは18年以上先なのですから。


今月の食品からは2種のジュースです。ヴァンドームのクラシックは、ワインからアルコールを抜いて、炭酸を加えたスパークリング・タイプ。今まで数多くのノン・アルコール・ワインを試飲しましたが、我慢できる物がありませんでした。しかしドイツ製のヴァンドームは、きれいにアルコールだけを抜き取った印象で、味わいはかなりワインに近いものに感じました。

日本からはは倉敷味工房で作られた夏みかんジュース。ネクターの様な濃さは無くても、素直な果実感と柑橘の皮を思わせる爽やかな苦旨味が、大人でもお代りをしたくなります。