< 2025年11月 店主の独り言 >

 10月に一人息子が24歳で結婚しました。

 私の結婚は39歳。私は9歳の時に父親が事故で亡くなり、母子家庭で育った私が38歳の時に母が亡くなりました。マザコンだった私と弟は親不孝者で、母が亡くなった翌年に揃って結婚。やがて息子が生まれても、私は毎日遅くまで仕事をしていて育児は妻に任せっきり。息子の勉強嫌いは私からの遺伝でしょうが、妻の気質を多く引き継いだようで、人付き合いも良く仕事も真面目に行う青年に育ちました。息子は高校卒業後から調理の世界で働き、下働き中は休日も職場の仕事をしていて、息子の体の心配までするほど仕事を頑張っていました。

 私が結婚した当時を考えると今の息子よりもずっと未熟で、家の事など構わずに毎日ただ美味しいワインを探して、必死に販売していました。もちろん今も大きくは変わりませんが、家業の売上を増やすことが妻を安心させる唯一の方法だと信じて残業し、皆が寝静まった家に静かに帰って寝るだけの生活でした。今思うと育児の分担も、夫婦の会話も無く、妻が良く我慢してくれたと感謝しています。

 息子夫婦は共働きなので、私と違い二人で協力し合って新生活を始めているようです。息子の式は藻岩山頂上にある「ジュエルズ」さんで、当日は天候にも恵まれて山頂からは石狩の海、札幌の都心部、北広島のエスコンフィールドまでもが眺められる素晴らしい景観の会場です。

 料理の一皿目は、古典的なフランス料理のフロマージュ・ド・テート(豚の頭部を煮こごり状にした料理)。私と弟はこんな食通向きなメニューを結婚式の宴会料理でと驚きましたが、その後も料理長の大胆な思惑に驚きの連続でした。素材は道内の身近な素材ですが、付け合わせと料理法が最先端のフランス料理で、私と弟は式よりも料理に夢中になっていました。ボタンエビと花咲ガニは茄子のペーストの上にのせられ、上からトマト風味のジュレがキラキラと輝いています。スープはとてもキメ細かなカボチャのポタージュに秋トリュフのスライスがかけられ、魚料理は上川大雪の特別純米とコンソメを煮詰めたソースの上に、輪切りの紅しぐれ大根が島に見立てて皿の中心に置かれ、網焼きされた香ばしいキンキがその上に鎮座しています。最後は有名な白老町敷島ファームの黒毛和牛フィレ肉のポワレ。2センチ近い厚さの中心は綺麗なロゼ色で、柔らかな噛み応えと旨味が溢れてきます。更に付け合わせのグラタン風味のジャガイモはミル・クレープの様に層をなして、主役のお肉を超える程の美味しさでした。

 こうして息子夫婦の為に沢山の専門の方々が協力をしてくれて、心のこもった結婚式と素晴らしい食事会を行う事が出来ました。これから若い二人は、楽しいことも苦しいことも二人で体験し、乗り越えながら本物の夫婦になって行くことでしょう。お互いに良い所を伸ばし、折れる所は譲り合って素晴らしい家庭を作って欲しい。最後に私は子供の結婚という親にとって最高の幸せを家内と共に味わえた事を感謝したのと同時に、私の両親にこの幸せを体験させることが出来なかった事を空に向かって謝り、ご先祖様、若い二人を導き、守り、祝福してくださいと祈りました。