2020年 8月

7月、私は積丹に行って来ました。

皆さん、この時期はウニ丼目当てと思うでしょう。確かにウニは欲望の片隅にはありましたが、1番の目的は積丹スピリットの蒸留所見学です。この会社は蒸留器を持ってスピリッツ(高アルコールの蒸留酒)を造っていますが、このお酒に風味付けをする為のボタニカル(木の実や、ハーブ類)の多くを自社畑で栽培しているのです。

通常ジンの蒸留所では、高アルコール原酒に購入したボタニカルを数種類入れ、それを蒸留してジンを造ります。しかしここでは、まず自社農場のボタニカル・ガーデンを拓き、4年間かけてハーブ類を自社栽培と乾燥や熟成をさせて、5年目の今年に蒸留器を設置して酒造りを始めました。例えて言うならカレーを作るのに、クミンを始めとする香辛料の元となる薬草類を育て、その葉や実を乾燥して、香辛料を作ってから、カレーを作り始めるような事です。

さらに通常のジンでは、ジュニパーベリー(西洋ねず)の実を主体(7~8割程)に、更に10種類ほどのボタニカル類を加えたミックス・ハーブを作り、アルコール原酒に入れて風味を付けてから蒸留します。しかしここ積丹では、輸入に頼るジュニパーベリー以外で、味わいの鍵となる地元のボタニカル(赤エゾ松の新芽、オオバコロモジ、キハダの実、エゾヤマモモ、他)を、その各品種に適した方法で個別に蒸留し、単一ボタニカルのジンを7種(試験蒸留では20種類を製造済)造ります。その単一品種のジンを、ジュニパーベリー主体のジンにブレンドする方法で製品を造ります。

分かりやすく言うと、全部のハーブをごった煮にせずに、各ハーブのエッセンスを作り、それを香水のブレンダーと同じ手法でお酒に仕上げるのです。こうして出来た積丹ジン「火の帆(ホノホ)・KIBOU(キボウ)」を味わった時、私はジンというカテゴリーを超えた、全く新しいお酒の誕生を感じました。フランスかぶれ的に言うと、命の水「オー・ド・ヴィー」か、森の精「エスプリ・ド・ラ・フォレ」といった感じでしょうか。

「急がば回れ」と言う言葉は知っていても、実際には中々出来ない現実の中で、こうして手間と時間をかけて造られたお酒には凄まじい力を感じました。さて、虫に刺されながらハーブ農園を見学し、試飲を終えて蒸留所を後にした私と家内は、10年以上前に宿泊した「なごみの宿いい田」さんに向かいました。

積丹スピリットの社長さんに近所でお薦めの宿を伺うと、「いい田」を紹介されたので今回も予約を入れました。

あとはお風呂に入って、ごはんを食べるだけ。ここは民宿的な宿ですが、料理が凄いのです。ススキノの和食店で修業された息子さんが作る魚介のコース料理、そして2色のウニはその甘さと美味しさに私と妻はしばし無言で食べ続けました。事前にワインの持ち込みをお願いして、持ち込み料を払い、グラスも持参しました。

持参したワインは白がドイツのリースリング種のトロッケン(辛口)タイプと、赤は少し熟成したカリフォルニアのピノ・ノワール種。始めはこの料理には白が合うとか、赤の方が、、と話していましたが、正直、ウニが出て来た後の事はあまり覚えていません。

とにかく今の積丹には、私の心を狂わす物がありました。時期は限られますがウニ。そして、おばあちゃん家に泊まった様なしつらえと、素晴らしい食事の「いい田」。更に、新しい積丹産のジンは9月末頃には当社に再入荷する予定です。

私が命の水「オー・ド・ヴィー」と感じた、強烈で風味豊かなスピリッツを味わってみませんか。