今月は札幌南3条通りのお話し。
この3条通りは私の知る40年以上前から大箱の店舗が少なく、小さくても個性的なお店が点在しています。西1丁目には今でも語られる喫茶の名店「イレブン」がありました。物静かで強面のオーナー、日比さんが落とす当時珍しかった深入りのコーヒーと、ジャズが流れるとてもクールなお店。ところがこの喫茶店、夜の9時を過ぎると、店奥のテーブルに狸小路の店主らが集まり、神輿(ミコシ)の会「北海睦」の会議室の様になって、オジサンのたまり場状態。このお向かい西側には、今も人気で居心地の良いビアホールの「米風亭」。一昔前、夕方前のカウンターには欧米からの外人さんが集まり、ギネスのパイント・ジョッキを飲みながら英字新聞を読んでいて、まるでロンドンのパブの様でした。そして次の角を右に曲がると、今は無きおやき屋「千歳焼」。昼は白衣を着たお父さんが焼き、夕方からは映画好きな娘姉妹が切り盛りしていました。ここのクリームおやきが好きでしたが、タコ焼きも美味しくて、スガイビルで映画を観ながらよく食べたものです。
さて、札幌在住のイラストレーター・松本浦(マツモト・ウラ)さんは、街の様々な店舗や古い家を題材に作品を描いています。毎年9月には個展を開いて、多くの新作と共にイラストが載った翌年のカレンダーを発表。今回の個展に出ていた来年のカレンダーのテーマは「南3条通」。表紙は南3条西14丁目・みゆき交番の前を走る市電の除雪車・ササラ電車。1,2月は5丁目・喫茶ランバンさんと、オープン前のバーFMさんのシャッター。3,4月は何とワインショップフジヰとお隣の中山ビル。5,6月は東3丁目・八百屋の南里商店さん。7,8月は6丁目・狸小路市場。9,10月は7丁目・パンのポームさんが入っているKAKUイマジネーション。11,12月は6丁目・ビストロ・エルスカさん。
こうして当社も南3条通の仲間に入れていただき感謝なのですが、浦さんの個展にあった作品の店舗でも、「今は解体され残っていません」と書かれた建物がいくつもあってちょっと複雑な気持ちになりました。考えてみるとコロナ禍だけでなく、都市計画や、オーナーの健康状態や諸事情で5年、10年後に残っているのかは、現オーナーですら分からないとも言えます。ただ今は無くても、イレブンや千歳焼の様に記憶に残るお店と、残らないお店があるのも事実。
当時、私は夜10時過ぎに喫茶イレブンの前を通って帰宅していました。毎晩ここでは、ホールの女性が重たいテーブルと椅子を全て店の外に出して、店内を清掃していました。冬、吹雪の時でも同様にしているのを見て、長く繁盛しているお店はお客様の居ない時でも努力している姿が心に残っています。そう思うと、将来の行く末の心配よりも、お客様の心に残ってもらえるお店になるように今を努力する事だと感じます。実は、この2023年版カレンダーを当社でも販売しています。サンプルも展示していますので、気になる方は是非ご来店いただき、現物をご覧ください。