2018年 8月

今月は十勝に行ったお話。

2019年を目標にワイナリー開業を目指している、帯広のあいざわ農園さんへ7月に行って来ました。ここでは山葡萄系の品種を無農薬で栽培し、独自のワイン醸造に向けて準備をしています。畑に行って驚くのは、葡萄の葉の多くにポツポツと小さな虫食いの穴が見られました。畑を案内していただいている間にも、相澤さんの手は葉に着いた虫を1匹、1匹潰していますが、追い付かない数の虫がいます。それでも数日前から、この虫を食べる益虫が現れて少し気が楽になったと話していました。

さて、葡萄の木は-10度~-15度以下になると、凍害で枯れてしまいます。しかし余市など日本海側の産地は、雪が沢山積る事で雪が断熱材となって、木は低温でも越冬する事が出来ます。しかし十勝など太平洋側の産地は、冬に雪が少ない為に寒さで葡萄の木は枯れてしまいます。そこで低温に耐性のある山葡萄か、山葡萄を品種改良した品種しか栽培できません。

北海道産ワインと言えば、ケルナー、ツバイゲルト、最近はピノ・ノワールですが、こういったヨーロッパ系のワイン用品種は、十勝では越冬出来ないのです。害虫と闘いながら必死に育つ山葡萄系品種からのワインが、新しい北海道ワインの顔となる事を願いつつあいざわ農園さんを後にしました。


私は今まで余市か、岩見沢付近の農家さんしか知らなかったので、十勝ではアメリカの農業を見たような気持ちになりました。私の知る余市の農家さんの多くは4~5ヘクタールの畑ですが、多分、十勝の農家さんは50ヘクタール以上の畑を持っているのでしょう。大平原の中を車で走っていると地平線の先まで畑が続きます。そして畑の中に居るトラクターも大きいのです。

帯広に着いて、昼食は名物の豚丼。本当は豚丼発祥の店「ぱんちょう」に行きたかったですが、店の外にも人が並んでおり断念して、近所の「はなとかち」で食べましたがこちらも大満足でした。大規模な十勝の農家さんの経営が成り立ち、帯広に人や物が集まる事で街に活気が生まれ、そこに豚丼や六花亭など独自の食文化も発展したのでしょう。

その日の宿は帯広から少し離れた糠平(ぬかびら)温泉の中村屋です。ここが又とても良い宿でした。元々中規模のホテルだったこの宿を、現オーナーの中村さんが客室数を1/3以下にしてコツコツと自前で改装、工事を続けながら営業をしています。館内のあちこちにオーナーのセンスを思わせる手仕事が感じられ、有名建築家やデザイナーさんが作る箱物とは真逆の路線。お食事も地元の食材で作ったお惣菜的な味付けが心地良く、ゆったりとした気持ちで美味しく頂きました。

中村屋さんの手仕事で一番感動したのは、露天風呂。湯船の脇に1メートル程の金属の棒が置いてあり、お湯に浸かりながら棒を持ち、壁の下部にある黒いボタンをそれで押すと全ての明かりが30秒程消えます。真っ暗な湯船の中で上を見上げると、空には満天の星。安全の為に明かりは間もなく付きますが、星の美しさに惹かれ私は何度もボタンを押して夜空を眺めていました。

翌日は帯広の隣の中札内(なかさつない)にある、六花亭が運営する六花の森に行きました。こちらの施設は手仕事ではなく、プロによる計算された素晴らしい庭園でした。十勝には気の利いた手作りの宿があり、緻密に作り込まれた庭園があり、この町独自の美味しい食文化があり、この町で生まれた素晴らしいお菓子がある。人口では勝っている札幌ですが、私は十勝に対して少し羨ましい気持ちが芽生えました。


それでは今月のおすすめワインです。

仏ボルドーからはバリエール・フレール グラン・バトー ボルドー・ブラン16年。ソーヴィニヨン・ブラン種100%で造られるワインは、発酵と熟成にフレンチオークの新樽を70%使用するなど、贅沢な造りで、豊かなコクを備えています。この価格でここまで上品な樽香を感じられるワインは、そうある有るものではありません。シーフード料理、グリルしたお魚はもちろん、白身のお肉にも合います。


仏ブルゴーニュからはパトリック・ジャヴィリエ家のキュヴェ・フォルジュ13年。ジャヴィリエ家はムルソー村で何代も続く栽培農家の家系でしたが、パトリックが73年に醸造学のディプロマを取得し、翌74年より収穫、醸造を自ら行うようになりました。キュヴェ・デ・フォルジュはヴォルネイ村寄りの区画の葡萄を使用し、リッチなスタイルに仕上がっています。新樽率も適度で樽香がくどいこともなく、非常にバランスのとれた白ワインです。


ロワール地方からはパトリック・ボードアンのサヴニエール15年。低収量のシュナン・ブラン種から造られる果実味の凝縮とミネラルの豊かさを存分に感じられるワイン。畑ではビオロジックでの栽培、醸造では自然発酵、SO2の使用は最小限など人為的な介入をできるだけ避けて自然な手法でワイン造りを行う生産者です。


アルザス地方からはツイント・フンブレヒト家のリースリング種でトゥルクハイム村16年。今やアルザスだけではなくフランスを代表する白ワインの名手ツイント・フンブレヒト氏。氏の一番ベーシックなシリーズのご紹介です。リースリング種の特徴である酸味とパイナップルを感じさせる豊かな果実味が長い余韻と共に印象的です。

同じアルザスからヒューゲル社のジョンティ・アルザス16年。アルザス地方の老舗ワイナリー、ヒューゲルが造るお手頃な白ワイン。アルザスの高貴品種を組み合わせて造られたジョンティは、ゲヴュルツトラミネール種、ピノ・グリ種、リースリング種、ミュスカ種、シルヴァネール種の品種の個性を見事に調和させた逸品。熱い季節にはぴったりの爽やかな白ワインです。輸入元希望小売価格2,100円が特別価格で入荷しました。


仏シュド・ウエスト地方からは、マディラン村アラン・ブリュモン氏のシャトー・モンテュス13年。アラン・ブリュモンは85年に、かつて誰も行わなかった、タナ種80%、カベルネ・ソーヴィニヨン種20%というアッサンブラージュのシャトー・モンテュスを発売し、大きな注目を集めました。非常に濃厚で力に満ち、まろやかで滑らかな味わいのワインとなります。ブラックベリー、プラムの凝縮感にスパイスの香りが豊かに広がり、緻密で芳醇なタンニンが、上品に感じられます。ある意味、ボルドーよりもボルドーらしい強さと、きめ細やかさをもった赤ワインです。


イタリアからは北部ロンバルディア州のマスティオ・デッラ・ロッジアのスプマンテ・グラン・キュヴェ ブリュット。とっても長い商品名で申し訳ありません。暑い夏を乗り切る爽やか系スパークリングに特別価格が出ました。やや辛口でフルーティな味わいは何方がお飲みいただいても楽しんで頂け、しかもお手頃価格でお財布にも優しいのが魅力です。きっと自宅の冷蔵庫に常備したくなる逸品です。


中部ウンブリア州からはファレスコ社のメルロ・ウンブリア14年と、同ラッツィオ・ビアンコ15年。メルロの魔術師と呼ばれている醸造家リカルド・コタレラ氏がオーナーのファレスコ社の赤、白が限定・特別価格です。メルロ種はチェリーを思わせる豊かな果実味にほんのりとウッドのニュアンスが楽しめます。ラッツィオ ビアンコはメロンの果実味にフルーティな酸味が調和し、グビグビ飲んでも飽きない味わい。赤、白共にバランスの良い味わいと、お値打ちな価格でお薦めです。


スペイン中央部からは、フェルナンド・カストロ社のバルデモンテ赤ラ・マンチャ。スペインのワイン評価本『ペニン ガイド』で、2010年・2011年と2年連続5つ星の最高評価を受けた赤ワイン。高品質ながら手頃な価格のため、日本でも人気が高いワインです。複数ヴィンテージをブレンドしているのでバランスが良く落ち着いた印象。この価格でこなれた味わいが楽しめます。


スペインのお隣ポルトガルからはアレクシャンドレ・レウヴァス社のアトランティコ赤16年。アレンテジャーノ地区のこのワイナリーはコスパの高いワインを生産することで定評があり、大航海時代をイメージさせる「アトランティコ(大西洋)」と名付けられたこのワインは、世界中の様々なコンクールで金賞を受賞しています。オーク樽熟成による香ばしさがあって、果実味、酸味、柔らかなタンニンのバランスが良く、スパイシーさも楽しめます。


人気のチリからはインドミタ社のグラン・レゼルバ規格カベルネ・ソーヴィニヨン16年。インドミタの看板シリーズで、8ヶ月~10ヶ月の樽熟成からくる複雑味と熟した果実味がバランス良くまとまっています。安価でも、期待を裏切らないチリカベです。


東欧ルーマニアからはヴィル・ブドゥレアスカのヴァイン・イン・フレイム シャルドネ17年。今注目の東ヨーロッパからのしっかりとした樽感が感じられるシャルドネ種です。今年のフジヰニュース4月号のおすすめでこの2016年産を紹介しましたが、
瞬く間に輸入元で完売となって早くも2017年産が入荷しました。トロピカルな厚みのある果実味と樽風味が調和し、ニューワールドを思わせるようなリッチな味わいに仕上がっています。


次はハードリカーのお薦めで、シングル・モルト・ウイスキーのスプリングバンク10年。スコッチ・ウイスキーの中でもバランスの良さと塩っけがアクセントの人気銘柄。近年のウイスキーブームの為、入荷が年1回しかございません。お見逃しなく。


食品からは、伊シチリアでオーガニック・ワインの生産者アリアンナ・オッキピンティが自家用に作るタイムの花のはちみつ。ハーブのニュアンスを感じる複雑さはありますが、クセが強いわけではなく、どなたでも美味しく召し上がれます。処理をしていない為に結晶化していますが、ぜひ、熱を加えずに常温でヨーグルトやチーズやパンに合わせてどうぞ!


ふらのから、ワインポテトチップス。富良野の酒屋さんがプロデュースしたポテトチップスです。ふらのワインの赤をフリーズドライ化して、ポテトチップスにまぶした本物志向。しかもワイン味?これはぜひ試食したい!と富良野から取り寄せました。味わいは酸味とチーズがマッチして、なんともあとを引く美味しさです。このポテトチップスを商品化するまでに何度も試食をくり返されたそうです。ドレッシングにビネガーを加えていくような微妙なさじ加減を感じます。