まずは、3月のリストが遅れてしまい4月と合弁号になってしまい申し訳ございませんでした。
さて、少し時間があきましたが、2月始め新聞に大きく取り上げられたジンジスカンの名店「だ○ま」の脱税事件。私も最近はご無沙汰ですが、20~30代の頃は月に数回通う程のファンでした。
今でも忘れられないのが25年ほど前のある晩の事。 まだ移転前の古いお店で、常連のお客さんから「母さん」と慕われている、ふくよかな年配の女性が店を切り盛りしていた頃。 私を含めて3組ほどのお客さんが入っており、空いた席は一つ。
確か8時過ぎ頃、引き戸を開き入って来たサングラスの男性が、そこに座りメガネを外しました。 「コの字」のカウンターで、10名程で満員の小さな店は肉の焼ける音と人の会話でにぎやかでしたが、その方がサングラスを外した途端、店内の会話は途絶えました。 故いかりや長介さんでした。
店の母さんがぶっきらぼうに「また札幌に来たのかい」と言うと、「あぁ」と一言。 その後の店内は全員沈黙の中でのジンジスカンとなりました。 端の席に座った長介さんの隣は小さな男の子を連れた親子連れが座っています。 多分、この店内で1番のファンであろうその子は、長介さんと並んで座っている為に顔が見えず、ただ1人長介さんの存在に気付いていませんでした。
子供と長介さんの間に座る母親は子供に長介さんの事を教えたいのですが、お母さん自身も長介さんの隣ですから恥ずかしくて言えません。 そのじれったさが店内全員に伝わってしばらく経った頃、とうとう母親が子供に耳打ちしました。
するとその子はすっくと立ち上がり、長介さんを指さして「ママ!これ本物?」と大きな声で言ったのです。 私だけでなく緊張していた店の全員がこの一言でせきを切ったように大笑いし、ビールの追加オーダーと共にいつものにぎやかな店に戻りました。
テレビで見る姿とは違って長介さんは静かで、まさにジェントルマンといった趣。 帰りはお土産に肉を包んでもらい、またサングラスをして帰って行きました。 亡くなられて随分経ちますが、いかりや長介さんのご冥福をお祈りいたします。
さて、今月はニューワールドのピノノワール種に良い物が多く見つかりました。
まずはオーストラリア、ピカーディ社のピノ04年。 若いのですが少し枯れたような上品な味わいに、私はヴォルネ村のかなり上物を思い浮かべました。 ピノの味がここまで来ると、私は試飲をしながら必死に欠点を探して「やはりブルゴーニュ産ではない」と納得し安心した程です。 真のブルゴーニュ好きでしたら、悲しくなるので飲まない方がいいかも、と思ってしまう衝撃的なワインでした。
次はオーストラリア、デ・ボルトリ社ヤラヴァレ地区のウィンディー・ピーク ピノノワール06年。 こちらは前述のワインより2年若いので熟成香はありませんが、チェリーと樽からのチョコ風味が混じり今でも魅力十分。 両方に共通する濃すぎない果実味と澄んだ酸は、従来の新世界のピノとは比べ物にならない程洗練された出来映えだと思います。
最後はヴィラール社のチリワイン3種。 新世界は若いワインが多いですが、ここのピノとシャルドネは8年前の99年産、貴腐も02年産でキノコやアニマルなどの熟成香が豊かに広がります。 果実味は枯れ始めて少し通向きの味わいですが、古酒好きにとって熟成したワインがこの価格は見逃せません。