2017年 5月、6月

5月の連休中に東京から友人家族が来て、一緒に美唄のアルテピアッツァ公園に行って来ました。始めは温泉を考えましたが、石山通りは渋滞するので逆方向からの選択でしたが大変喜ばれました。私が接待する際に心がけるのは地方から来た方は豪華な所、そして東京など都会から来た方は北海道らしい広大な風景が望める所。

昨年この家族が来た時は、広大な農場内にある月寒の「じんぎすかんクラブ」に行って来ました。ここのマトン肉は絶品ですが、あの過密な東京で生活している人にとって、広大な自然を目の前にしてのジンギスカンとワインは何よりも贅沢な事だと感じました。

そこで今年も北海道らしい場所に、プラス何か心をくすぐる所はないかと探したのが、安田 侃(カン)さんの彫刻公園。7ヘクタールの丘陵地帯に彫刻が点在し、敷地内にある廃校になった木造の小学校の教室にも作品が展示されています。教室の壁にはコートを掛けていたであろう釘の跡が均等に並び、生徒さんの名前もうっすらと読み取れます。目をつぶると子供の甲高い声がこだましそうな中で、柔らかな曲線の彫刻はその歓声を吸い取っている様な気にさせます。

ここで東京の友人が一番驚いたのが、掻き入れ時とも言える連休中で晴天の午後、7ヘクタールの中に人が100名程しかいなかった事です。東京で話題の展示会だと入場するのにも並び、鑑賞するのも数珠つなぎで立ち止まる事が出来ないのに、この素晴らしい施設をゆっくりと独り占め感覚で楽しめる贅沢さは信じられないと喜んでいました。

この後は、三笠の山崎ワイナリーに寄って直売所でワインを購入し札幌へ帰ります。夕食は二条市場の片岡精肉店で、厚さ約1センチにカットした超厚切り生ラムを購入して、今年は自宅でジンギスカン。ワインは、まずイタリア・メディチ家の微発泡・ランブルスコ赤でドルチェ(甘口)。ベル・ジンギスカンのたれには、少し甘味のあるランブルスコがピッタリでした。

2本目はピノ・ノワール好きな友人の為に、ジャイエ・ジルのパストゥグラン11年。繊細なピノに骨太なガメ種をブレンドする事で、味わいの強い羊肉との調和を試みましたが、少しワインの力負けでした。

3本目は羊とは定番のボルドー赤。オー・メドック地区のシャトー・ラローズ・トラントドン09年。完熟した果実味とタンニンが、羊の脂身をきれいに洗い流してくれます。それと厚切りの羊には、「たれ」よりも塩コショウが良かったです。

最後4本目は、友人が持参したジョルジュ・ルーミエのシャンボール・ミュジニで最高の2010年産! 友情をお金に置き換えるのは忍びないですが、時価25,000円は楽に超えるでしょう。1時間半ジンギスカンの煙にまみれ汚れた居間の中で、上品でけがれが無く、澄みきったサクランボ風味の花びらが静かに開きます。当然、グラスもリーデル社の物に変えてゆっくり味わいましたが、一番汚れていたのは室内では無く、自分の舌(ベロ)。脂の強い羊肉まみれだった私の舌に載せられたシャンボール村のピノは、まるで野獣と美女。真っ白い絹のシーツの上で鑑賞すべき物を、油で汚れたコンクリートの床に放り出された状態。しかしこんな状況でもワイン好きは、「少しずつ香りが開いて来た」、「こっちのグラスの方が酸味がきれいに延びる」とか言いながら夜は更けて往きました。

さて今月のお薦めワインは地元から。

札幌の藤野ワイナリーでキャンベル種のサン・スフル(酸化防止剤無添加)16年。昨年も好評だったこの赤は、アルコール発酵終了後に瓶詰して販売、購入後は皆さんが瓶内で始まる乳酸発酵を見守ります。今の状態では、葡萄を搾って瓶に詰めたような果実味たっぷりのワイン。冷暗所で保管頂くと、少しずつ乳酸発酵が始まることで酸味の鋭いリンゴ酸が減り 、微炭酸の発生と共に柔らかな乳酸が形成されます。

次は栃木県ココファームの赤・風のルージュ14年。葡萄は余市・藤沢農園産ツバイゲルトレーベ種約八割に、山形産メルロ種を二割ブレンド。ツバイ種のスパイシーさに、メルロ種のふくよかさが上手く調和しています。しかも、近年で最良の作柄だった14年産は今や貴重品です。

次は仏ボルドー地方から。2010年以降ブルゴーニュ地方が高騰する中、ボルドーは目立った値上がりが無く、為替の利点もあって今お値打ち感が出て来ました。オー・メドック地区のシャトー・ラネッサンと、シャトー・カントメルルのセカンド・ラベルは、共に9年を経て熟成旨みが開いて来た08年産。ここ1~2年程はふくよかな果実味と、熟成旨みの両方が楽しめる時期でしょう。

そして今も高騰の続くブルゴーニュですが、今月もお値打ちな物を見つけました。まずは赤から、ジャン・バティスト・ベジョのブルゴーニュ・ピノ14年。2,000円以下でも痩せた感じが無く、果実感が楽しめるのは驚きでした。次は毎年安定して良質なワインに仕上げてくるエルヴェ・シャルロパン氏。マルサネ村ロンジュロワ畑は、日当たりの良い東南向き斜面中腹の区画。豊かなタンニンで知られるこの村ですが、ここでは完熟した果実味がふくよかでタンニンと調和しています。

「パスカル・ラショー」はヴォーヌ・ロマネ村の名門ロベール・アルヌーが始めたネゴシアンのブランド名。ブルゴーニュ規格の赤は作柄が良く、少しこなれた12年産が入荷。買い葡萄でも、良質な小粒品種ピノ・ファンで造られた赤は品の良さを感じます。定価3,100円が特別価格で入荷しました。

ニュイ・サン・ジョルジュ村の名門ロベール・シュヴィヨンのパストゥグラン13年。少量のガメ種を加える事で、不思議ですがピノの風味が開いているのに、ガメ種の風味はあまり感じられません。同じシュヴィヨンで上級品のピノ100%・ブルゴーニュ赤よりも私は気に入りました。これはブレンドのマジックなのか?今の時期だけの短期的な風味かもしれませんが、ピノ好きでしたらこの味わいを是非一度味わって欲しいと思いました。

次はブルゴーニュ白、シャブリの名門ウィリアム・フェーヴル社のサン・ブリ村。ブルゴーニュでこの村だけが、例外的にソーヴィニヨン・ブラン種を栽培しています。なぜ、この村だけ?と思いますが、シャブリ地区はコート・ドール地区よりも、ソーヴィニヨン種で知られるロワール河サンセール村の方が近いのです。異端児のサン・ブリですが、味わいは正攻法の爽やかなソーヴィニヨン種。へそ曲がりと言われているが、自分は真っ直ぐだと自覚されている方にお勧めします。

こちらもシャブリ地区から、ジュヴレ・シャンベルタン村の雄、フィリップ・シャルロパンが造るシャブリの白。赤の味わいと同様に、この白も凝縮した強さを持っています。最高の作柄だった10年産が7年を経て少し熟成感も出て来ました。更にもう1~2年寝かせると、豊かなブーケ(熟成香)も開いてくるでしょう。

南仏からは、最高の出来だった10年産の赤が2種入荷しました。サンタ・デュックの古木からのローヌ赤。暑く乾燥した年だけに、ドライ・フルーツやスパイスの風味と7年を経た熟成感の両方が楽しめます。この価格では向かう所敵なしでしょう。

次はリラック村のシャトー・モンフォーコン。ここは南仏でも濃度勝負ではなく、上品さを持ったスタイル。しかし暑かった10年産は例年よりもエレガントさが弱く、強さがハッキリと感じられます。この凝縮し野性味まである果実味と、それを必死に手なずけようとする生産者の思い、この両方を思い感じながら味わってみて下さい。

南仏からの白ではマレノン協同組合のアムンタナージュ白。手間のかかる有機栽培ワインは一般に2~3千円以上しますが、ここの組合員は有機葡萄を安価で生産し、このような低価格で販売しています。4品種のブレンドも、バランス良く仕上がっています。また、有機ワインに多い還元(カンゲン)香や、アニマル香も無く、誰もが楽しめる白ワインです。

アルザス地方からの白はシュルンバジェ社のテール・ダルザス。ここは認証は取っていませんが、自社畑は有機栽培。この安価なブレンド・タイプも全て自社畑のワイン。品種もシルヴァネール種やシャスラ種を使わず、上級品種だけで造っています。格上の味わいでこの価格はお得です。

スペインからはヴァルフォルモサ社のカヴァ、クラシック・ブリュット・ナチュレ。スパークリング・ワインで「ブリュット(辛口)」規格の残糖は1リットル当たり15gまで認められていますが、ガス圧が高いと残糖10g程では、糖分は甘さとしてではなく「コク」として感じられます。そしてブリュット・ナチュレの規格では残糖は0~3g。通常この残糖では、線の細さを感じてしまいますが、ここでは長期熟成による旨味で味わいを調和させています。

そしてスペインの白では2点。まずはテルモ・ロドリゲス氏がルエダ地区で造るバサ。地元のヴェルデホ種は私のイメージでは、ソーヴィニヨン・ブラン種のメリハリ感と、シャルドネ種のバランスの良さが合わさった無敵の品種。旧価格の1,800円でも人気でしたが、円高から店頭1,300円にお安くなりました。

次はリオハの大手マルケス・デ・カセレス社が発売するリアス・バイシャス地区の白。前述したヴェルデホ種は爽やかなフルーティ・タイプで、リアス・バイシャス地区のアルバリーニョ種は、爽やかさに上品さと複雑さが少し出て来ます。ここはスペイン白で最高の産地ですから高額ですが、この特別価格は驚きです。ヴェルデホ種とは違った魅力を持っています。

オーストラリアからはヴィクトリア州ホッフキルシュのピノ・ノワール。南極に近くなる南部は冷涼な気候で、近年は良質なピノ・ノワール種の産地で注目されています。栽培、醸造共に自然派のこのワインは素直な果実味と特有の旨みを持ち、オーストラリア・ワインも様々なスタイルが出てきた事が実感できます。

ワインに香草、果実、糖分、ブランディ等を加えた物がフレーヴァード・ワイン。ヴェルモット類はワインに「ニガヨモギ」を始めとする香草やスパイスと甘味を漬け込んだお酒。スペイン・シェリーの大手ゴンザレス社が、満を持して発売したヴェルモット「ラ・コパ」は、ベースのワインを安価な物ではなく、同社のシェリーの中でも特別な古酒をベースにしています。上物の甘口ワインに、良質な香草とスパイスですから、仕上がりは格別な旨みを持っています。このままで素晴らしい食前酒ですが、コニャック産ブランディでも加えると食後酒でも通用する強さと複雑さを楽しめるでしょう。

食品からは、小豆島(ショウドシマ)・ヤマヒサ社のお醤油2種。まずは「こだわり醤油本生」、国内産で無農薬の大豆と小麦を杉の大樽で発酵、熟成させ、火入れをせず瓶詰めしました。始めは味が強く感じますが、逆に少量でも旨み十分なので、上からかけるのではなく、醤油皿に取って、極少量付けて食べて見て下さい。塩辛さではなく、複雑な旨みを味わう気持ちでどうぞ。

次はここの再仕込醤油の「豆しょう」。醤油は蒸した大豆と炒った小麦に、種麹(タネコウジ)を添加して全体を麹(コウジ)にし、塩水の中に入れて発酵、熟成させます。再度、大麦と小麦で出来た麹を、今度は塩水では無く、出来上がった醤油に入れて再び発酵、熟成させたのが再仕込。豆からの旨み成分は2倍、逆に塩分は少ない為に、濃いけど塩辛くない不思議な味わいです。赤身の刺身や、ステーキにお試しください。