今月は葡萄のお話。
葡萄にとって重要な二つの時期は、開花時期と、実が熟す8~9月の天候です。ヨーロッパも、山梨、長野も、葡萄の開花は6月上旬。しかし、春の遅い北海道では7月上旬が開花時期。この時期に穏やかな晴天が続いてくれると、おしべの花粉が、めしべに受粉し、一粒の葡萄が結実(ケツジツ)するのです。一房の葡萄は100粒程あるので、100本のめしべがそれぞれ受粉しないと、一房の葡萄にはなりません。そして750mlのワイン1本を造るには、200gほどの小振りの葡萄が5房、1キロの葡萄が必要です。
さて今年の北海道で6月末から7月上旬は、蝦夷梅雨(エゾツユ)と呼ばれる長雨がずっと続きました。この開花時期に雨や低温が続くと、花粉はめしべに付かずに流れてしまいます。すると葡萄の木は、寂しいことに実がない状態で成長します。今年の道内の農家さんは、皆さん一様に春先の長雨で土が乾かず、やきもきしていました。その蝦夷梅雨の影響で、葡萄農家は2割減~半分に収量が落ちたそうです。ただ今年の8月、9月は晴天が続き、なんとか受粉できた葡萄の実はすくすくと熟してくれたようです。
ワイン用葡萄の収穫は一般に9月後半から10月後半まで。この調子ですと、量は少ないが良質な葡萄が収穫されているようです。私は毎年、7月上旬と、10月になると、天候に恵まれるように願っていますが、最高の年なんて10年に一回あるか無いかです。厳しい年でも農家さんは、ある程度の量と品質の葡萄を仕上げるそうです。
そして醸造家はその年の葡萄を見極めて、最適な仕込みの方法で美味しいワインに仕上げます。地元産のワインを飲む楽しみの一つは、「この年は暑かったから、やっぱり濃い味わいだ!」とか、「冷夏だったのに風味が豊かなのは、皆の努力の賜物だね!」とその年の天候や、自然の息吹を感じられることです。
それと、北海道産ワインを開ける時は、出来れば一品でも北海道産の食材と一緒に合わせていただけると、更に楽しみが増えると思います。高価な毛ガニやアワビでなくても、ジャガイモや、キノコ、道産の肉や魚でもいいのです。北海道という大地の恵み豊かな土地に住んでいる事に感謝していただきましょう。