2022年 5月 店主の独り言

 4月に日本ワイナリー協会主催のピノ・ノワール・ワインセミナーに参加しました。

 セミナーは今流行りのオンラインで、3ヶ所の生産地を繋いで各産地の生産者さん同士がディスカッションします。まずフランス・ブルゴーニュからは、函館で葡萄栽培を始めたヴォルネ村のモンティーユさん。札幌会場は日本ワイナリー協会顧問の石井もと子さんが司会進行を務め、生産者は山﨑ワイナリーの山﨑さん、千歳ワイナリーの三澤さん。長野会場はヴィラデストワイナリーの小西さん。離れていても顔と声はオンラインで伝わりますが、ワインの味わいはオンラインでは無理なので、3会場にそれぞれ5種のワインが用意されました。

 ワインは全てピノ・ノワール種の赤で、モンティーユ北海道(余市産葡萄使用)2019年、モンティーユのフランス・ヴォルネ村1級畑ミタン2018年、千歳ワイナリー(余市産葡萄使用)北ワイン2019年、三笠・山﨑ワイナリー・プライベート・リザーヴ2019年、長野・ヴィラデストワイナリー2019年。また札幌会場でワインのサービスをされたのが、オーストラリア生まれの高松ソムリエ。現在、余市のドメーヌ・タカヒコで研修中の彼は、豪州、英国のレストランで勤務しながら独学し、世界ソムリエ業界の頂点に立つ英国のマスター・ソムリエ(2020年時点で世界に269人)を取得した現在最年少の青年です。コロナ禍以降、今となっては当たり前ですが、札幌に居て、各生産者のコメントをオンラインで聞きながら、実際にそのワインを試飲しました。

 さて5種のワインの味わいです。モンティーユ北海道、色調はミディアムですが、果実味が詰まっていて骨太な印象。熟成香的な香木や革の香りも開き始めています。一方、ヴォルネ村のピノはとても暑かった18年産。果実味が凝縮して北海道のピノと比較すると、温暖なカリフォルニア産ピノ・ノワールの様に濃厚でした。余市産葡萄を使った千歳のピノ・ノワールは、酸とタンニンが調和し、ふくよかな果実味と共に柔らかな印象。三笠のピノ・ノワールは干した果実の風味を酸味が引き締め、ミネラル感と本わさびの香りが余韻に感じられました。最後は長野でも標高850メートルの丘の上にあるヴィラデストワイナリーのピノ・ノワール。ふくよかな旨味と果実味に細かなタンニンと穏やかな酸が調和し、余韻には麦わらを思わせるにが旨味が楽しめます。

 司会の石井さんがモンティーユ氏に、本場の産地に居ながら何故、北海道でピノ・ノワールを栽培を始めたのかと聞くと、1990年以降ブルゴーニュでは果実の抽出が強くなった。僕が思うには、パーカー氏を始めとするワインの点数評価が影響したと思います。それと、現地の温暖化が進んだ。そんな時にプロモーションで日本に来て、北海道のピノ・ノワールを味わい1980年代のブルゴーニュが持っていた冷涼地らしい繊細な味わいに驚いたそうです。その後も北海道に来て、産地を見て回ると、欧米の様に生産者の悩みを国や研究機関がサポートする体制が全く無く、個々の生産者が手探りで葡萄栽培を行っている姿を見て胸が熱くなり、自分が持っているノウハウと、地元ディジョン大学の研究結果をオープンにして、共に力を合わせてピノ・ノワールの新産地を作りたくなったと言っていました。

 その1990年以前のブルゴーニュの味わいについて質問すると、モンティーユ氏は「アロマのエヴォリューション(香りの進化の意)」と言われました。当時のブルゴーニュが、10年以上かけて上手く熟成した時に出て来る熟成香が、北海道のピノ・ノワールは5年程でその香りが開き始める。これが驚きで、この特徴を持った道産ピノ・ノワールを更に磨き上げると、どうなって行くのかが楽しみだそうです。

 あと、私がモンティーユ氏の映像を見て思ったのは、彼が現地で試飲に使っていたワイングラスは、多分オーストリア・ザルト社のブルゴーニュ・グラス(現在メーカー欠品中)の様でした。セミナー後に、ソムリエの高松さんに聞いても、同様の返答でした。こうして現地に行かずに、産地の様子が見えるのはオンライン映像だからこそ。話は戻りますが、これから10年、20年後の北海道のピノ・ノワールは益々楽しみになって行くでしょう!